日本人の優位性が消えていく理由〜親日国ベトナムでも薄れる関心
LIMO / 2019年1月26日 10時0分
日本人の優位性が消えていく理由〜親日国ベトナムでも薄れる関心
個人のスキルでしぶとく生きる時代へ
海外で仕事をしていて「日本人で本当に良かった」と思うのは、世界最強パスポート(注1)と日本人に対する漠然とした信頼感です。しかし、最近は親日国の多い東南アジアでも、その2点以外はあまりアドバンテージを感じられません。
注1:「日本のパスポートが世界最強、シンガポール抜きトップに(https://www.cnn.co.jp/travel/35126762.html)」(CNN)
平成とは日本経済の没落の時代
私は平成2年4月に社会人生活をスタートしましたので、職業人生を振り返れば、「平成」とはどんな時代だったかという話につながります。一つ象徴的な数字をあげるとすれば、やはり名目GDP(米ドル建て)の推移でしょう。
平成2年度の名目GDPは3兆1,328億ドル、平成30年度(IMF推計)は5兆706億ドルとなっています。平成6年度には4兆9,070億ドルでしたので、日本経済の長期停滞が見て取れます。お隣の中国をはじめ高い経済成長を達成する国が多い中、一人負け状態の日本は世界における経済的地位が急降下しています。
デフレが元凶でしょうが、日本人は一体何を間違い続けてきたのでしょうか? よく人口減少と言われますが、総人口は平成2年度1億2,328万人、平成32年度推計は1億2,410万人 と、ほとんど変わりません(注2)。
注2:総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc111110.html)
一つの背景には、昔はうまく機能していた日本的制度の裏の方、つまり官僚支配、計画経済型自由主義経済、日米同盟が劣化したことがあるかもしれません。
いつの間にかアベノミクス祭りも終焉したようですし、政治家や官僚が主導する東京オリンピックや大阪万博やクールジャパンという空騒ぎはともかく、1980年代末から開業率が廃業率を下回る状況が続き、もはや経済活性化の処方箋は限られてきたようで心配です。
ビジネスの現場では生産性向上が鍵とされていますが、個々人が生産性(創出価値/投入時間)を上げているか反省すべき面もあるかもしれません。知的生産に従事するホワイトカラーは本当に価値を生んでいるか、仕事は真面目で丁寧だが価値のない仕事をたくさんやってはいないか等々、改善の余地はあるでしょう。
日本型経済システムや日本人に対して薄らぐ関心
結果、平成の経済的停滞に甘んじる日本から新興アジアに来た人間としては、ここ10年間ほどで日本型経済システムや日本人に対する関心が薄らいできているような気がしてなりません。
2001年以降、時折、日本政府のODA予算を活用した金融・産業振興関連の調査・コンサルティング案件に従事してきたのですが、途上国政府やカウンターパート機関(現地中央銀行や金融機関等)の感覚が変わってきたようにも感じます。
以前は、高度経済成長を実現した日本型産業振興モデル、中小企業施策、金融政策、銀行審査モデル等々に関する詳細な説明を求められ、それに真摯に答えることで喜んでいただいたと記憶しています。
日本の政策・施策が素晴らしかったゆえに日本経済が発展できたという一種のバイアスがあったようにも感じますが、それはさておき、今、平成の日本経済の停滞を見ると、それほどでもなさそうだと思われているようです。もはや日本での経験や知識が以前ほど価値を持たなくなってきています。
親日国の代表格ベトナムですら変化の兆し
一つの例として、今月、4年ぶりに訪れたベトナムの状況についてお伝えします。
今月10日、シンガポール拠点のグローバルな金融情報プロバイダーであるThe Asian Banker(http://www.theasianbanker.com)主催による「The Future of Finance(http://forums.theasianbanker.com/thefofvietnam2019)」というイベントがベトナムのハノイ市で開催されました。
参加者は地場金融機関の経営陣・中堅幹部・デジタルバンキング担当者、国内外のIT企業・フィンテック企業、ベトナム金融当局等、約200人を超えました。
私は当日、パネリストとして登壇し、また前日は中堅幹部銀行員向け1日ワークショップを担当してSMEバンキングにおける人工知能/機械学習/データアナリティクス等の活用について幅広く議論しました。
やはりベトナムにも「デジタル革命」の大きな波が迫ってきているようです。金融業界ではフィンテックに象徴されるように、他に先んじて、いわゆる破壊的技術による産業構造の破壊が進行していく気配がありました。
さて、このようなイベントへの参加を通じて、ベトナムのような親日国ですら日本や日本人への関心が薄れている兆しを感じました。理由は以下の2点です。
第一に、タイ同様、日本の製造業・裾野産業が集積してきたベトナムでも、日本の経済発展モデル、途上国で一般に適用されてきた「雁行型経済発展モデル」を語ってもベトナム人の心に響きません。
産業革命以来の大変革となるデジタル革命の波の中、ベトナムでも破壊的技術が既存の枠組みを壊し、オープンイノベーションが浸透して予測不能なビジネス環境に突入しようとしています。ベトナム人は、もはや日本の古い産業政策の理論や経験はあまり役に立たないことをよく知っています。
また、国としては社会主義国家なのですが、ベトナム人は、イノベーションを起こし、マーケットを創造し、経済のパイを広げるのは起業家であって公的セクターではないことをよく理解していて、日本の「計画経済型自由主義経済」(政府が新たな市場創出を先導できるという錯覚)を引きずった発想では議論が噛み合いません。
第二に、ベトナムの多くの起業家や金融業界の皆さんはグローバルネットワークとのコネクションを熱心に求めています。しかし、デジタル革命の波に乗り遅れた日本にはデータサイエンティスト人材は少ないですし、ベトナム人の期待に応えて最先端の経験知をフィードバックしてくれる日本人も少ないとみられているようです。
今回のイベント会場でも、欧米やアジアのフィンテック・スタートアップ企業が集結していましたが、日本人は私以外一人もいませんでした。
今、ベトナムは旧正月(テト)前ですので、ちょうど1年を振り返り翌年に思いを馳せる時期です。
今回のワークショップでの私のテーマの一つは中小企業向け信用スコアリングモデルの構築におけるAI等の活用でした。今は第3次AIブームとも言われますが、機械学習のテクニックを使う場合、ざっくり言えば、皆さんが知っている統計解析・重回帰分析における説明変数/被説明変数が、機械学習における素性/教示データのようなものです。
まだ、素性として何が重要で何に着目すべきかを決め素性設計・モデリングを作るのは人間なので、今のところ私の経験知も少しは役に立ちます。
ただ、深層学習のテクニックを駆使する世界では、モデルを作ること自体を機械がやるわけで、いったんモデルができてしまうと、人間がやることは、なぜそのようなモデルとなったのかと考えることになるかもしれません。私もそのあたりがブラックボックス化しないよう勉強していかなければなりませんし、未来の金融コンセプトについても模索を続けていこうと考えています。
また、もし途上国の金融・産業政策立案を支援するような機会があれば、日本での昔の経験や理論だけを適用して「昔取った杵柄」にならないよう、デジタル革命の波、オープンイノベーション、様々な産業ドメインにおけるAI活用等、世界の新しい事象に関する理解を深めつつ、謙虚に途上国の方々と対話していきたいと思います。
おわりに
ふと耳にした日本の歌手、竹原ピストルの「オールドルーキー(https://www.youtube.com/watch?v=KqLGS6mJ-4A)」の歌詞が心にしみます。
「積み上げてきたもので勝負しても勝てねえよ、積み上げてきたものと勝負しなきゃ勝てねえよ。必要なのは走り続けることじゃない、走り始め続けることだ。」
この歌を聞きながら、東南アジアの片隅で日本人ゆえのアドバンテージをきっぱり諦め、個人のスキルをアップデートしながら、オールドルーキーの気持ちでしぶとくやっていこうと思います。
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