消耗する空中戦?しばらく乱高下する横ばい相場か
トウシル / 2018年3月8日 15時43分
消耗する空中戦?しばらく乱高下する横ばい相場か
市場は、トランプの保護主義よりコストプッシュインフレを嫌がっている
トランプ政権が鉄鋼とアルミニウムに対する輸入制限措置を発動するというので、「貿易戦争か?」と大騒ぎだが、保護主義は元々トランプの公約である。今回の輸入関税問題は、相場が下げているので、その説明に使われているだけという側面もある。トランプはビジネスマンなので、「TPP(環太平洋経済連携協定)やNAFTA(北米自由貿易協定)の交渉を考えてブラフをかけているだけ」との見方もあり、ブリッジウォーター・アソシエーツで世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオは、「トランプの輸入関税は政治ショーだ」と述べている。
NYタイムズのブログでポール・クルーグマンは「保護主義という毒薬を用いても短期的には貿易赤字はたいして解消しないし、輸入品価格の上昇を通して物価上昇をもたらすことになる」と、トランプを批判している。トランプの保護主義を市場が嫌がっているのは、コストプッシュインフレを招くからだ。現在の人為的に吊り上げられた株式市場にとって死の宣告となるのはインフレである。
FRB(米連邦準備制度理事会)は過去の景気後退局面で4~5%の利下げで対応しているが、現在の利下げの<のりしろ>は1.25%しかない。今後、株式市場が大幅に下落すればQE4(量的緩和 第4弾)を行うしかないだろう。しかし、インフレになれば、中央銀行は利下げもQEもできない。この中央銀行バブルと呼ばれる過剰流動性相場の終わりのシグナルはインフレだ。現在のドル安や金利上昇は、トランプ政権に対して市場が警鐘を鳴らしているのである。
米国の景気やバブル相場の延命は、保護主義では持続不可能なのである。しかし、「ウォール街は虚業だ。自分は実業家である」と胸を張るトランプは、ヒラリー・クリントンとは真逆の<反ウォール街・反軍産複合体>という、ある意味で革命的な政治家であり、表面的な発言とは裏腹に、心の奥底では「株価が暴落しようが俺の知ったことではない」と思っているはずである。仮に株が暴落すれば、米国のディープステート(影の政府)はひっくりかえってしまうので、トランプには政敵がいなくなるという点で好都合かもしれない。
今後、トランプ政権の<ドル安+保護主義的傾向>が強まると、中国が米国債を売ってくる可能性が高まる。中国政府系の債券格付け機関である大公が今年1月に米国債を格下げしたが、これは、中国のトランプに対する警告であると言われている。
マーケットはトランプの発言に振り回されているが、今週、筆者はマーケットからいったん、離れている。米国の長期金利の上昇がいったんピークアウトしているからだ。バブルが延命できるか否かの焦点はインフレだと考えている。したがって、長期金利が上がらないと完全なリスクオフ相場にはならない。株式市場も為替市場も空中戦的な往来相場になるだけだろう。
トレンドのない調整相場は、チャートのフォーメーションが読みづらい。加えて、相場のボラティリティ・レベルも高いうえ、場づらのいいところで相場に乗ると、「売ってやられ、買ってやられ」という消耗戦になりかねない。
米国10年国債金利(日足)
ラリー・ウィリアムズの順張り売買システムのシグナル
ラリー・ウィリアムズの<順張り売買システム>(ラリー・ウィリアムズ・エキスパート)で、NYダウ、日経平均、ユーロ/ドル、ドル/円のトレンドを見てみよう。株式市場はゴルディロックス相場に変化が生じ、2月からはこれまでの相場の調整(反動)局面に入っていることがわかる。為替市場の方はドル安傾向だが、特に円高の動きが際立っている。
NYダウ(日足)
日経平均(日足)
ユーロ/ドル(日足)
ドル/円(日足)
ADXと標準偏差ボラティリティでみるトレンドの判定
ADXや標準偏差ボラティリティの推移から日足相場をもう少し詳細に見てみると、現在の相場はNYダウ、日経平均、ユーロ/ドル、ドル/円も調整色の強い展開となっている。ドル/円の円高トレンドもいったんピークアウトしてもおかしくはない形状だ。このような相場環境で無理をする必要はない。このマーケットはしばらく乱高下するだけの、はっきりしない横ばい相場になるかもしれない。次の明確なトレンドの示唆を待ちたい。
NYダウ(日足)
日経平均(日足)
ユーロ/ドル(日足)
ドル/円(日足)
(石原 順)
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