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「経済成長」に賭けるより「マーケット」を信じよう

トウシル / 2018年3月7日 8時4分

「経済成長」に賭けるより「マーケット」を信じよう

「経済成長」に賭けるより「マーケット」を信じよう

力の入りすぎ…

 多くの投資書籍を読んだり、セミナーを聞いたりしていて、思わず「訂正」を入れたくなることがある。

 それは、著者や講師が「投資とは、経済成長に賭けることだ」とでも言いたげな前提で、自説を述べるからだ。実際に勧められる行動は、「投資をやってみましょう」という話なので、たいてい結論には賛成だから、目くじらを立てるほどのことではないのだが、話者の「前提にある勘違い」はやはり気になる。

 たとえば、「世界経済は、まだまだ成長するので、国際分散投資で儲かるはずだ」とか、「新興国は、これからしばらく高い成長率が見込めるので、新興国に投資するファンドを持とう」とか、「資本主義というシステムの繁栄を信じて投資しましょう」とか、あるいは、バージョンの異なる話では、「東証一部には成長が期待できない腐った会社がたくさんあります。我々は、リサーチに基づいて大きな成長が期待できる会社にのみ投資します」といった話を聞いたとして(もしくは、本で読んだとして)、読者は、違和感を覚えないだろうか。

 資本主義の繁栄を信じるというに至っては、かつて逆の思想を「信じて」学生運動に走った人々を裏返しにしたくらい痛々しいし、最後の腐った会社云々というような宣言は(そういう会社がたくさんあることにはまったく反対しないが)、投資の原理から考えると、素人を感動させるための勇ましいはったり口上としか聞こえない。素人はともかく、プロは騙せないはずだ。いずれの台詞も、力の入りすぎとでも言うしかない。

 端的に言って、「投資って、成長する対象を買わないと儲からないものなのですか?」という疑問が湧かないだろうか。

 

簡単な数値例

 この種の話は、具体的な数値例を挙げて説明するほうがわかりやすいだろう。

 株価Pを、将来の純利益(配当でもいい)の割引現在価値の合計だと考えて、
割引率をr、純利益の成長率をg(均一の成長率で将来までずっと続くと考える)、予想される1期目の一株利益をEとして、理論株価を求めると、以下のようになる(高校2年生くらいで習う「等比数列の和の公式」で求められる。文系に進学された方も、勉強されたはずだ)。

P=E/(r—g)

 rやgは、例えば年率5%の場合、0.05、0.01といった調子で数字を代入して欲しい。長期の話なので、r>gである。

 rは割引率だが、その中身は、無リスクの金利iと投資家がリスク負担に求める追加的なリターンであるリスクプレミアムpの合計だ。r=i+p、である。

 さて、最近は長短共にほぼゼロ金利なので、つい金利を忘れそうになるが、リスク無しの金利iを1%(=0.01)、リスクプレミアムは5%(=0.05)だとして、さらに一期先の一株利益をEを100円として、理論株価を求めてみよう。

 先ず、利益がゼロ成長の場合は、以下の通りだ。

  1. 利益がゼロ成長の場合
    P=100/(0.06)=1666.6… 、小数第一位を四捨五入して、1,667円だ。

    次に、利益が年率2%でプラス成長するとした場合、以下のようになる。

  2. 利益が永続的に2%成長する場合
    P=100/(0.06 – 0.02)=2500 、2,500円となる。

    それでは、利益が年率マイナス2%成長の場合を考えると、以下の通りだ。

  3. 利益が永続的にマイナス2%成長する場合
    P=100/{0.06−(−0.02)}=100/0.08=1250、今度は1,250円となる。

 利益成長率が高い場合はより高い株価が付き、ゼロ成長の場合はそれほど高くない株価が付き、マイナス成長の場合より低い株価が付く。おおまかに言い直すと、利益成長が高くても低くても「それなりの株価」が付くということだ。

 そして、いずれの場合も、理論株価で投資家が投資した場合の期待リターン(投資収益率)は6%だということになる。

 市場が正しく機能しているなら、利益の成長率が高くても、低くても、投資家が負担するリスクに見合ったリスクプレミアムが実現するということだ。

 これで安心するというのは、いささか情けないかも知れないが、人口減少とこれに伴う低成長が予想される日本に暮らす投資家としては、ホームマーケットに投資しても、高成長率国の株式投資並のリターンを期待していいのだから、安心材料ではないだろうか。

マーケットをどれだけ信じるか

 投資家に残された問題が3つある。

 1つはマーケットに正しく株価を付ける能力があるのかということであり、もう1つは利益成長率の予想がどのように変動するのかということであり、最後に自分は利益成長率の予想ゲームにあって優位に立てるのかということだ。

 あとの2つについて補足するなら、理論株価は「市場参加者が抱く利益予想の見通しに対して」形成されるものだ。現実の利益の推移は、あくまでも市場参加者の予想に影響を与える点で重要なのだ。

 3つの問題の中で、最も重要なのは、マーケットの価格形成能力を信じるか否かだろう。

 マーケットがときどきは間違えるのだとしても、正しい価格を実現する傾向を持っているのでなければ、利益成長率がわかっていても、あるいは利益成長率を当てるゲームで優位をもっているのだとしても、投資が上手く行くと期待できる根拠がなくなってしまう。

 率直に言って、マーケットはときどき間違えるように思う。市場の価格全般におよぶ間違いをすることもあれば、個々の銘柄の価格形成に関して大きく間違えることもある。とはいえ、マーケットは、少なくともときどきは正しい方向に向かって価格(株価)を形成しているように思われる。常に信じるわけにはいかないし、ときどき疑ってもいいのだが、ある程度はあてにしてもよさそうだ。

 一方、利益は予想しにくい形で変動するし、特定の市場参加者が、利益予想を他の市場参加者よりも正確に行うことは簡単ではない。

 ちなみに、「利益予想の変化」が理論株価に与える影響は大きい。それがどのくらいの時間で株価に反映するのかについてはさまざまな意見があるだろうが、マーケットの価格形成が概ね正しく機能するなら、(1)高成長が期待されていたのに成長率が落ちた銘柄よりも、(2)低成長(あるいはマイナス成長)が期待されていてそれが少しマシに改善された銘柄のほうが、投資していた場合のリターンは大きい理屈だ。

 もっとも、個々の投資家にとって、高成長が予想されるマーケット(国単位の株式市場)あるいは銘柄がいいのか、低成長が予想されているマーケットあるいは銘柄がいいのかは、判断が難しい。

「両者は異なるが、どちらがいいのか判断できない」という前提条件での正しい(期待値として「得」な)意思決定は、両方を持つことだ。マーケットについても銘柄についても、成長率が高いものと安いものの両方に幅広く分散投資するのがいいのだ。

 投資家が最後に信ずるべきは、経済成長でも資本主義でもなく、マーケットの価格形成機能なのである。

 

追伸

 ところで、投資家は、「現在の」株価が、どのような利益成長率を前提にしているのか、あるいはその利益成長率に対してマーケットが正しい価格形成をしているのかを、知ることができない。先月(2018年2月)以来の内外の株価の下落や激しい値動きを見ると、現在の株価が高すぎるのではないか、あるいは、自分も含めた市場参加者の成長率の見通しが甘すぎるのではないかといった、「不安」や「嫌な感じ」を覚えるのではないか。

 しかし、この不安と嫌な感じの確かさこそ、市場での価格形成にリスクプレミアムが含まれると期待できる最大の根拠なのだ。

 投資家にとって、不安は友達だ。不安があるからこそ、高いリターンが期待できる。

(山崎 元)

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