宝くじを買う心理。単なる錯覚か、それとも合理的か?
LIMO / 2018年12月23日 20時20分
宝くじを買う心理。単なる錯覚か、それとも合理的か?
確率を計算するより夢を買うもの
宝くじを買う人の心理を、「期待値」と「錯覚」と「夢」の面から久留米大学商学部の塚崎公義教授が考察します。
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年末ジャンボ宝くじの販売が終了し、抽選が迫っています。人気の売り場には長い行列もできていたようです。確率から計算すると、宝くじを買うことは決して得ではないのですが、なぜ宝くじは人気があるのでしょうか。考えてみましょう。
期待値ゼロなら、全員の損得合計がゼロになるはず
期待値という言葉をご存じでしょうか。大胆に簡略化すると、当たる確率と、当たった時の儲けを掛け合わせた値のことです。「コインが表なら100円もらえる」というゲームの期待値は50円ですから、ゲームの参加費用が50円であれば、参加してもしなくても、計算上の損得は同じです。
あとは、賭け事が好きな人は参加すれば良いし、嫌いな人は参加しなければ良い、という好みの問題があるだけです。
今ひとつの考え方は、参加者全員の損得がゼロになるか否かです。大勢が50円払って参加すれば、半分は勝って100円もらい、半分はゼロでしょうから、参加者全員の損得はゼロになります。それならば、参加費がゲームの期待値どおりだった、と考えて良いでしょう。
宝くじの期待値はマイナス
宝くじの期待値はマイナスです。そんなことは、調べなくてもわかります。宝くじを発行している会社は、宝くじを売って得た代金の中から当選者に賞金を支払うだけではなく、社員の給料なども支払っているわけですから。
つまり、宝くじを買っている人全員の損益を合計すれば、確実にマイナスなのです。期待値はマイナスです。それなのに、なぜ宝くじを買う人がいるのでしょうか。中には「自分は他人より運が良い」と信じている人もいるでしょうが、多数派ではないでしょう(笑)。
おそらく、2つの要因があるのだと思います。「錯覚している」か「夢を買っている」か。
小さな確率は大きめに感じる傾向あり
人間は、とても小さな確率だと、現実よりも大きく感じるようにできているのだそうです。行動経済学ではこれを「確率加重関数」と呼んでいます。たとえば飛行機は、統計的にはかなり安全なのに、多くの人が怖いと思っています。それは「事故が大きく報道されるから印象に残る」だけではなく、「実際の事故の確率より高く感じているから」なのでしょう。
「100万分の1の確率で命を落とす、危険な仕事がある。引き受けてくれるか?」と言われたら、とても怖いですね。相当高額な謝礼が約束されないと、引き受けたくないですね。
では、「100万分の10の確率で命を落とす、危険な仕事がある。引き受けてくれるか?」と言われたら、やはりとても怖いですね。でも、上記の10倍も怖いわけではなく、要求する謝礼も10倍にはならないでしょう。
さらに、「今の仕事で命を落とす確率は100万分の500だが、さらに危険な仕事を引き受けてくれるか? 命を賭す確率は100万分の501だ」と聞かれたら、500も501も似たようなものだ、と感じるかもしれません。
同様に、「確率100万分の1で1億円が当たる」と言われると、何だか結構当たりそうな気がするのでしょう。だから、「人は錯覚で宝くじを買うのだ」ということは言えそうです。
保険に関しても同様です。「家計の大黒柱が突然亡くなったら妻子が路頭にまよう」と考えて生命保険に加入するのが普通です。現役の大黒柱が突然亡くなる可能性は、実際にはそれほど高くないのに、本人は実際以上に高いと感じている、ということなのでしょう。
合理的理由も、もちろんある
上記を読むと、「宝くじを買ったり生命保険に加入したりするのは愚かなことだ」と感じるかもしれませんが、そんなことはありません。合理的な理由もあるのです。
宝くじの場合は、「1億円当たったら大金持ちだ」と「ワクワクする」ことでしょう。生命保険の場合には「自分が死んだら家族はどうなるのか」といった「ハラハラ」が消えることでしょう。
オリンピックなどで日本選手を応援する人は多いですよね。応援したから勝つというわけではないですし、勝ったからといって自分の利益になるわけでもないわけですから、「経済合理的」には応援するのは意味のない行為なわけです。
高校野球でも、「田舎の弱小高校」が「横綱」に挑むとなると、弱小高校を応援する人は多いですよね。負けてがっかりする確率が高いのに(笑)。しかし、応援しているとワクワクします。
弱小高校が負けても、「勇気と感動をありがとう」と考えれば良いのです。宝くじが外れた時も同じです。「ワクワクする夢が持てた時間をありがとう」と考えれば良いのです。
人生は、金のためにあるわけではありません。幸せになるためにあるのです。日本選手や弱小高校を応援している時のワクワクした気持ちが持てるなら、経済合理的でない行為も人生としては合理的なのです。
そう考えれば、数百円でワクワクできる宝くじは、人生の幸せに貢献している合理的な行為なのです。あとは、「株式投資の方がワクワクできる」のか「高校野球の応援の方がワクワクできる」のか、個々人の好き好きですから。
保険も同様ですね。ハラハラしながら暮らすのは嫌ですから、保険料を払ってハラハラから解放されるのは、合理的なことですね。
加えて、万が一の場合には、宝くじならば豊かになれるし、保険の場合には、「とても困った事態を避ける」ことができます。もちろん、これも立派な理由です。
特に保険の場合には、生命保険に加入しないと、万が一の時に残された妻子が路頭に迷うかもしれません。火災保険に加入しないと、万が一の時に住む家がなくて路頭に迷うかもしれません。そうしたリスクを避ける、という理由も重要ですね。
余談ですが、ということは、「自分が死んでも妻子が路頭に困らない」人は、生命保険に加入する必要がない、ということですね。ハラハラする必要がそもそもないわけですから。そこは慎重に判断したいものです。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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