普通のお金と仮想通貨、果たしてどちらが信用できる?
LIMO / 2019年3月9日 21時15分
普通のお金と仮想通貨、果たしてどちらが信用できる?
通貨リスクとともに生きる時代
昨年1月にコインチェック社の仮想通貨580億円流出事件が発覚して以来、仮想通貨は技術的に何か欠陥があるのではという漠然とした不安が強まっているように感じますが、そんな状況でも、仮想通貨によるICO(Initial Coin Offering)プロジェクトは目白押しです。
ただ、そもそも基盤となるブロックチェーン技術やICOの仕組みがわかりにくいので、そういうことには拒絶反応が出てしまうのも人情です。
今回は、普通のお金、仮想通貨、ICOトークン、それらの信用の拠り所とリスクについて根源的な部分から考え直してみたいと思います。
仮想通貨によるICOと昨年来の注意喚起
ICOは、クラウドセール、プレセール、トークンオークションなどとも言われたりしますが、株式投資におけるIPO(Initial Public Offering、新規上場)に類似した資金調達の新しい形態です。
トークンは、新規のブロックチェーンで発行される仮想通貨とは異なり、既存のブロックチェーンを利用して発行されるものです。発行元が倒産すれば、当然、トークンは紙くず同然になります。一般にトークンの価値は変動が激しいので、かなり高いパフォーマンスが期待できるとも言われますが、それ以上に高いリスクを伴います。
そのICOですが、昨年来、国内外で仮想通貨によるICOプロジェクトが目白押しです。たとえば、日本のCOINJINJA(https://www.coinjinja.com)というサイトで検索すると2,500件以上もヒットします。
他方、詐欺事例も多発しているようで、昨年6月、一般社団法人仮想通貨サポートセンターのホームページでは、「仮想通貨ICOプレセール情報と注意点」が発表されました。
また、金融庁からも「ICOについて(https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/06.pdf)」という注意喚起が出ました(2018年10月)。ICOで発行されるトークン(証票)には、①価格下落の可能性、②詐欺の可能性があるので、自己責任で取引してくださいとのことです。
しかし、皆さんご存じのビットコインのように「上場通貨リスト(https://www.cryptocoinportal.jp/kind/)」にある仮想通貨はともかくとしても、上場していないICOトークンは本当に理解できていないと判断が難しいでしょう。
仮想通貨と普通のお金との基本的な違いとは?
そもそも仮想通貨なるものは信用して良いものなのか。そこが今一つはっきりしないので、多くの人は仮想通貨を持つには至らないのでしょう。
昨年来、たとえば、イングランド銀行(英中央銀行)のカーニー総裁などが将来における仮想通貨の脅威を指摘していますが、現時点でグローバル市場における仮想通貨の規模は世界のGDPの1%にも満たないのです。
では、日本人が約半分を持っていて最も有名なビットコイン(https://jpbitcoin.com/abouts)を例にして、普通のお金と仮想通貨を比較してみましょう。
まず、基本中の基本ですが、近代国家ではお金とは電子データです。お金は信用創造という形で銀行が作り出していて、誰かが借金をするとお金(預金通貨)が生まれます。日本国内に流通している紙幣・貨幣は、お金全体の1割程度です。
ちなみに、一般に貨幣は物々交換の非効率を克服するための交換手段として導入され、紙幣価値の根拠は貴金属との兌換である(商品貨幣論)と考えられています。しかしそれは一種の誤解で、米ドルは1971年に金との交換が停止していますし(ブレトンウッズ体制の終結)、貨幣が物々交換から発生したという歴史的事実はありません。
一方、仮想通貨とは何でしょうか。お金は中央銀行が発行する法定通貨なので中央銀行・銀行のバックアップがありますが、仮想通貨にはそうしたバックアップはありません。仮想通貨の根拠はコミュニティにおける信用基盤ではなく、ブロックチェーンという新しい技術、「分散コンピューティング(分散型台帳技術/DLT)」です。
実はビットコインは金属貨幣(金貨、銀貨等)をモデルとしています。つまり、金属貨幣は鉱山での採掘により貴金属を入手しますが、普通は市場で入手します。それになぞらえ、ビットコインはマイニング(採掘:コンピュータ上の難解な数理処理)の報酬として入手しますが、普通は取引所を通じて入手します。
ただ、ビットコインの発行上限は2,100万BTCです。発行量が増えればマイニングが難しくなる仕組みで、需要が増えると稀少性が高まり、価値は上がります。
金や米ドルよりビットコインの方が価値は安定的?
昨年、アップルの共同設立者スティーブ・ウォズニアック氏は、ブロックチェーンを利用したベンチャーキャピタルファンドのイクイグローバル(EQUI Global)を共同設立しましたが、その際、ウォズニアック氏の過去の発言を思い出しました。
「金は採掘技術が進歩すれば供給が増え価値が下がる。米ドルは経済的、政治的な理由から大量に刷られ供給量に制限がないため、本物の通貨ではない。ビットコインの供給には予想可能な有限性があるから金や米ドルより安定している」(2017年10月22日、Money20/20会議)
彼の指摘は正しいのかもしれません。ただし、マクロ経済運営の観点からは「予想可能な有限性」ではデフレを招いてしまいます。過去、1929年に始まった世界大恐慌の時は金本位制だったので、金の量が足枷となって貨幣供給量を増やせなかったことが問題でした。ルーズベルト大統領は大恐慌を脱するために金本位制からの離脱が必要だったのです。
お金は誰かが借金をすると預金通貨が増えるという仕組みなので、お金の量は借りる側の返済能力が限界値となるはずです。
しかし、近年のグローバル経済では、多くの政府が金融緩和によりマネー供給量を増やし、インフレを起こし、国家財政をやり繰りしてきました。それはデフレを防いできたという意味では良いかもしれませんが、必然的に通貨価値は下がってきています。
つまり、デフレを防ぐためには法定通貨の価値は下がり続ける宿命のようですので、仮想通貨と違って見慣れている法定通貨だから安心というわけではありません。
究極的には分散投資と稼ぐ力
極端な例ではありますが、ベネズエラなどハイパーインフレ(2018年12月の物価上昇率が年率約170万%)を経験した国民を思い浮かべれば、急激に価値が目減りしている法定通貨と、皆が心配になれば価値がゼロになるが、ひょっとしたら需要が増えて価値が高まるかもしれない仮想通貨、どちらが安全かはそう簡単な問いではないのです。
現時点で私の個人的意見としては、主要国通貨さえ分散して持っていれば仮想通貨などはなくても良いですが、ベネズエラのような経済危機に直面した国民にとっては、仮想通貨をオルタナティブな通貨として持ちたくなるのは当然でしょう。
究極的には、グローバル経済に翻弄され各国の国民経済はいつどうなるか予測できない時代ですから、ジタバタしても仕方ありません。世界第3位の経済大国日本であっても、この豊かな経済社会がいつ奪われるかわかりません。
個人としては、預金、株式、債券等金融資産は分散しておくこと、また、万が一の経済危機に巻き込まれたときに備え、自分に投資して「稼ぐ力」をつけておくべきなのかもしれません。
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