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ひふみ投信・藤野英人さん(後編)「マーケットという横暴な歌手と付き合えるか」

トウシル / 2017年12月1日 7時0分

ひふみ投信・藤野英人さん(後編)「マーケットという横暴な歌手と付き合えるか」

ひふみ投信・藤野英人さん(後編)「マーケットという横暴な歌手と付き合えるか」

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 いま日本でいちばん話題になっている投資信託のひとつである「ひふみ投信」。これを運用、販売するレオス・キャピタルワークスの代表取締役社長であり、最高投資責任者でもある藤野英人さんへのインタビュー後編は、ファンドマネジャーのお仕事について伺いました。

 

エキサイティングな個性あふれる経営者たち

◆ファンドマネジャーとして企業取材をしている中で、印象に残っている方は?

 中堅企業や成長中のベンチャー企業の社長さんたちと毎日のように会っていたころは、彼らからダイレクトに自らの仕事への情熱を語ってもらったり、地方の目立たない会社が実は世界の産業を支える部品を造っていると知ってワクワクしたり、工場見学では誇りを持って働く従業員たちに感動したりと、すべてが印象に残っています。

 企業取材している中で気づいたのは、私たちが手がけている企業への投資とは、株価への投資ではなく、「人への投資」ではないかということでした。投資先を決めるときには、長期的に利益を上げていける会社かということをじっくり見極めていくわけですが、そこで要になるのは、やはり「人」なのです。

 そして、その会社で働く人を率いる社長さんの考えは何より重要ですし、機械を動かすのも技術を磨くのも、すべては人。実際に、経営者や社員がイキイキ働いている企業に投資したほうが、そうでない企業に投資するよりも成果が上がります。これは、過去6,500人以上の経営者にインタビューを行ってきた長年の経験上、確かに言えることなのです。

 印象が残っている経営者の一人に、ユニクロ(ファーストリテイリング)の柳井正さんがいます。私が野村投資顧問にいたころに、お会いしました。今ではあまり知られていないのですが、当時、広島には証券取引所がありました。そこにユニクロが上場しました。それも広島証券取引所に単独上場したのです。東証2部でもないし、非常にマイナーな上場でした。

 おもしろい、ユニークな会社だとは感じていたものの、世界を代表するアパレル企業になるとは、まさか誰も思っていなかった。お会いしたのは私が社会人になって4~5年経ってから、1995年前後のころですね。当時はユニクロの本社は山口県宇部にありました。

 柳井正さんに会った印象は、とにかく静かな人だということです。丁寧に話に耳を傾けられるし、ある種の気迫も感じられ、ずばり「禅のお坊さん」という印象を持ちました。話をしていると、こちらもだんだんと無の境地になっていく、そして向き合っているうち、気配も感じないほどになっていました。肉体から離れて精神だけの存在になっていく……そんな感じがありました。

 また、堀江貴文さんとお会いしたときは2000年くらいで、彼がまだ六本木の雑居ビルに会社を構えていたころでした。

 そのとき印象的だったのは、「藤野さん、心臓ってなんでひとつなんでしょうね。小さい心臓がいくつもあればいいじゃないですか」と言われたことです。

 複数の心臓を可能にするには、それぞれの脈動を合わせなければならないのですが、脈動のパルスをどうやって合わせればいいかを計算できれば、それぞれの心臓の負担も減り、いいことだらけだと話していました。

 当時から人工心臓の可能性について、話をしていたわけです。私は「この人、トンでるなー」と思いました。頭もいいけれど、いろんな意味で普通じゃないと。

 そういう意味でも企業取材をしているときは、数字やビジネスモデルだけではなく、経営者の人柄なども幅広い視点で多面的に見ることが必要なのです。

▲この絵には、ある漢字1文字が2種類、隠れているそうです。2種類見える人もいれば、1文字も見えない人も。ヒントは、どちらも金融市場になじみのある漢字です。藤野さんのように、常識にとらわれない自由な視点が必要です(→答えは記事の最後に)。

 

運用は芸術と似ている

◆ファンドマネジャーと社長業と、お忙しい中でもSNSでは朝から深夜までつぶやいていらっしゃいますね。

 もともと私は書くことが好きなので、楽しいことです。この15年間、毎年毎年これ以上忙しくはならないだろうと思っているんですが、確かに仕事の時間はどんどん増えている気がします。あんまり忙しいという言葉は使いたくないんですけどね。

 時間があれば、もう少し趣味のピアノの練習をしたいですね。実は私はピアノサークル「ついぴの会」を主催しています。北海道から沖縄まで22カ所ぐらいの拠点がある、日本で最大のピアノサークルなんですよ。元々「ツイッターピアノの会」だったのですが、いつからか「ついぴ」って言われるようになって。趣味の仲間との時間はとても大切です。

 来年2018年1月に「ショパン国際ピアノコンクールinASIA」というアマチュアのピアノコンクールが開催されるのですが、日本で行われる全国予選を通過すれば、出場できるのです。先日、地区予選は通ったので、次は全国を突破、そしてアジア大会へと考えています。

◆プライベートの喜びが実現するといいですね。では運用の喜びとは?

 運用もピアノと一緒で私にとっては、「表現の場」なのです。運用の結果を英語では「パフォーマンス」と言います。成果、業績という意味の「リザルト」とは表現しません。

 ピアノの演奏も「パフォーマンス」と言います。ダンスや絵、写真、音楽も「パフォーマンス」ですね。だから運用の結果というのはある種、芸術的なアウトプット、ひとつの芸術作品であると考えています。芸術的な活動として、結果を出して、それを世に問うという側面があるわけです。

 芸術作品だと考えると、結果それ自体もとても大事なのですが、どういう歩みをしながら高い結果を出していくのかというプロセスも重要になってきます。

 マーケットという非常に横暴な支配者がいますが、絶対的な存在です。

 たとえるなら、マーケットという非常に気まぐれで横暴な歌手がいて、それに付いて、いかに良い楽曲を伴奏できるかを試されているのがわれわれです。とてつもなく素晴らしい歌を歌ったと思ったら、めちゃくちゃな歌を勝手に歌い出す。最大のボスであり、最大のパートナーであり、最大の敵というマーケットに向き合って、素晴らしいパフォーマンスを上げていくことが、やりがいであり、喜びにつながるのでしょう。

◆ひふみ投信にはファンが多いようですね。

 金融市場は、市況に応じて、ほとんどの株価がいっせいに下がるときがあります。でも、そんな下げ相場であっても、ひふみの長期的な視点を理解してくださり、信じて持ち続けてくださるお客さまが多くいらっしゃいます。 以前、スノーピークの山井社長が、ひふみ投信を「コミュニティファンド」だと評してくれました。うれしかったですね。

 ファン(お客さま)を集めて、ファンの度合いが高くなるから「ファンド」になる。逆に不安の度合いが高くなると「不安度」にもなるのですけどね。

 ひふみ投信は、私にとって起業を志してからの15年間の想いが詰まった商品です。これからも夢は大きく、米国フィデリティのマゼランファンド(※)のような存在を目指しています。

※1962年スタート。1977年から1990年まで運用にあたったピーター・リンチなどの活躍によって、資産規模は最大で約1,100億ドルに達した。

 米国の投資信託市場も、現在の規模に成長するまでにはさまざまな紆余曲折がありましたが、マゼランファンドの成長によって、大きくイメージが改善されたという歴史を持ちます。われわれも、お客さんから「ひふみ投信で運用したから、子供を大学に上げることができた」「家を買うことができた」などと言われる存在になれるよう、さらなる成長を目指したいと考えています。

◆写真の答え◆

答えは「牛」と「熊」。英語で言えば「ブル」と「ベア」ですが、相場の強気を示す「ブル」、弱気を示す「ベア」が、隠されていたのです。

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●今回の取材先

藤野 英人(ふじの・ひでと)さん

レオス・キャピタルワークス株式会社
代表取締役社長
最高投資責任者

1966年富山県生まれ。1990年早稲田大学法学部卒業、日米の大手投資運用会社でファンドマネジャーを歴任、2003年レオス・キャピタルワークスを創業。株式投資信託「ひふみ投信」「ひふみプラス」「ひふみ年金」を運用し、高いパフォーマンスで受賞歴多数。投資教育にも注力しており、JPXアカデミー・フェロー、明治大学商学部兼任講師も務める。一般社団法人投資信託協会理事。近著に『ヤンキーの虎-新・ジモト経済の支配者たち』(東洋経済新報社)、『投資レジェンドが教える ヤバい会社』(日経ビジネス人文庫)。

(トウシル編集チーム)

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