FOMCの決定と貿易戦争の綱引きの行方は?
トウシル / 2018年3月28日 17時0分
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FOMCの決定と貿易戦争の綱引きの行方は?
FOMC利上げ決定後の動き
先週(3月20日~21日)開催された米国の金融政策決定会合であるFOMC(連邦公開市場委員会)では、マーケットの予想通り0.25%の利上げを決定し、政策金利を1.5~1.75%にしました。
FOMC後、いったんドルが買われ、ドル/円は106円台半ばまで上昇しましたが、その後、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長の記者会見が始まるとドル安の動きとなりました。
ドル安、円高となった背景は、次のことが挙げられます。
- 今年の利上げ見通しが3回に止まった
- 成長率見通しは図1のように2018年、2019年と上方修正されたものの記者会見で、今後の景気見通しは貿易政策の影響でリスクとみて、経済見通しに反映されていないと説明。成長の長期見通しにも慎重だった
- インフレに対する見方が予想よりハト派だった
そして米国株も大きく下げたことから、ドル/円は106円割れとなりました。
図1:FRB成長率見通し(中間予想値・2018年3月時点)
年 | 2018 | 2019 | 2020 | 長期 |
---|---|---|---|---|
今回3月見通し | 2.7 | 2.4 | 2.0 | 1.8 |
12月見通し | 2.5 | 2.1 | 2 | 1.8 |
9月見通し | 2.1 | 2 | 1.8 | 1.8 |
FRBの経済見通しから、相場を見通す
FRBは3カ月ごとに経済見通しを公表しています。
今回公表した3月時点の成長率見通しは図1の通り、2018年、2019年が上方修正されています。
9月時点の2018年見通しは2.1%のため、減税の影響効果を相当織り込んでいることがうかがえます(2.1%→2.5%→2.7%)。
しかし、2020年の見通しは2.0%で変わらず、長期見通しも1.8%で変わらずとなっています。減税で設備投資が増え労働生産性が上がると説明しながらも、長期の経済見通しは変えていないのはやや矛盾を感じます。見方に迷いがあるのではないかと思わせる長期見通しです。
図2は、FRBが注目するインフレ指標のコアPCE(個人消費支出)価格指数です。
2019年、2020年は0.1%上方修正されていますが、2018年のコアPCE見通しは変わらずとなっています。FRBが目標とする物価上昇率2%に達するのは2019年までかかるとみており、インフレに対する見方が予想よりハト派の見通しとなっています。
図2:FRBコアPCE見通し(中間予想値・2018年3月時点)
年 | 2018 | 2019 | 2020 | 長期 |
---|---|---|---|---|
今回3月見通し | 1.9 | 2.1 | 2.1 | - |
12月見通し | 1.9 | 2.0 | 2.0 | - |
9月見通し | 1.9 | 2.0 | 2.0 | - |
それでは、これら成長率と物価の見通しを前提とした政策金利見通しは、どのようになったのでしょうか。図3は、FRBの政策金利の見通しです。
図3:FRB政策金利見通し(中間予想値 2018年3月時点)
年 | 2018 | 2019 | 2020 | 長期 |
---|---|---|---|---|
今回3月見通し | 2.1 | 2.9 | 3.4 | 2.9 |
12月見通し | 2.1 | 2.7 | 3.1 | 2.8 |
9月見通し | 2.1 | 2.7 | 2.9 | 2.8 |
利上げ回数 | 3回 | 3.回 | 2回 | ― |
FOMCの参加者15人が想定する2018年の利上げ回数(中央値)は年3回となっています。ただ、利上げ回数を年4回以上とみる参加者が前回の4人から7人に増えています。
また、2019年の利上げ回数の見込みは、これまでの年2~3回から年3回となっています。今年の利上げ回数の見込みは年3回にとどまりましたが、前回よりも利上げペースが速まる可能性がある見通しとなっています。
このように政策金利の見通しはタカ派寄りとなっていますが、FOMC後の記者会見でパウエル議長は慎重な言い回しに終始し、利上げについても「我々は中立的な立場を取るよう努めている」と発言したことから、タカ派的な見方が後退しました。上昇した長期金利も低下し、ドル安の動きとなりました。
米vs中の貿易戦争懸念はいったん落ち着くが…
結局、FOMCを受けてドルは売られましたが、急激な円高とはならずドル/円は106円前後にとどまりました。
ただ一時、105円台に下落し、これまでの安値105.24円を抜けて104円台に突入したのは、米国の関税引き上げに対する報復措置によって貿易戦争が拡大するのではないかという懸念によるものでした。特に米債売りなどをちらつかせている米中報復合戦の拡大を市場は警戒していますが、米朝首脳会談も控えており、双方が傷つくようなことは避けるのではないでしょうか。
などと、考えていたら、米中両国が貿易摩擦回避に向けて水面下で交渉を始めたというニュースが伝わってきました。このニュースを受けて、ドル/円はこれまでの安値105.24円以上に押し戻されています。
今週は月末、期末の需給要因で相場は翻弄されやすい週ですが、月末、期末までに105円台半ば以上に押し戻されれば、さらなる円高の動きは来期に持ち越しかもしれません。
貿易戦争は拡大するか鎮まるのかはまだわかりませんが、貿易摩擦が収束すれば、焦点は再び米国の景気と利上げペースに移りそうです。
今年の利上げが年3回であれば、利上げはあと2回となります。今回のFOMCを受けて6月の利上げの確度は上がってきました。9月は11月の中間選挙が控えているため、3回目の利上げは12月になる可能性との見方があります。このまま着実に利上げが進み、貿易戦争が鎮まれば、ドルのサポート要因になりますが、一方でこういう見方もあります。
現在の米景気はここ10年で相当強い状況にあるため、この景気の強さを今年後半も維持できるのかどうか。もし、景気が頭打ちとなれば、その環境でさらに利上げをしていくことが可能なのかどうかという見方です。
そこにいったん収束したかもしれない米保護主義の動きが、11月の中間選挙が近づくにつれて再び吹き荒れれば、株安、ドル安の相場となることも予想されます。今後の利上げ後のシナリオはかなり複雑な様相になるかもしれません。
(ハッサク)
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