「自社株買い」で株価が上がるホントの理由をやさしく解説
トウシル / 2018年2月21日 7時55分
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「自社株買い」で株価が上がるホントの理由をやさしく解説
今日は、読者から質問の多い、「自社株買い」の意味を、解説します。
企業が、自社株を買うのは、なぜ?
近年、自社株買いを発表する上場企業への投資家の注目が高まっています。自社株買いとは、文字通り、自社が発行している株を、買い戻すことです。具体的に言うと、「JT(2914)がJTの株を買う」、「NTTドコモ(9437)がNTTドコモの株を買う」のが、自社株買いです。
なんのために、そんなことをするのでしょうか? もっとも重要な理由は、株主への利益配分を増やすことです。自社株買いは、利益配分を増やす重要な手段なのです
株主への利益配分を増やす方法として、主に2つあります。
(1)増配(ぞうはい):1株当たりの配当金を増やすこと
(2)自社株買い
増配も喜ばれますが、近年は、自社株買いがより高く評価される傾向があります。
自社株買いは、なぜ株主への利益配分になるのか?
「自社株を買うんだから、株価が上がるのでしょ」と、自社株買いの意味を「買いが入る」という需給材料だけと考えている方もいます。
確かに「自社株買い」を発表した企業の株価が、短期的に大きく上がることもあります。自社株買いをネタに、短期筋が買い上がると、そうなります。でも、それだけならば、短期的な株価材料にしかなりません。企業の投資価値が変わらなければ、いずれ売られて、元の株価に戻るでしょう。
自社株買いの意味は、「買って株価を押し上げる」ことではありません。「1株当たりの利益を増やす」ことにあります。
自社株を買うと、発行済み株式数が減ります。会社の利益総額が変わらなければ、1株当たり利益が増えます。「1株当たりの利益が増えることを好感して株価水準が高くなる」ことが期待されるわけです。
少しわかりにくかったかもしれないので、「たとえ話」で説明します。40個のケーキ(企業の純利益)を株主10人で均等に分け合うことを考えてください。1人4個ずつもらえます。ここで、企業が自社株買いを実施し、株主2人の株を買い取ったとします。すると、株主数は8人に減るので、1人当たりのケーキの割り当ては、5個に増えます。
自社株買いとは、株式数を減らすことで、1株当たりの分け前を増やすことでもあるのです。
自社株買いは、会社にもメリットがある
自社株買いは、株主へのメリットが大きいですが、会社にもメリットがあります。買い取った自社株に対して、会社は配当金を払わないで済みます。買いつけた株数の分だけ、配当金の支払い総額を減らすことができるのです。
米国企業は、自社株買いを、財務戦略の一環として重視しています。昔、米国企業の投資家説明会で、自社株買いの目的を「自社株への投資が、一番利益率が高いので実施する」と説明していたのを聞いたことが印象に残っています。
簡単な例で説明しましょう。
A企業が、余剰キャッシュを10億円持っていたとします。その使い道に、(1)設備投資、(2)借金返済、(3)自社株買い、(4)大口定期預金の4つの選択肢があったとします。
- 設備投資のニ-ズなく、無理に投資しても投資利回りは2%しか期待できない
- 借入金利は2%
- 自社株の配当利回りは3%
- 大口定期預金の利回りは0.01%
この場合、自社株買いの利回りが一番高くなります。配当金は、税引き後利益から払われます。配当金を減らせば、税引き後で3%のリターンが得られます。税引き前では、4.5%程度の高い確定利回りが得られる計算となります。
このような場合に、財務戦略として、自社株買いを実施することが、会社にとって一番利益率の高い投資先となるわけです。米国企業は、そういうことを説明していたのです。
自社株買いのメリット、おおまかな計算
自社株買いを発表する企業が増えています。発表された自社株買いが、株主にどのくらいのメリットがあるか、おおよその見当をつける方法を、お教えします。
発表された自社株買いが、すべて実行されるとした場合、発行済株式数が何%減るのか、見ると良いです。
具体例を見てみましょう。以下は、2017年9月11日に発表された、日本郵政(6178)の自社株買いの概要です。
- 取得対象の株式の種類:自社の普通株式
- 取得し得る株式の総数:100,000,000株(上限)(発行済株式総数に対する割合2.43%)
- 株式の取得価額の総額:1,000億円(上限)
- 取得期間:2017年9月13日から9月22日
- 取得の方法:株式会社東京証券取引所の自己株式立会外買付取引
ここで、一番注目していただきたいのは、青で表示した、発行済株式総数に対する割合です。2.43%となっています。上限株数を買い付けると、発行済株式総数が、2.43%減少します。ということは、1株当たり利益が、おおむね2.43%増えるわけです。
つまり、PER(株価収益率)などの株価評価が変わらなければ、自社株買いで、1株当たり利益が2.43%増加し、株価が2.43%程度、上がると期待することができるわけです。
厳密に計算すると、もう少し異なる結果となりますが、ざっくりしたメリットの把握としては、上記でオーケーです。
自社株買い発表をネタに短期マネーが売買すると、株価は乱高下する
大規模な自社株の市場買い付け枠を設定した企業に対して、短期マネーが先回りの買いを入れて、株価が上がることもあります。自社株買いが続いている間、株価は堅調です。ところが、短期マネーは「自社株買い付け終了」が発表されるときには、株を売ります。
短期マネーが注目するのは、自社株買いで1株当たり利益が増えることではなく、株の買い付けで短期的に株が上がることだけです。
ファナック(6954)やアマダHLDG(6113)など、バランスシートにキャッシュをたくさん抱える企業が、自社株買いを積極化すると発表したときは、短期的に株価が急騰しました。自社株買いそのもののメリットより、「自社株買い積極化」という材料が重視されたためです。
こうした自社株買いからみの、投機筋の動きには、注意が必要です。
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