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長期金利上昇はきっかけ、主因はVIX(恐怖指数)ショート、しかし・・・

トウシル / 2018年2月14日 12時14分

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長期金利上昇はきっかけ、主因はVIX(恐怖指数)ショート、しかし・・・

2月に入って米国株式市場は久しぶりの調整局面を迎えました

 メディアなどでは1月の雇用統計が好調で、特に平均時間当たり賃金が前年同期比2.9%の上昇と8年半ぶりの高い伸びとなり、長期金利が上昇したことが要因とされています。

 ただ長期金利が上昇したと言っても当日の市場で10年物国債は0.08%上昇しただけであり、このくらいの上昇はいつでもあり得ることです。また賃金上昇率=インフレ率ではなく、実際、現在インフレ連動債から計算した5年物期待インフレ率は1.8%台と、金融危機後のレンジ1.2%から2.4%のほぼ真ん中にとどまっており、直ちにインフレを警戒しなければならない状況でもありません。

 もちろん雇用統計及びそれを受けた長期金利の上昇が調整のきっかけとなったのは事実でしょうが、主因はここ数年積み上げられていた株式オプションを売ってオプション料を稼ぐ動き(一部で変動率指数「VIX <恐怖指数>」のショートと呼ばれる)にあります。多かれ少なかれ、株式相場の下落要因は大きく景気変動要因によるものと、今回のVIXショートにみられるような、リスクの担い手がそのリスクを担い切れなくなることによるものに分かれます。今回の場合は一部、VIXショートに特化したETF(上場投資信託)が閉鎖に追い込まれたことにも象徴されているように、景気変動要因によるものではなく、明らかに後者のほうです。

 米国では株式のオプション(買う権利や売る権利)が盛んに取引されています。オプションはいわば、株価の上下に対する保険のような役割を果たしていて、オプションの売り手はある程度以上の値下がりや値上がりに対して保険金を払う代わりに、保険料をもらえる仕組みになっています。

 保険においては引き受け手となれるのは保険会社だけですが、オプション市場では基本的に誰でも引き受け手(売り手)となることができます。また保険金が支払われるようなイベントを意図的に起こすのは困難な(または犯罪となる)のに対して、オプション市場では意図的に起こすことは不可能ではありません。たとえば何らかの悪材料が出たのをきっかけに金曜日の出来高の少ない所を狙い、株価を下げて保険金を支払わせようとすることもできてしまいます。

 とりわけ、米国の景気が好調で、ここ2年近く株式市場でこれといった調整もなく「株価の大きな下落はないだろう」と、多くの投資家が油断してオプションの売り手に回っている状況では、それはマグマのように溜まり、いずれ噴火してしまう確率が高まる・・・今回の調整も正にそのような状況で起こりました。

 オプションを売ること自体は、株式に投資すること同様、市場における1つの有効な投資手段です。多くの人がリスクを回避したいという需要がある中、オプションを売ることによってその需要に応えることは市場を安定させ、ひいては経済の成長に寄与する効果さえあると思います。

保険料に当たるオプション料が適正であるかということが問題

 最近で言うと、オプション料の算定に使用されるS&P500指数の変動率は10%台前半と、歴史的に見て極めて低い水準で推移していました。要するに、保険の引き受け手が、実際のリスクに見合った保険料をもらっていない状態なのです。多くの場合、保険金を払わなければならないようなイベントはすぐには訪れないので、保険料欲しさに引き受け手が油断して、そのような状況が長引くと要注意ということなのです。

 これは1987年ブラックマンデーの引き金となったいわゆる「ポートフォリオ保険」や2007年に始まった金融危機におけるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)をはじめ、最近では2015年8月や2016年2月の調整局面でも起こっています。リスクの担い手がそのリスクを担い切れなくなることによって起こるという点で、そのメカニズムはすべて同じです。

 もっとも、変動率が低いからといって直ちにそれがおかしいとか、バブルとかいう話ではありません。ただあまりに変動率が極めて低い水準が長く続くと、前述のようにマグマが徐々に溜まっていきます。

 残念ながら、そのマグマがいつ噴火につながるかというタイミングを当てることは出来ません。ただ私が行っている分析で、その確率を計算することはできます。簡単に申し上げれば、変動率が低いこと、そしてその期間が長いことが次の噴火の確率を上昇させる要因になります。そしていったん噴火が起こると、一気に次の噴火の確率が下がり、起こったとしても大した噴火とならない確率が高まります。今回も、数週間も経てば市場は落ち着きを取り戻し、次の噴火まではしばらく時間的余裕ができるということになるでしょう。

 基本的には今回の調整もこのような理解で良いと考えていますが、一点、勘案しておかなければならない要因があります。それはFRB(連邦準備制度理事会)議長が交代したことです。バーナンキ氏は2006年に、イエレン氏は2014年にそれぞれFRB議長に就任し、市場では「バーナンキ・プット」や「イエレン・プット」など、要するに株式相場が下がっても、FRBが金融政策で適切な対応を取ってくれるとの期待がありました。2月5日にパウエル氏が新FRB議長に就任しましたが、今後もはたして「パウエル・プット」は有効なのでしょうか? 

 おそらくそうなのでしょうが、今後本当にそうなのかを市場が確信することが必要で、そのリスクは、これまでよりもやや高い変動率という形で市場に反映されることになるでしょう。株式相場が急落した2月2日、これは雇用統計が発表された日であると同時に、イエレン氏がFRB議長としての任期を終える前日であったことを忘れてはなりません。

(2018年2月9日記)

(堀古 英司)

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