メダルラッシュに沸く冬季オリンピックをコモディティの視点で眺めると…
トウシル / 2018年2月16日 17時30分
メダルラッシュに沸く冬季オリンピックをコモディティの視点で眺めると…
平昌オリンピック、スノーボード・平野選手の銀メダルの重み
平昌(ピョンチャン)オリンピックでメダルラッシュが続く日本。6日目に行われたスノーボードハーフパイプ男子では、見事、2度目の銀メダルを平野歩夢選手が獲得しました。
約1年前、平野選手は競技中に選手生命を絶たれるほどの大ケガを負いました。しかし、懸命なリハビリと練習によって困難を乗り越え、再び銀メダルを手にしたのです。
平野選手は今回の銀メダルを、前回のソチ大会より「重い」と語りました。
ソチ大会より「重い」という表現は、オリンピックに臨むまでの、平野選手の犠牲や努力の重みだと、私たちは理解しています。
筆者も報道でそのシーンを見ていましたが、別の思いも抱きました。平野選手は重量としての重さも実感しているのではないだろうかと。
ソチ大会よりも55gも重くなっている銀メダル
銀メダルの重みを語っていた平野選手ですが、実は、平昌オリンピックの銀メダルは、ソチ大会よりも55gも重くなっているのです。
各種報道から推計したところでは、平昌オリンピックで授与されるメダルの重量は、前回のソチ大会比で見ると、銀メダルが55g増(525g→580g)、金メダルで55グラム増(531g→586g)と見られます。
図1は、平昌オリンピックのメダルを構成する各金属の重量と、物質的価値(精神的な価値ではなく、メダルを構成している金属の価値)を示しました。
図1:平昌オリンピックのメダルを構成する金属の重量と物質的価値(筆者推定)
冬季・夏季ともに、オリンピックで1位、2位、3位の競技者に授与されるメダルの規格は、オリンピックの精神やオリンピック開催の条件など、幅広いルールをまとめたオリンピック憲章の第5章「表彰式、メダルと賞状の授与」に、次のように記載されています(JOC(日本オリンピック委員会)のウェブサイトの内容を要約)。
- メダルのデザインは、事前にIOC理事会事の承認を得なくてはならない
- メダルの形は、少なくとも直径が60ミリ、厚さが3ミリでなくてはならない
- メダルの素材は、1位・2位のメダルは純度92.5%以上の銀製でなければならない
- 1位のメダルは少なくとも6gの純金で金張り(メッキ)がほどこされていなければならない
オリンピック憲章によると、金メダルは、「金が張られた銀製のメダル」ということです。
仮に、平昌オリンピックの金メダルが純金(586gの純金のメダル)であった場合、1個あたりおよそ283万円(4,828円×586g)ですが、純金でないのは、開催国の負担軽減が目的と言われています。
次に平野選手が獲得した、4年前のソチ大会の銀メダルと、今回の平昌大会の銀メダルの比較を図2に示します。
図2:ソチオリンピックと平昌オリンピックの銀メダル(1個あたり)の比較
ソチに比べて平昌の銀メダルの重さ(重量)は、55グラム(10.5%)重くなっています。この点が、平野選手が「重い」と語った理由でもあると、筆者は想像しています。
重さが2ケタ増となる一方、銀メダル1個あたりの物質的価値は1.8%の増加に留まります。重量の増加に対して物質的価値の上昇率が小幅なのは、この4年間で銀相場が下落したためだと考えられます。
目先は上値が重そうな銀相場は、長期的な視点で見守る
銀相場の上値が重いのは、銀の消費量が伸び悩んでいることが背景にあると見られます。
図3は、銀相場の推移です。
図3:銀相場の推移 (CME銀先物 中心限月 月間平均)
銀価格の国際指標と言われるドル建て(価格の単位がドル)の銀価格は、2014年のソチ大会から2018年の平昌大会にかけて、緩やかに下落しています。この下落が、ソチと平昌の銀メダルの物質的価値に影響したと見られます。
大局的に見ると、ソチ大会が開催された2014年の時点で銀は、2011年半ばからの下落の最中にあった、ということになります。
図4は世界全体の銀の需要と供給の推移を示したものです。
図4:銀の需要と供給の推移
2012年ごろから、需要の伸びが鈍化していることが見てとれます(供給はほぼ横ばい)。
同じ時期に銀価格が下落・低迷しているため、需要の鈍化が下落・低迷の要因である可能性があります。
図5は銀の需要を用途別に見たものです。
図5:銀の用途別の消費量
工業用の消費が緩やかに減少していることが、図5からわかります。工業用の消費は消費全体のおよそ54%を占めるため、このカテゴリの減少は銀の消費全体を押し下げる要因となります。
工業用の消費における用途とその割合は、電気機器・電子部品(41.6%)、太陽電池関連機器(13.6%)、ろう材・はんだ(9.9%)、写真のフィルム(8.0%)、エチレン・オキサイド(1.8%)、その他の工業用(25.1%)となっています(2016年時点)。
最も割合が大きい電気機器・電子部品の2016年の消費量は、直近のピークとなった2010年に比べて12%減少となりました。大きく需要が落ち込んだリーマン・ショック直後の2009年の水準に接近しています。
また、太陽電池関連機器の消費量の割合は2番目に高いものの、まだ年ごとの増減にばらつきがあり、銀全体の消費を底上げする力強さは見られません。
このような工業向け消費の減少傾向が、銀価格が大きく上昇しにくい状況を作っていると考えられます。
銀価格の動向は、オリンピックが開催される間隔のように2年、あるいは4年という長期的な視点で見守っていく必要があると言えるのかもしれません。
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