#2:デフレ脱却に向けて、やや前進
トウシル / 2017年12月26日 6時50分
#2:デフレ脱却に向けて、やや前進
経済のプロ「楽天証券研究所」と、国民のリアル「街角の声」、運用のプロ「ファンドマネージャー」に2017年の振り返りや2018年の見通しを大特集!
2017年振り返り
まだ目標の「2%」には遠く油断はできないが、デフレからは脱しつつある
森友学園、加計学園に関わる問題で夏場にかけて支持率を落とした安倍政権だったが、その後、総選挙に打って出た戦略が大当たりした。小池百合子都知事が結党した希望の党が急転して不人気となり、最大野党だった民進党がバラバラになるなど、野党陣営が勝手に転んだ形で、自民党は解散前の議席を維持する勝利を手に入れた。
投票の前後に日経平均が史上最多の16連騰を記録するなど、総選挙の与党勝利は株価の上昇に寄与した。安倍政権の強化で、来年に予定される日銀の正副総裁人事で、金融緩和の継続に積極的な人が選ばれる見通しが立ち、円安・株高方向への追い風となった。
企業業績はおおむね好調で、収益予想は現在も上方修正傾向にある。
他方、不正会計問題が尾を引く東芝の経営が定まらないことに加えて、日産自動車、神戸製鋼、さらには経団連会長輩出企業である東レなどの日本の代表的な製造業企業で品質検査の悪質なごまかしが発覚するなど、企業関係で情けないニュースが多かった。
また、長短のゼロ金利政策の影響もあり、収益環境の悪化に苦しむ銀行業界では、メガバンクが大規模なリストラ計画を発表し、「古い銀行業の終わり」が見えてきた。投資家は、彼らの苦肉の策の手数料稼ぎに気をつけねばなるまい。
マクロ経済全体としては、人手不足から徐々に賃金上昇への圧力が高まっており、消費者物価指数は対前年比ではっきりプラス・ゾーンに入って来た。まだ目標の「2%」には遠く油断はできないものの、デフレからは脱しつつある。GDPも労働人口の構造的減少を考えるとまずまずと言える成長率を記録しそうだ。こと経済の面だけを見るなら、2017年はそう悪い一年ではなかった。
2018年予想
円高、物価上昇のリスクはあるが、「安倍一強」の状況が続きおおむね良好
来年は、国政選挙の予定がない。政治的には「安倍一強」の状況が続きそうだ。この間に注目すべきは、政権や与党よりも野党の方だろう。選挙の得票率を見ると、自公の与党に対して、野党は「まとまることができさえすれば」十分対抗し得るはずなのだが、与党に対するよりも野党内での対立のほうが先鋭的な状況が解消できるとは思えない(政治の目的に対しては、全く愚かなことだが)。
多くの人にとって、来年、最も心配な事柄は北朝鮮に関連の武力衝突があるかどうかだろう。経済的な利害だけに基づく推測としては、緊張関係は継続するが(米国の軍産複合体にとって好都合だから)、武力衝突は起こらない(お互いにとって想定される被害があまりに大きいから)、と考えるが、そもそも戦争というものは非合理的に起こるものなので、油断はできない。
ただし、万が一武力衝突が起こったとしても、北朝鮮が日本の生産力を破壊し尽くすことを目指すことは考えにくい(利益が得られないから)。武力衝突があった場合には、一時的に株価が下がるだろうが、その場面はむしろ「買い場」になるのではないだろうか。もちろん予想に責任は持てないが、個人の意見としては現在こう考えている。
「今の時点で」、日本の経済と投資の環境は、おおむね悪くない方に動いているように見える。企業業績は良好だし、労働市場の需給はタイトだし、物価上昇率目標の「2%」にはまだ距離があるので、金融緩和政策の継続が期待できる。2018年は、GDP成長率的にも悪くないだろう。
投資家として心配な材料があるとすると何だろうか。
1つには、円高のリスクだ。現状は、内外の金融政策のギャップを映して購買力から見て1割以上の円安になっているが、為替レートが円高になる事態は、常に想定しておくべきだ。
もう1つ怖いのは、意外な物価上昇だ。インフレ目標の達成が視野に入ってくると、金融緩和政策の「出口」の議論が盛り上がるはずだ。日銀は、物価上昇率目標「2%」を十分超えてから「出口」を検討すると宣言しているが、市場の側では、「2%」が近づいて来た段階で、金融緩和縮小後の世界をなにがしか織り込まねばならない。
その時点で、最大の歪みは、目下ゼロ近辺に利回りを固定されている長期国債市場にあるだろうが、長期金利が自然に形成されるようになった場合を想定したときの株式市場の反応も相当に心配だ。2018年ではないかもしれないが、これは、いつか必ず要る懸念だ。
アベノミクス相場は明らかに終盤にかかっていて、「山崎式経済時計」(図、参照)では現在11時を越えたように思うのだが、経験的に言って、現時点ではバブルの末期の盛り上がりがまだない。当面の天井が意外に高い可能性は十分にある。ただし、そろそろ警戒が必要な時期に入りつつあることを心に留めておきたい。
総合的に見て、投資家は、リスク資産を大きく減らす必要はないが、計画した資産配分(アセット・アロケーション)を超えるリスク資産を計画値まで減らしておくくらいがいいのではないだろうか。
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