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原油減産延長は簡単に決まらない!?…OPEC総会を考える(5)

トウシル / 2017年11月24日 13時0分

原油減産延長は簡単に決まらない!?…OPEC総会を考える(5)

原油減産延長は簡単に決まらない!?…OPEC総会を考える(5)

OPEC総会は11月30日(木)に開催される。同日、非OPECとの閣僚会議、および共同記者会見が開かれる

 いよいよOPEC(石油輸出国機構)総会が来週に迫りました。11月30日(木)、ウィーンにあるOPECの事務局で開催されます。11月23日時点で公表されている総会の暫定プログラムやプレス向けの資料から抜粋したスケジュールは以下のとおりです。

2017年11月30日(木)

第173回OPEC総会・・・午前10時00分(日本時間 午後6時00分)~

第3回OPEC・非OPECの閣僚会議・・・午後3時(日本時間 午後11時00分)~

共同記者会見・・・午後5時ごろ(日本時間 12月1日午前1時ごろ)~

 大まかには、午前中(現地時間)にOPEC総会、午後にOPEC・非OPECの閣僚会議、夕方に共同記者会見、という流れです。これは今年5月に開催されたOPEC総会のときとほぼ同じです。

 OPEC総会とOPEC・非OPECの閣僚会議のスタート直後は報道記者が参加することができるため、会議の出席者の発言が、ほぼリアルタイムで各社の媒体を通じて世界に配信される可能性があります。

 このため、夕方(現地時間)の共同記者会見を待たずに、今回の総会の決定事項の全貌が明らかになっている可能性もあります。

 

総会を前に、原油相場は引き続き“投機の参入”“思惑先行”で上昇。米国に関わる新たな思惑の種も出現

図:各種原油価格の変動 (2017年10月23日~11月23日)

出所:CME・ICDE EU・TOCOMのデータをもとに筆者作成

 各種原油価格は総会を前に反発色を強めています。足元の材料をまとめると以下のようになります。

図:原油市場の材料のまとめ

出所:筆者作成

 現在の原油市場には、上昇要因に関わる「思惑」と、下落要因に関わる「実態」の両方が存在していると考えられます。そして、その「思惑」の高まりをきっかけとして、投機筋の流入が加速していると考えられます。

 投機筋の動向の目安となる、投機筋の買い越し枚数(買い建玉-売り建玉)は以下のとおりです。

図:投機筋の建玉の買い越し枚数(WTI原油先物市場 先物のみ) 単位:枚

出所:CFTC(米商品先物取引委員会)のデータをもとに筆者作成

 世界の原油価格の指標であるWTI(米国産標準油種)原油先物市場における投機筋の建玉の買い越し枚数は、先週の火曜日時点でおよそ37万2千枚となり、この10年間の最高水準まで増加しています。

 買い建玉、売り建玉、それぞれを単体で見た場合でも“買い増加”・“売り減少”という傾向が続いており、どちらも記録的な水準に接近しています。

図:投機筋の建玉の買い・売り枚数(WTI原油先物市場 先物のみ) 単位:枚

出所:CFTC(米商品先物取引委員会)のデータをもとに筆者作成

 このような投機筋の動きは、さまざまな要因によって上昇する原油価格の上昇幅を拡大させていると考えられます。

 

ロシアは自国経済への負の影響を懸念、サウジアラビアは米国の生産増加を懸念。それぞれが抱える事情が減産延長の実現を難しくしている!?

 サウジアラビアは、特に6月以降、減産は守るものの、可能な限り多く原油を生産しようとする姿勢を打ち出しています。サウジアラビアがこのような状況の中、現在の減産をリードしているのはロシアであると考えられます。

サウジアラビア、ロシアの原油生産量、および減産順守率の推移について、こちらをご覧ください。

原油減産のこれまで。守れないOPECとロシア頼み…OPEC総会を考える(3)

 そのロシアの当局者が、今週木曜日、減産を延長することはロシア経済にとってマイナスの影響を及ぼすため望ましくない、という趣旨の発言をしました。また、水曜日、別のロシアの当局者は、減産の延長期間について(2018年12月までの9カ月間ではなく)6か月の案を検討した、という趣旨の発言をしています。

 OPEC総会を来週に控えたこのタイミングで、ロシアの減産延長への温度感がそれほど高くない(むしろやや冷めたものである)ことが報じられています。

 原油価格が上昇すれば、減産に参加する国はより減産をしやすくなる場合があります。量を削減したことによるデメリットを、単価が上昇したことによるメリットが相殺するケースです。まさにここ数カ月間、原油価格の上昇、生産量の削減という点から、ロシアはこのケースに当てはまっていたと考えられます。

 しかし、そのロシアの当局者の最近の発言は、量を削減するデメリットを単価が上昇するメリットで相殺することは難しい、よって、減産の延長は望ましくない、延長しても短い期間が望ましい、ということを述べていると取れます。

 減産を延長することによって見込まれる原油価格の上昇が、期待するほどのものにならない、あるいは延長が何らかの文脈で原油価格の下落を招く可能性があることを危惧していると筆者は感じています。

 総会に向けて水面下でさまざまな交渉が行われていると思われますが、そうした交渉の中で、ロシアが今後の減産の効果について懐疑的になってきている(デメリットを感じ始めている)可能性は否定できません。

 また、原油生産量が減産開始後の高水準で推移するOPECの盟主、サウジアラビアについては、以下のグラフのとおり、米国の生産量が増加しているため、シェアが脅かされています。

図:サウジアラビアと米国の原油生産量 単位:百万バレル/日量

出所:OPEC・米エネルギー省(EIA)のデータをもとに筆者作成

 上図より、サウジアラビアにとって、減産を延長することは、米国の追随(場合によっては追い越されること)を許す、という意味があると筆者は考えています。

 つまり、仮にサウジアラビアが2014年11月に減産実施を見送ったときのように、世界の生産シェアにこだわる姿勢が今でも続いているのであれば、減産の延長はサウジアラビアにとってデメリットになるということです。

 すでに先月、米国のEIA(エネルギー省)は、来年にも米国の原油生産量は過去最高となった1970年の水準を超える(日量1000万バレル規模)に達するという見通しを示しています。

 減産中のサウジアラビアの生産量の上限は、日量およそ1,006万バレルですので、減産を延長した場合、サウジアラビアは来年のいずれかの段階で米国に世界シェアNo1の座を明け渡す可能性があります。

 また、9月に減産実施国は24カ国全体で減産順守率120%を達成しましたが、サウジアラビアが減産開始後の高水準で生産を続け(できるだけ米国の追随から逃れるため?)、ロシアが生産量を減少させた、という構図の中での達成でした。

 減産を延長するということは、(サウジアラビアのシェア優先という姿勢が変わらない限り)ロシアに負担がかかる状態を続けることを意味します。ロシアの当局者はこの点を嫌気し、減産延長へ後ろ向きな発言をしたと考えられます。

 このように、24カ国で構成される減産体制の双璧をなすロシアとサウジアラビアにとって、それぞれ、減産の延長がデメリットとなる面を持っている点に注意が必要です。

 

OPEC総会の決定事項は5つのパターンのいずれかとなるか。総会後の原油価格の短期的な変動は決定事項に準じる?

 以下は、筆者が考える、総会での決定事項の予想パターンです。

図:11月30日(木)のOPEC総会の決定事項の予想パターン

出所:筆者作成

 これらのパターン別に、仮に実現した場合に原油価格はどのように動くのか?ということについて、筆者の個人的な考えを簡単にまとめてみました。

  1. 減産を延長・削減幅は現行を踏襲・2018年12月終了

総会直後、減産延長への期待が現実になったこと(期待に対する満額回答)への楽観的なムードから短期的に上昇。その後、期待が現実になったことによる材料出尽くし感から下落。

  1. 減産を延長・削減幅は現行を踏襲・予想よりも前に終了

総会直後・減産延長への期待が現実になり上昇するも、期間が想定よりも短かったことから上げ幅は限定的。その後、材料出尽くし感から下落。

  1. 減産を延長・削減幅が調整される・2018年12月終了

減産が延長されたこと、期間が予想どおりだったことが好感され、価格は短期的に上昇。削減幅の調整において、全体として現行よりも甘い削減幅となった場合は、過剰在庫の削減について懸念が生じることとなり、延長したことがその後の下落要因に。逆に全体として現行よりも厳しい削減幅となった場合は、過剰在庫の削減が早まる期待が高まり、その後の上昇要因に。

  1. 減産を延長・削減幅が調整される・予想よりも前に終了

減産が延長されたことが好感され上昇するも、上昇は短期的で上値は限定的に。削減幅の調整において、全体として現行よりも甘い削減幅となった場合は、過剰在庫の削減について懸念が生じることとなり、延長したことがその後の下落要因に。逆に全体として現行よりも厳しい削減幅となった場合は、過剰在庫の削減が早まる期待が高まり、その後の上昇要因に。

  1. 減産を延長せず

延長を期待した市場参加者において悲観的なムードが高まり、総会直後から下落する展開に。総会までに高まった期待が剥げ、その後、大幅下落の可能性も。

 本レポートで示したとおり、これまでの「延長で決まるのではないか?」というムードが変わりつつあると感じています。今回の総会がどのような決着を見るのかは、総会の時間を迎えるまでわからないと思います。

 これまで5週に渡り、OPEC総会をテーマにレポートを書いてきました。次回(12月1日)のレポートは、総会の結果をまとめた内容となります。

(吉田 哲)

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