老後のお金の変化、最低限知っておくべきこと
LIMO / 2019年1月4日 20時20分
老後のお金の変化、最低限知っておくべきこと
「もしもの時」に備える基礎知識
「最期の時間は、海の見える施設で過ごしたい」
高齢になった親が、あるいは仕事を引退したパートナー(配偶者)がそんなことを言い出したらどうでしょう? 「自分で貯めてきたお金なんだし、好きに使って人生をまっとうしてほしい」と思うかもしれません。一方で、「老後資金は足りるのか?」と心配になる人もいるでしょう。
自分らしい最期を迎えたいというのは、誰もが願うこと。しかし、『もしもの時の「終活・相続」バイブル』の著者で、新宿総合会計事務所グループ代表の瀬野弘一郎氏は「老後のお金の流れを把握していない人が対策を誤って、望みを叶えられなくなってしまうケースもある」と指摘します。同書をもとに、最低限知っておくべき「老後のお金の変化」について瀬野氏に解説してもらいました。
老後に「入ってくるお金」と「出ていくお金」
一般的に、老後に入ってくるお金・出ていくお金には、次のようなものがあります。
▼入ってくるお金
・公的・私的年金
・貸アパート・貸マンションの家賃収入、貸地の地代収入
・有価証券の配当や売却で得られる収入
・(働き続けていれば)給与収入
・満期になった生命保険金 など
▼出ていくお金(生活費を除く)
・高齢者施設への入居金及び月々の費用
・通院・入院する病院への支払い
・社会保険料の支払い など
これらのうち最低限知っておいてほしいのが、入ってくるお金である「公的・私的年金」と、出ていくお金である「社会保険料」についてです。
社会保険には、「公的年金制度(国民年金、厚生年金)」「公的医療保険(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療保険)」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5種類があります。ただ、このうち老後のお金に関わってくるのは、
・公的年金制度
・介護保険
・後期高齢者医療保険
の3つです。それぞれ順番にポイントを説明していきましょう。
年金だけでは「老後資金」は賄えない
まず、知っておいてほしいのは、年金だけでは老後資金は賄えないということです。「政府統計 年金制度基礎調査 平成28年」によると、65歳以上の夫婦世帯における収入と支出の1カ月あたり平均額は、次のようになっています。
・収入額 34万2,833円(年金含む)
・支出額 24万6,000円
公的年金の1カ月あたりの平均額が23万8,083円なので、多くの高齢者が年金収入だけでは生活費が足りず、他の収入で賄っていることがわかります。老後の生活費の収入源として考えられているものの上位は次のとおりです。
1位 公的年金(79.5%)
2位 就業による収入(44.7%)
3位 企業年金、個人年金、保険金(39.0%)
4位 金融資産の取崩し(27.5%)
※ 出典:「家計の金融行動に関する世論調査〈2人以上世帯調査〉平成29年」より
収入源を年金に頼る割合が多い一方で、元気なうちはできる限り働き続けて収入を確保する考えの人も増えています。また、早いうちから計画的に、個人年金や保険金などに金融資産をシフトすることも必要と言えます。とはいえ、年金は老後の主たる収入源であることに変わりはないので、もらえる年金の額はきちんと把握しておきましょう。
実際、年金の受給開始を遅らせるとトクなの?
ところで、「トクをする年金のもらい方」はあるのでしょうか? 年金の受給開始は65歳からですが、受け取る時期を遅らせることもできます。その場合は、増額された年金額を生涯受け取ることができます。いくら増額されるかは、「繰り下げた月数×0.7%」で計算します〈別図版参照〉。
「受給時期を遅らせたほうが増額されるからトクだ」と思われるかもしれませんが、65歳からもらった人と70歳からもらった人の差がなくなるのは82歳です。82歳より長生きするとわかっていれば、「繰り下げたほうがいいですよ」とアドバイスできますが、それは誰にもわかりません。
65歳以上はもれなく「介護保険」の被保険者に
「社会保険」の一つである「介護保険」の保険料は、すべての人が40歳から支払います。そして65歳以上になると、すべての人が「介護保険」の第1号被保険者になります(40~64歳までは第2号被保険者)。年金をもらっている場合、保険料は年金から天引きされます。
第1号被保険者が「要介護認定(要支援認定)」を受けると、その原因にかかわらず、介護サービスを利用することができます。「要介護認定」とは、どのくらい介護サービスを必要としているかを判断するものですが、これは病気の重さと一致するとは限りません。たとえば同じ認知症の場合でも、寝たきりの重い病状の方と身体が元気な方では、後者のほうが徘徊などで介護の観点ではより人手がかかる場合もあるからです。
「要介護認定」には、介護サービスの必要度に応じて7つの区分があり、区分によって受けられるサービス内容や支給限度額は変わります。また、介護サービスを受けるときの費用の一部は自己負担になりますが、負担額の上限は世帯の所得によって決まります。
75歳からは「後期高齢者」、診療負担は1割に
75歳以上になると「後期高齢者」となり、「社会保険」の一つである「公的医療保険」のなかでも「後期高齢者医療保険制度」の適用を受けることになります。ただし、65歳以上75歳未満の人でも、一定の障害があれば対象になります。
「後期高齢者」になると、病院診療の自己負担は1割になります。ただし、現役並みの所得がある人(課税所得が145万円を超えている場合)は3割負担となります。
保険料は、介護保険と同じように年金から天引きされます。金額は都道府県で決められていて、それまでの健康保険の保険料より高くなる可能性もあります。また、「健康保険」では、被扶養者には保険料の負担はありませんでしたが、この制度では、被扶養者だった配偶者も保険料を負担する必要があります。
「高齢者のお金事情」は、現役時代とは当然ちがってきますし、そこまで築いてきた資産によっても千差万別です。親やパートナーが、あるいは自分自身がまだ元気に働けるうちに、「このあと収支にどのような変化があるのか」をきちんと把握しておき、それに応じた対策を考えておくことが大事なのです。
■ 瀬野 弘一郎(せの・こういちろう)
新宿総合会計事務所グループ 代表、税理士、行政書士。明治大学法学部卒業後、同大学院法学研究科博士前期課程終了。その後、三輪公認会計士税理士事務所入所。1987年3月税理士登録。1995年1月に新宿総合会計事務所開設。税務のことにとどまらず、ワンストップで法律や経営に関することを相談できる会計事務所として、日々お客様のニーズに応えている。
(https://www.amazon.co.jp/gp/product/4295402524/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4295402524&linkCode=as2&tag=cmpubliscojp-22&linkId=b88d351c832a6a9f8abb47f6d291b54f)
瀬野氏の著書:
『もしもの時の「終活・相続」バイブル(https://amzn.to/2Ac9X6o)』
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