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米シリア攻撃で日本株どうなる?日米首脳会談も波乱材料に

トウシル / 2018年4月16日 7時50分

米シリア攻撃で日本株どうなる?日米首脳会談も波乱材料に

米シリア攻撃で日本株どうなる?日米首脳会談も波乱材料に

先週の強弱材料:貿易戦争緩和の期待、シリア情勢に再び暗雲

中国が市場開放?

 先週の日経平均株価は、1週間で211円上昇し2万1,778円となりました。中国の習近平国家主席が10日、海南省ボアオで開催中のアジアフォーラムで演説し、中国市場の一段の解放を強調したことが好感されました。米中貿易戦争が収束に向かう期待から、鉄鋼、非鉄、機械、海運などいわゆる中国関連株が買い戻されました。米国でも、中国向けの輸出が多く、米中貿易戦争の懸念で売り込まれてきた航空大手ボ-イングや、建設機械キャタピラーなどが大きく反発しました。

 

米国がTPP復帰?

 トランプ大統領が12日、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への復帰を検討する発言をしたことも、好感されました。日本は、米国抜きのTPP11発効に向けて努力しているところですが、米国が復帰するなら、米国を含む環太平洋12カ国の自由貿易推進につながります。

 

シリア情勢に暗雲

 トランプ大統領は9日、シリアのアサド政権による化学兵器の使用疑惑を受けて「24時間から48時間以内に大きな決断をする」と述べました。アサド政権へ軍事行動を起こすことを示唆するもので、アサド政権を支持するロシア・イランとの対立が深まることが危惧されました。実際、米英仏3カ国は13日、アサド政権が化学兵器を使用したと断定し、共同作戦で化学兵器関連施設3カ所をミサイル攻撃したと発表しました。

 

米シリア攻撃、3つの背景

 米トランプ政権が、英仏と共同で、アサド政権に対しミサイル攻撃を仕掛けたのには、3つの背景があると考えられます。

1.アサド政権がシリア内の反アサド派に対し、化学兵器を使用した疑いがある

 トランプ大統領は、化学兵器の製造、拡散、使用に歯止めをかけるために、アサド政権への攻撃が必要と判断しました。

2.シリア内のIS(イスラム国)勢力一掃で、改めてアサド派・反アサド派の対立が深刻に

 シリアは、ロシア・イランが支援するアサド政権と、米英仏が支援する反アサド派と、IS(イスラム国)の三つ巴(どもえ)の内戦で、泥沼化していました。2015年にISの勢力が拡大し、欧米でISによるテロが頻発すると、欧米ロシアサウジアラビアなどが共同で、ISを空爆するようになりました。アサド派・反アサド派の戦闘を中断し、IS掃討に集中しつつありました。

 共闘作戦が成功し、シリアからIS勢力はほぼ一掃されましたが、そのために、再び、アサド派と反アサド派の対立が深刻化しつつあります。アサド政権による、反アサド派への攻撃が続く中、欧米トルコは、アサド政権を支援するロシア・イランへの反感を募らせていました。

 

<参考>シリア内戦、これまでの経緯

 2011年、独裁政権であったアサド政権に対し、「アラブの春」に感化された反政府勢力が立ち上がり、武力衝突が起こったことが内戦の始まりとなりました。反政府勢力を欧米トルコなどが支援する一方、アサド政権側をロシア・イランが支援したため、内戦は長期化しました。反アサド派と総称されるシリア国内の勢力は、多様な民族・宗教の集合体でした。民族・宗教の対立が複雑にからんだため、反政府勢力は一枚岩とはならず、分裂した戦いが続きました。

 事態を複雑にしたのは、反政府勢力の一部が、イラクで活動する武装勢力IS(イスラム国)と結びついたことです。ISの勢力拡大を抑えるために、米国はシリアへの空爆を開始しました。空爆には英仏独など欧州諸国やIS勢力の拡大を恐れるサウジアラビアなど中東5カ国も参加しました。

 こうしてシリア内戦はアサド政権・反政府勢力・ISと三つ巴の争いとなりました。アサド政権から米国に対し、ISの勢力拡大を抑える戦いに集中するために連携する提案がなされていますが、米国はこれを拒否しました。シリア内戦は終結のメドがなくなり、シリア国民は日々生命や生活を奪われる危機から逃れるために、国外に脱出し、トルコ経由で多数の難民が欧州に流れ込みました。

 欧米ロシア中東5カ国が共同で、ISを空爆する中、ロシア軍機が、ISだけでなく、反アサド派も空爆しているとの疑惑がしばしば語られていました。反アサド派には、トルコ系住民が含まれるため、トルコもこの問題を深刻にとらえていました。2015年11月には、トルコ領内を通過してIS空爆に向かうロシア軍機を、トルコ軍が撃墜するという問題が起こりました。

 直接の原因はロシア軍機がトルコ領空を侵犯したことですが、背景には、シリア問題をめぐってトルコとロシアが対立していることがあります。

 2017年4月に、トランプ大統領が、ロシアに予告した上で、アサド政権の軍用施設のミサイル攻撃を実施しました。ISへの戦いに集中する中でも、アサド政権が反アサド派への攻撃を続けていたことへの警告でした。この時点では、トランプ大統領は、ロシアとの関係を悪化させないように、配慮していました。トランプ大統領は、もともとロシアと友好関係を樹立することに前向きだったからです。

 ところが、今回のミサイル攻撃では、ロシアへの事前通告はありませんでした。今後、米国とロシアの対立が先鋭化するリスクが生じました。

 

3.ロシアゲート疑惑で追い詰められているトランプ大統領は、ロシアに対し決然とした態度で臨む必要があった

 トランプ大統領は、もともと、ロシアのプーチン大統領と親密と公言していました。先の大統領選では、ロシアが米政府にハッカー攻撃をしかけ、トランプ氏に有利になる情報をばらまいた疑いが持たれています。トランプ大統領は、それに関与した疑惑(ロシアゲート疑惑)で追及されています。米国内の反トランプ勢力が、ロシアゲート疑惑で追及を強める中、トランプ大統領は、ロシアに対して決然とした態度を取る必要がありました。

 

日本株への影響は?

 米英仏のシリア攻撃が、世界の株式市場にどういう影響を与えるか、わかりません。2つの可能性があります。

(1)短期的に悪材料となるが、長い目で見て影響なし

 シリア内戦は、ISが勢力を拡大する前の状態に戻っただけと、考えることもできます。つまり、ロシア・イランが支援するアサド派と、米欧トルコが支援する反アサド派の内戦に、戻ると考えられます。内戦は長期化し、終息のメドがたたなくなりました。

 米欧と、ロシアの対立が先鋭化することは、世界経済にネガティブですが、直接、米軍とロシア軍がぶつかる不測の事態が起こらなければ、すぐに緊張が高まることはないとも言えます。

 

(2)米ロ対立が先鋭化し、米欧と、ロシア中国を巻き込んだ冷戦に発展するならば、ネガティブ

 米シリア攻撃が拡大し、アサド政権を支援するロシア軍に被害が出ると、米ロ対立が先鋭化するリスクがあります。中国とロシアが接近し、米国・欧州対、中国ロシアの冷戦が復活すると、世界経済に大きなマイナス材料となります。

 現時点では、(1)の可能性が高いと考えていますが、予断を持たず、事態の推移を見守る必要があります。

 日経平均は、当面、2万500円~2万2,500円の範囲で動くと予想しています。今週は、とりたてて大きな強弱材料が出ない限り、もう少し狭い、2万1,000円~2万2,000円の範囲で動くと、予想しています。強弱材料が同時に出ていて、上下ともすぐに大きくは動きにくいと考えています。

日経平均日足:2017年12月1日~2018年4月13日

 

 

日米首脳会談も、波乱材料に

 4月17日(火)~20日(金)、安倍首相は訪米し、フロリダ州パームビーチの大統領別荘にて、トランプ大統領と会談します。これは日米双方にとって、重要な会談となります。

 今回は、双方の主張をぶつけあう場になるでしょう。これまでの安倍―トランプ会談のように、日米友好関係を確認し、ゴルフや晩餐会で親密さを強調するだけでは済まないでしょう。日本は、北朝鮮への圧力継続などで米国の協力を求める見込みですが、米国は、貿易で日本の妥協を迫ってくる可能性があります。

 当初は、日米FTA(2国間の自由貿易協定)の交渉スタートを迫ってくると考えられていました。先週、トランプ大統領は、TPPへの復帰の可能性も口にしているので、TPPの条件見直しという形で、日本に譲歩を求める可能性もあります。

 米国は、鉄・アルミへの関税上乗せで、カナダ、メキシコ、欧州、韓国を適用猶予としたのに対し、中国と日本には、適用しました。カナダ・メキシコは、北米FTAの見直し協議中であることから、適用除外となりました。韓国も、米韓FTA見直しで、韓国が米国の要求を飲む交渉が進んでいたため、適用除外となりました。欧州ともさまざまな交渉が進んでいます。

 ところが、日本は、米国抜きのTPP11(環太平洋パートナーシップ協定)の発効を推進中で、日米FTA(自由貿易協定)の交渉スタートを受け入れていません。トランプ大統領は、これに不満を持ち、先月、安倍首相を名指しして、「各国首脳は、こんなに長い間、米国をだませたなんて信じられないとほくそ笑んでいるが、そんな日々はもう終わりだ」と発言しています。

 日本は、現時点で、日米FTA交渉のスタートも、TPPの条件見直しも受け入れる準備がありません。トランプ大統領はそこで進展がないと、日本にも厳しい姿勢をとらざるを得なくなります。

 トランプ大統領は、2016年の大統領選挙期間中に、対米貿易黒字が大きい中国・日本・メキシコを敵視する発言を繰り返してきました。大統領になってからは、日本を批判する発言は長らく封印していました。日本と友好を強め、中国やメキシコに強硬姿勢をとってきました。

 中国とは貿易戦争が泥沼化するリスクもありますが、習近平国家主席が10日、中国市場の開放推進を強調する演説を行なったことで、事態が収束に向かう期待も出ました。トランプ大統領は、ツイッターで習主席の講演に「とても感謝している」と書き込みました。

 中国が本当に実効性のある市場開放を進めるか、予断を許しません。それでも、とりあえず対中国で米国の主張を通す可能性が出たことに、手応えを感じているはずです。トランプ大統領は、こうした成果を得て、日本にも圧力を強めてくると思われます。

 もし、日米FTAの交渉がスタートすれば、食料品の例外5品目(米、麦、砂糖、乳製品、牛肉豚肉)のさらなる輸入自由化を迫ってくることは、明らかです。米国産の自動車輸入の促進策も求めてくるでしょう。

 ただし、自動車の輸入について、日本は関税をかけていませんが、米国は輸入に2.5%の関税をかけています。自動車の関税については、日本市場の方がより開放されているわけです。トランプ大統領が問題にしているのは、「非関税障壁」です。安全基準の違いや軽自動車の優遇などが、米国車輸入の障壁と主張しています。

 日米首脳会談で、どういった議論が出るのか、予想外の展開になることはないか、注意が必要です。

 

 

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