シェール革命で米国の地位はより強大に
LIMO / 2019年1月24日 6時0分
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シェール革命で米国の地位はより強大に
原油生産首位に躍進、基礎素材制覇への道も
拙著で恐縮だが、2012年から2013年にかけて、米国のシェールガス革命をテーマに2冊の本(『シェールガス革命で世界は激変する』(長谷川慶太郎氏との共著)および『図解 シェールガス革命 1時間でスピード解説!』)を書いた。発売後の反応などを見るに、やはりシェールガスへの注目度は高かった。これらの中で中東やロシアなどの資源国が急速に凋落し、日本企業には追い風が吹くことを指摘したが、幸いなことにこの予言は当たったと言ってよさそうだ。
45年ぶりに原油生産で世界首位となった米国
2018年における米国の原油生産量は日量平均約1090万バレルとなり、前年比20%の伸びを示した。これでついにサウジアラビア、ロシアを差し切って45年ぶりに原油生産量で世界最大国になったのだ。シェールガス革命が本格的にスタートして約10年の歳月を経て、原油生産は何と2倍強に膨らみ、輸入への依存度は30年ぶりの低水準に下がった。
1kw/時あたりのコスト6円という驚異的な低価格エネルギーと予想されたシェールガスは、石炭、石油といったこれまでの化石燃料が枯れていくという状況下で登場した。埋蔵量は既存の天然ガスと合わせ400年分以上と言われており、原子力のようなリスクはなく、おまけにCO2排出量も化石燃料に比べ非常に少ない。
何よりも重要なのは、米国がこのシェールガスおよびシェールオイルの採取に関する知財権を固め、どこの国よりも早く技術を確立し、採取に関する設備投資を断行していったことだ。それにより米国はシェール大国にのし上がった。最近のシェールオイルは技術革新によるコスト低減で、1バレル50ドル以下でも採算がとれるようになったとされる。
トランプ大統領によってシェール戦略はさらに加速
この「シェールで勝つ」という戦略は、トランプ大統領の就任によってさらに加速した。これは簡単な理屈によるものだ。米国南部や中部に存在する低所得の白人層が仕事にあぶれる中、トランプ大統領は大号令を発しシェール採取を徹底的にやることで雇用を生み出すことを掲げ、これが見事に成功したことになる。不満を持つ白人層の雇用改善を行うと同時に、世界のエネルギーを握るという功績を果たしたわけであり、その意味ではトランプ氏は喧伝されるほどには「非論理的な人」ではないと言える。
米国の原油の輸出入収支は17年段階で11兆円のマイナスであり、貿易赤字の14%を占めていたが、シェールガスおよびシェールオイルの輸出拡大で、これは急速に減っていくだろう。そしてシェールを含めての天然ガスはすでに17年には純輸出国に転じている。つまり米国は、エネルギーに関しては消費大国から輸出大国への道をはっきりとたどり始めたのだ。
さらに、シェールガス/オイルはエネルギーとして安いだけではなく、エタンもメタンもプロパンも取り出せるし、エチレンも作ることができる。米国は数兆円を投じて、シェール系燃料から化学の基礎材料であるエチレンを作る新工場を次々と立ち上げている。そうなればシェール由来の素材の原料をほぼ独占する勢いになる。通常の石油由来に対して圧倒的な低コストで作れてしまうからだ。これらが進展すれば、プラスチック、自動車材料、繊維、電子材料のもとになる素材を量産し、素材面においても米国はぶっちぎりの最強国になっていくだろう。
世界情勢にも大きな影響、日本企業には追い風
シェール革命は世界の政治状況も変えつつある。これだけの安定的な原油生産に成功した以上は中東に依存する必要がなくなり、世界戦争の火種ともいえるエリアに積極関与する政策を打ち出すことも減ってきた。そしてシェールの純輸出国に転じていけば、大国ロシアの存在感はますます薄れてくる。さらにエチレンなどの基礎素材で巨大なプラントを多く持つ中国も追い詰められていく。ただですら米中貿易戦争でヨタヨタになっている中国には、さらに大きな揺さぶりがかかることになる。
もう一つ重要な点として、シェールガス採取に際しては日本の持つプラント力がモノを言う。日揮、東洋エンジニアリング、千代田化工建設、荏原製作所、日機装、横河電機などのLNGプラントメーカーに利益をもたらす。公害除去の水処理関連も日本勢が強く、栗田工業、三機工業、オルガノなどの水処理装置、東レ、日東電工、旭化成などの逆浸透膜メーカーのビジネスも拡大する。気体と液体のリサイクルプラントについても住友精密工業、神戸製鋼所がほぼ独占する。シェールガスの圧力容器に使う炭素繊維は東レ、三菱レイヨン、帝人などの日本企業が世界シェア70%を持っている。すなわちシェール革命は日本企業に最大の追い風をもたらす。
「とにもかくにも米国第一」を叫び続けるトランプ大統領だが、氏の進める政策は意外なことに、日本企業に多くの福音をもたらしている。
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