<8>ほどよい格差が資本主義を安定化させる?
トウシル / 2018年4月6日 17時56分
![<8>ほどよい格差が資本主義を安定化させる?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushiru/toushiru_13128_0-small.jpg)
<8>ほどよい格差が資本主義を安定化させる?
投資小説:もう投資なんてしない⇒
第2章 資本主義に飲み込まれるか、味方にするか?
<第4話>ほどよい格差が資本主義を安定化させる?
「資本主義は、個人が自由に経済活動できるだけでなく、社会に活力をもたらす、イノベーションが興りやすい、などメリットがあります。一方で、弊害も少なくない社会です。20世紀に社会主義革命が起きたのはこのためです。ただ社会主義は、資本主義以上に不都合が生じることが理解され、21世紀の今日では賛美する人は少ないことは知っていますよね」
「先生、私もそれぐらいはわかります。ベルリンの壁が崩壊したことがその証拠ですよね」
隆一は、かつての記憶を引きずり出してみた。
「その通りです。まさにベルリンの壁崩壊がその象徴的な出来事です」
先生はここで一息つき、再びコーヒーを入れなおした。
「資本主義にはプラス面、マイナス面があります。マイナス面が出たときには、経済もマーケット環境もそれによって短期的な影響をかなり受けます。まさにリーマンショックというのは金融機関を自由にさせすぎた結果です。このようなとき、株価が半年で半分になるような大きなインパクトが出てしまいます」
「リーマンショックは覚えています。あのあとうちの会社もだいぶあおりを食いました」
先生は、ふむとうなずき、隆一がある程度、話に付いてきていることを確認して続けた。
「資本主義は富裕層ほどその恩恵を、貧困層ほど弊害を感じやすい社会です。富裕層が多数派になれる社会を作ることは難しく、むしろ、恩恵と弊害がバランスよく反映される中間層が多数を占めないと、資本主義は不安定化します。しかしながら、『少数の富裕層』と『多数の貧困層』という貧富の格差が大きい社会になれば、資本主義の恩恵より弊害を感じる人のほうが多くなって、反資本主義の人々が増えます。社会が分断されたり、暴動、テロなどが起こったりするわけです。リーマンショックのあと、ウォール街では大規模なデモが起こりました。これは、『どうして、資産額トップ1%の人のような富裕層が経営する金融機関を、一般庶民の税金で助けなければいけないのか』という怒りの現れです」
隆一の心配どおり、投資がすぐうまくなるとは思えない話が続いたが、いち庶民である自分にとっては共感できる話だった。
「それだけでなく、バブルが起きやすいこと、経済格差をもたらすこと、そして、自由に商売ができる半面、不正や不公正も起きやすいことなどが、資本主義のもたらす典型的な弊害です」
「先生、バブルや経済格差と長期投資がどう結びつくかわかりません」
「まだそれでかまいません。私が体系的に投資のことを教えたいというのは、あなたが今感じているような知識の点と点を線で繋げて、それを面にしていく作業のことです。いまは一見、投資と関係ないと感じる知識をインプットしている段階です。ただ、必ずこの作業があとで効いてくるので、ここは我慢をして聞いてください」
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/0/5/-/img_05181e718fa20f27d1b92a7729c4c0fa82485.jpg)
資本主義と倫理が、長期投資の成否を決める?
「資本主義は、社会の仕組みであると同時に、一つの思想でもあります。資本主義を学ぶ意義は、何も社会の仕組みを理解することだけではありません。『善き生活習慣』を学ぶことにもなります」
<おいおい、経済の話ならともかく、生活習慣って。さすがに訳がわからんぞ>
隆一は、たまらず聞きなおした。
「善き生活習慣って何ですか?」
「たとえば、ヨーロッパで近代資本主義社会を創り上げた人々が体現していた精神を『資本主義の精神』と呼んでいます。同じ働くのでも、カネを儲けたいとか、贅沢をしたいとかの動機からではなく、勤勉と倹約という生活習慣が尊い生き方であり、豊かになるのはその結果に過ぎないと考える倫理観です。日本人にも、『働くことそのものが尊い』『倹約はケチとは異なり、家を治め、身を修めること』という類の伝統がありました。その倫理観が、日本がアジアでいち早く近代資本主義国家を築き上げたという見方もあります。いまは『働き方改革』や『ワークライフバランス』などと言われて、勤勉と倹約という道徳律はあまり流行りませんが、資本主義とは単なる営利活動の仕組みではなく、渋沢栄一が<論語とそろばん>と表現したように営利と倫理は一体である、ということです。日本の<資本主義の父>と言われた人物の言葉ですよ」
先生は続けた。
「私が言いたいのは、仕事も投資も『カネ儲け』という動機だけで取り組むより、勤勉に働くこと、節度を持った生活をして世に役立つことこそ価値ある人生であり、そうした暮らし方を貫く一環として仕事をし、投資をするほうが長続きするし、成功への近道でもあるということです。儲けたい、もう少しおカネが欲しい、というのは誰しもやまやまでしょうが、仕事でも、投資でも、本当に傾注できる人には、カネ儲けという動機だけではない生活倫理のような倫理観が背景にある、ということです」
「先生、『稼ぐことは善』と言ったくせに、『投資でカネを儲けたい』ではなぜ、いけないのですか?」
いらだつ隆一を遮るように先生は続けた。
「あなたが、投資で痛い目にあわないためです。投資で儲かることは重要ですが、それだけでなく、投資という行為を人生の中できちんと位置づける倫理観を持たないと、投資の勉強にも身が入らないし、実際の投資で直面するマーケットの短期変動にメンタル面でも克服できないからです。それでは、長続きしないし、長期投資の成果も乏しくなります。私はここの理解を飛ばして、投資で酷い目に合った人をたくさん知っています」
(中桐 啓貴)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
広がる「絶望死」...先進国で唯一、低学歴層の死亡率がアメリカで上昇している理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月24日 11時0分
-
「オバマ政権の大失政」が生み出したトランプ現象 告発された「金融業界癒着」「中間層救済放棄」
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 8時20分
-
ワイマール時代のような日本株の上昇と円の下落
トウシル / 2024年7月11日 18時23分
-
全世界化した資本主義が向かう「3つのシナリオ」 現代の「知性」は資本主義の暴走を止められるか
東洋経済オンライン / 2024年7月9日 10時30分
-
サプライチェーンが持つ脆弱性の打開のカギは企業幹部の「インセンティブ改革」にあり
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月3日 15時56分
ランキング
-
1「キャンプブーム」は終わった アウトドア業界はどの市場に“種”をまけばいいのか
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月31日 7時30分
-
2「身代金」「初動対応」、"KADOKAWA事件"の教訓 凄腕ホワイトハッカーが語る日本企業への警告
東洋経済オンライン / 2024年7月31日 8時0分
-
3トヨタ自動車、国交省「是正命令」受け謝罪 型式指定不正の原因は「現場と経営の両面」体制見直しへ
ORICON NEWS / 2024年7月31日 17時47分
-
4【速報】日銀が追加利上げを決定 政策金利0.25%程度に 長期国債買い入れは26年1~3月に月間3兆円程度に
日テレNEWS NNN / 2024年7月31日 13時12分
-
5日銀、追加利上げ決定=政策金利0.25%に―国債購入、月3兆円に段階縮小
時事通信 / 2024年7月31日 13時44分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)