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知らないと恥ずかしい「株価は美人投票」の意味

LIMO / 2019年1月27日 20時15分

知らないと恥ずかしい「株価は美人投票」の意味

知らないと恥ずかしい「株価は美人投票」の意味

「株価は美人投票だ」と言われます。聞いたことはあっても意味はわからない、という人も多いようなので、久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。

ケインズ時代の美人投票は今と違う制度だった

「株価は美人投票だ」というのは、経済学者ケインズの言葉です。これだけを聞いて意味がわかる人は、おそらく皆無だと思います。それは、当時の美人投票が今と異なるものだったからです。

今の美人投票は、審査員が候補者の中から美人だと思う候補に投票し、最多得票者がトロフィーをもらって終わりですが、当時の美人登場は優勝者に投票した審査員も商品がもらえたのです。

読者がケインズ時代の審査員だったら、何を考えて投票しますか? 自分はAが美人だと思うが、Bが登場した時に周囲の審査員が拍手をしたとします。Aに投票しても何ももらえませんが、Bに投票すれば商品がもらえるかもしれません。

そうだとすれば、自分が美人だと思う候補に投票するより、他の審査員が美人だと思っていそうな候補に投票すべきです。さらに言えば、美人か否かではなく、他の審査員が優勝しそうだと考えている候補に投票すべきだということになります。

場合によっては「Cが審査員に賄賂を贈ったから、Cが勝つらしい」という噂が流れるかもしれません。そうした噂が流れると、審査員たちはCの優勝を予想してCに投票するでしょうから、本当にCが優勝する可能性が高くなるでしょう。

短期売買ならば真実より噂が重要かも

さて、読者がCの友人で、Cが賄賂を贈っていないことを知っていたら、どうしますか? やはりCに投票すべきですね。自分以外の審査員が誤った噂を信じてCに投票するならば、Cが優勝し、Cに投票した審査員が賞品をもらえるからです。

このことは、「真実を知ることよりも噂を探ることが重要だ」ということを意味します。壇上の候補者を眺めていても賞品はもらえないのです。同様に、株を買うときに会社の決算書を眺めていても儲けることは難しいのです。

さて、著名な経済評論家が有料ニュースレターを出すとします。「値上がりしそうな銘柄10選」を有料会員に送り、翌日一般公開するとします。有料会員は、明日になったら値上がりする可能性が高い銘柄を今日のうちに知れるわけですから、代金が高くてもニュースレターを購入したくなるはずです。

ここで重要なのは、「明日になったら公開される」ということです。あるいは「著名人がニュースレターでこう書いている」という噂が広まることでも良いでしょう。著名経済評論家が予想したことを永遠に有料会員だけしか知らなかったら、上がらない確率も結構ありますが、発表すればそのこと自体が株価を値上がりさせてしまうわけですから。

アベノミクスの株高も当初は美人投票だった

2012年、衆議院の解散が決まった瞬間から、日本の株価は上昇を始めました。まだ民主党政権が続いているのに、です。それは、「総選挙の結果、自民党が勝ち、安倍晋三内閣が発足して大胆な金融緩和をするだろう」と投資家たちが考えたからです。

「大胆な金融緩和をすれば、大量の資金が世の中に出回り、株価が上がるだろうから、今のうちに株を買っておこう」と投資家たちが考えたのです。

じつは、銀行出身の筆者は、大胆な金融緩和をしても資金が世の中に出回らないことを知っていました。日銀が銀行の金庫に札束を置いていっても、銀行は貸出先を見つけることができないので、札束をそのまま日銀に送り返して預金(銀行が日銀に持っている預金口座は準備預金と呼ばれます)してしまうことを知っていたからです。

しかし筆者は、株を買いました。「銀行員ではない投資家たちが世の中に資金が出回ると信じて株を買うだろう。そうなれば株価は上がるだろう。その前に買っておこう」と考えたからです。

こうして、世の中に資金が出回ると考えた人も出回らないことを知っていた人も株を買ったので、株価が大幅に上昇した、というわけですね。

長期投資は美人投票ではないので要注意

以上のように、株の短期売買を行う際には美人投票の考え方が重要ですが、長期投資ならば話は違います。人の噂も75日ですから、10年保有するつもりで株を買うならば、人の噂を探ることは無意味です。それより決算書等を眺めて「10年後も利益を出し続けている会社か否か」をしっかり判断しましょう。

あるいは日本株の投資信託を購入すべきか否かを検討する際には、10年後も日本経済は元気で日本企業がしっかり稼いでいるか否かを予想しましょう。

株式投資と一言で言っても、短期売買の場合と長期投資の場合では、全く考えるべきことが違うのだ、ということはしっかり覚えておきましょう。

余談:筆者が株価の見通しを聞かれても答えない理由

筆者に株価の予想を聞く人がいますが、筆者は答えません。筆者は、会社の決算書を分析したり日本経済の景気を予想したりすることはできますが、株式市場で流れている噂を知れる立場にありませんから、美人投票の世界で株価を予想することは難しいのです。

というのが模範的な答ですが、「不真面目に見えても実は真面目な答」もあります。「筆者にそんなことがわかるのだったら、筆者はもっと高級なスーツを着ているはずです」「今の株価は、売り注文と買い注文の数が一致しているから今の株価なのです。つまり、プロの半分は値上がりを予想して買い注文を出しており、プロの半分は値下がりを予想して売り注文を出しているわけです。そんな時に筆者の予想を聞いても役に立ちませんよ」というものです。

そして、実は本心は別のところにあります。筆者が株価の見通しを答えたとして、それを聞いた人が筆者の予想を信じて株を買ったとします。儲かったら「自分の株価予想能力は素晴らしい」と思いますから筆者に感謝してくれることはないでしょうが、外れたら「塚崎のせいで損をした」と思って恨まれることはあるでしょう。それなら、何も言わない方が得ですよね。

必要があれば「私は最近株を買いました」「私は最近株を売りました」ということは言いますが、「あくまでも投資は自己責任でお願いします」と付け加えることは当然ですね。

本稿は以上ですが、日銀の金融緩和に関する拙稿『黒田緩和を偽薬だと気づいていない人に驚く(https://limo.media/articles/-/4977)』も併せてご覧いただければ幸いです。

なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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