今年も日本経済は順調な回復が続くと期待する理由
LIMO / 2019年1月1日 11時15分
今年も日本経済は順調な回復が続くと期待する理由
景気回復が実感できない人も多いなか、久留米大学商学部の塚崎公義教授は、今年の日本経済に楽観的です。
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あけましておめでとうございます。この挨拶は、暗い年でも明るい年でも交わされますが、筆者は今年も日本経済の順調な回復が続くと考えているので、明るい気分で申し上げています。
景気は自分では方向を変えない
経済学の教科書には景気循環という言葉が載っていて、在庫循環や設備投資循環などが説明されていますが、そうした循環は、昨今の経済では実際には見かけません。
経済がサービス化する以前は製造業のウエイトが大きかったですし、在庫管理技術も未発達だったので、在庫循環はあったのでしょうが、今は事情が異なります。かつては「設備投資が一度盛り上がると、10年後に一斉に更新投資が盛り上がる」というようなこともあったのでしょうが、今ではコンピューターのように更新投資のサイクルが短いものも多いので、そうしたことは起きにくいのです。
景気が回復すると、物が売れるので企業が生産を増やし、そのために労働者を雇います。すると給料を受け取った「元失業者」が消費をするので、物がいっそうよく売れるようになります。企業は増産のために新しい工場を建てるので、設備機械が売れます。設備投資資金は銀行が喜んで貸すでしょう。景気回復時は借り手企業が黒字ですから。
今次の局面においては、労働力不足が省力化投資を積極化させていることが注目されます。たとえば安いアルバイトに皿を洗わせていたの飲食店が、アルバイトが見つからないので自動食器洗い機を購入し始めたのです。こうした動きが本格化すると、景気回復も力強さを増していくと期待されます。
このように、景気が自分では方向を変えず、景気拡大時にはさらに拡大していく力が働くとすると、今後の景気を考える上では外から景気の方向を変える力が働くか否かが焦点となります。
国内に景気を腰折れさせる材料は見当たらず
政府日銀が景気を腰折れさせるとは思われません。日銀は緩和姿勢を維持するでしょう。消費増税の影響は気になりますが、前回(5%→8%)の時よりも増税幅が小さい上に、各種景気対策も充実しているようなので、影響は限定的だと期待されます。
オリンピック関連需要は一巡するでしょうが、労働力不足によって工事着工をオリンピック需要一巡後まで延期しているプロジェクトも多いと聞きますので、建設需要等の落ち込みも限定的でしょう。
国内でバブルが発生しているとも思われませんから、国内でバブルが崩壊した後の平成バブル不況のようなものも、予想されません。
したがって、国内要因で景気が悪化することは考えにくいでしょう。問題は海外ですが、これもメインシナリオとしては「海外経済が減速したとしても、日本経済への影響は限定的」といったところでしょう。
中国経済の減速は見込まれるが、過度な懸念は不要
米中貿易戦争は、冷戦の様相となりつつあります。米国は中国との覇権争いに本気で取り組み始めており、「肉を切らせて骨を断つ」覚悟を固めつつあります。したがって、関税引き上げ等々は今後も続くでしょう。それにより、中国経済が減速することは不可避だと思われます。
もっとも、米国が中国からの輸入を他の途上国からの輸入に振り替えるとすれば、中国の景気が悪化した分だけ他の途上国の景気が拡大しますから、日本はその途上国に輸出を増やすことができるでしょう。
中国の景気が悪化すれば、中国に進出している日本企業は困るでしょうが、彼らの中国工場は中国企業なので、工場の生産が激減しても失業するのは中国人です。日本の親会社の利益が減ることは避けられませんが、それが日本の景気に与える影響は限定的でしょう。
今まで日本企業は海外で大いに稼いできましたが、その利益は内部留保されるだけで日本国内の設備投資や賃上げに用いられたわけではありません。そうであれば、その流れが逆転しても、日本の景気への影響は懸念するに及びません。
そもそも、米国の景気に比べて中国の景気の重要性は高くない、ということも重要です。第一に、日本の対中輸出の金額は大きいですが、金額には、中国が米国に輸出する製品に組み込まれる心臓部の部品が大量に含まれているのです。
その部分は中国の景気には影響されません。今回は、米国が中国からの輸入品を他の途上国からの輸入に振り替えるでしょうから、日本からの部品輸出が他の途上国向けに増えるだけに終わるでしょう。
それから、米国の景気が後退すると金融緩和でドルの金利が下がり、ドル安円高になり、日本の対世界輸出が打撃を受けますが、中国が金融緩和をしてもそうした影響は受けませんから。
欧米経済のリスクを指摘する声は多いが・・・
米国については、景気後退が近いという論者も多いのですが、米国の中央銀行であるFRBが利上げを続けているということは、FRBは景気の先行きに自信を持っているということですから、メインシナリオとしては米国の景気拡大は今年も続くと考えて良いでしょう。
長短金利(実際には2年物と10年物の金利)が逆転間近であるということを論拠としている弱気論者も多いのですが、長短金利の逆転は「債券市場の参加者が景気後退を予想している」という以上の意味を持たないので、「自分はFRBより債券市場の参加者の方を信じる」というだけのことです(笑)。
欧州については、英国のEU離脱が仮に何の協定も結べないまま実施されてしまったら、結構な混乱が生じかねない、と言われています。もっとも、筆者が知る限りでは、「具体的に生じる大混乱のメカニズム」の説明を見たことがありません。これについても、本当に心配ならばECB(欧州中央銀行)が金融緩和の出口に向かわずに半年間様子を見るはずですが、そうしていないことを考えると、ECBもそれほど心配していない、ということなのでしょう。
したがって、筆者はFRBとECBの予測を信じることとします。筆者の予想が間違えた場合には、読者各位におかれましては筆者ではなくFRBとECBを批判して下さいね(笑)。冗談ですが。
株価暴落で景気が悪化することは考えにくい
昨年末、世界的に株価が暴落しました。株価は景気の先行指標と言われますから、これで世界の景気が悪化すると考えた読者も多いかも知れません。しかし、筆者はそうは思いません。
株式市場参加者が景気の悪化を予想して株を売ると、先に株が下がり、後から景気が悪化しますから、結果としては株価が景気に先行したことになります。だから株価は景気の先行指数なのです。
しかし今回は、株式市場参加者が景気悪化を予想して株を売ったことで株価が暴落したとは思われません。年末に米中経済戦争が急に激化したわけではありませんし、それ以外の景気悪化材料も特に見当たりませんから。
株価の下落が景気を悪化させる力は、皆無とは言いませんが、決して強くありません。特に日本では個人投資家の株式保有が少ないので、株価が下がったから消費を減らすという人は少ないでしょう。
企業経営者も、株価が下がったから設備投資を減らすとは考えにくいです。設備投資は売上見込み等に基づいて決定されるものですから。
リスクへの目配りは必要
以上、メインシナリオとしては楽観的である旨を記してきました。その根拠として、景気の現状が良好であることを記しましたが、その点について詳しくは拙稿「第二段階を迎えて楽しみなアベノミクス景気、その質的変化とは?(https://limo.media/articles/-/8836)」を御参照下さい。
もっとも、1年前と比べると、筆者の楽観度合いはかなり後退しています。というのは、過去1年間で海外経済に複数のリスクの種が発生しているからです。
メインシナリオと考えるわけではないけれども、リスクシナリオとして目配りをしておくべき種としては、中国経済の予想以上の落ち込み、欧州の政治的な混乱が経済的な混乱につながるリスク、米国の信用収縮に伴う景気後退、といったことが挙げられるでしょう。
まあ、リスクシナリオについて元旦早々考えるのも何ですから、これについては次回の寄稿で論じることにしましょう。今回は、「メインシナリオは楽観的なので、過度な懸念は不要」というところで終えておきますので、心穏やかに正月をお過ごしください(笑)。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>
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