歴史的な水準まで達した原油生産量。米国の原油事情を再確認
トウシル / 2017年12月8日 17時0分
歴史的な水準まで達した原油生産量。米国の原油事情を再確認
米国の原油事情を、生産量・消費量・輸入量・在庫の4つの面から確認
WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格(期近)は、2017年12月8日(金)午前11時(日本時間)現在、56.6ドル近辺で推移しています。
以下のグラフのとおり、先週木曜のOPEC(石油産出国機構)総会後一旦上昇しましたが、やや弱含む展開となっています。予想通り減産延長で合意した総会だったものの、報じられているとおり米国の原油や石油製品の生産・在庫などのデータが一因となり、上値を追いにくい状況となっています。
図:WTI原油先物(期近 日次平均) 単位:ドル/バレル
本レポートでは、今後の原油価格を占う上で重要な米国の原油事情を示すデータについて、先週から今週にかけてEIA(米エネルギー省)が公表した月次統計・週間石油統計の中から、米国の原油に関する生産量・消費量・輸入量・在庫の4つのデータを確認します。
生産量…歴史的な水準まで増加。米エネルギー省の見通しどおり2018年に過去最高に達し、サウジアラビアを追い抜くか?
以下は12月6日(水)に週間石油統計で公表された、週次ベースの米国の原油生産量の推移です。
図:米国の原油生産量(毎週金曜日時点 1983年1月7日から2017年12月1日) 単位:千バレル/日量
今週公表された米国の原油生産量は、週間石油統計でデータが確認できる1983年1月7日以降の最高となりました。歴史的な水準と言えます。
また、以下は11月30日(木)に月間統計で公表された、月次ベースの米国の原油生産量の推移です。
10月16日(月)に米エネルギー省は、2018年にも1970年につけた実績である年平均日量963万バレルを上回る、という見通しを公表しましたが、上記の週間石油統計のデータは、その見通しをフォローする動きとなっています。
図:米国の原油生産量(年平均 1900年から2016年) 単位:千バレル/日量
また、以下の図のとおり、このまま米国の原油生産量が増加すれば、米国は2018年にも減産実施のために生産量を増やすことができないサウジアラビアを追い越すことが見込まれます。
図:サウジアラビアと米国の原油生産量 単位:百万バレル/日量
今後、サウジアラビア、そしてロシアといった減産に参加する石油大国が、2014年のように生産が拡大する米国のシェア拡大をけん制する場面が出てくれば、減産を実施することへの疑問符が付き始めると考えられます。
先週のOPEC総会で2018年12月まで減産を延長することが決まりましたが、その際、2018年6月に開催される次の総会で一旦その時の減産の状況を確認するとされています。
各国がどれだけ減産を守っているかなどの状況に加え、その時の米国の原油生産量も「シェア」という観点から意識されることが想定され、サウジアラビアやロシアがこのまま減産を続ければ、世界No1の座を米国に明け渡してしまう懸念が高まっている場合、次回の総会で、減産幅を縮小する、各国の削減幅を調整する(融通しあう)などの措置が取られる可能性があると考えます。
OPEC・ロシア等の非OPECの政策に影響を及ぼす可能性があるため、引き続き、米国の原油生産量の動向に注意が必要です。
消費量…回復。ハリケーン「ハービー」の襲来による消費の減少から回復し、過去最高水準へ向かう
本レポートでは、原油の消費量を、どれだけ製油所で原油が処理されたかを示す“製油所へのインプット量”としています。
以下のグラフのとおり、2017年9月に原油の消費量が減少しました。ハリケーン「ハービー」が、製油所が集まるメキシコ湾岸地区に上陸し、複数の製油所の稼働が一時的に停止したためです。
図:米国の製油所への原油のインプット量 単位:千バレル/日量
しかしその後、2005年と2008年にメキシコ湾岸地区に大型ハリケーンが上陸した際、原油の消費量は年末ごろまでに回復したように、今回においてもほぼ「ハービー」の襲来前の水準まで回復してきたことが、今週の週間石油統計で明らかになりました。
輸入量…減少中。サウジアラビアからの輸入は記録的な低水準。一方、イラク・カナダからは増加傾向
米国は世界屈指の原油生産国ですが、自国の原油供給を賄うこと、および安定化を目的として、サウジアラビアを含むOPEC加盟国やカナダ・メキシコなどの近隣の産油国より原油を輸入しています。
輸入量は米国内の原油供給の一部となるため、輸入量減少は米国内の原油供給量減少、引いては原油在庫の減少要因になり得ます。
図:米国全体の原油輸入量(ネット) 単位:千バレル/日量
米国全体の原油輸入量は、減少する傾向にあります。
また、以下のグラフは、米国の原油輸入における主要相手国からの輸入量の推移を示したものです。
図:米国の原油輸入における相手別の輸入量(ネット) 単位:千バレル/日量
また、2017年夏頃に原油輸出量の削減を打ち出したサウジアラビアからの輸入量は記録的な低水準まで減少しています。これは、米国全体の輸入量が減少している主因と見られます。
一方、カナダからの輸入量は長期的な増加傾向にあり、OPECからの輸入量を上回りました(2017年9月時点)。イラクからの輸入量も増加傾向にあります。
サウジアラビアが輸出削減措置を実施する旨の報道がなされた2017年8月、市場ではこのニュースは前向きに捉えられたと記憶していますが、カナダからの輸入量が増加傾向であること、イラクからの輸入量が増加していることについてはなかなか報じられる機会はなかったと思います。
輸入量については、全体と国別の両方で推移を見ることが重要だと思います。
在庫…ピーク時比20%減少。一方、引き続き2014年以降の高水準を維持
米国の原油在庫は、大まかには次の式で求められます。「原油在庫=国内生産+輸入―消費」
図:米国の原油在庫 単位:千バレル
ここまで、“国内生産は増加”、“消費は回復”、“輸入は減少”という傾向があることを見てきました。全体的には、国内生産は増加傾向にあるものの、消費が回復・輸入が減少しているため、在庫は減少傾向にある、と考えることができます。
しかし、現在の原油在庫は、2014年の急増以前のある意味正常な水準まで、まだ1億バレル以上あります。
在庫は、2014年の急増前の水準と現在の在庫水準にどれだけのかい離があるかが重要
原油在庫のデータは、米エネルギー省(EIA)が毎週水曜日(現地時間)に、そしてアメリカ石油協会(API)がその前日の火曜日(現地時間)に公表されます。前週の値に加え、前週との比較、そして各通信社が集計した予想との比較が報じられます。
在庫の前週比・予想比は、足元の原油価格の変動を説明する上で重要な情報でありますが、今後は、長期的な、特に2014年の急増前の水準と現在の在庫水準にどれだけはく離があるか?という点に着目する必要があると筆者は考えています。
本レポートで示したとおり、在庫は消費の増加・輸入の減少によって下がっているものの、その在庫はまだ、米国、引いては世界の在庫が正常化するために必要な水準まで減少していない、という点に注意しなければならないと思います。
足元では、ナイジェリアでのストライキや中東情勢の混迷など、原油の供給に支障が生じる懸念を示す報道があります。
供給障害を引き起こす“懸念”があるという情報は、目先の原油価格の動向を占う重要な情報であると認識しながら、米国のさまざまなデータが示す事情も、長期的な原油価格を占うための重要な情報として認識していく必要があると筆者は考えています。
(吉田 哲)
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