株好きにiDeCoはつまらない仕組みで役立たずなのか
トウシル / 2017年4月3日 0時0分
株好きにiDeCoはつまらない仕組みで役立たずなのか
投資好きに、iDeCoは物足りない?
先日、「自分は投資経験がそれなりにあるが、iDeCoは魅力を感じないので口座開設するつもりがない」という意見を聞きました。
これは、制度理解の面で考えればまったく未熟な判断です。掛金段階での所得控除と譲渡益非課税のメリットを理解できていない、ということは、投資にかかるコストに対する意識が低い、ということに他ならないからです。
自らがコントロール可能であり、口座選択によりその役割を明確化できる「税負担というコストの軽減」を、あえて利用しないというのはあまり有意義なこととは思えません。
(口座管理手数料も楽天証券のような運営管理機関にアカウントを開設すれば、月167円で収まり、これは掛金積み立てでの税制優遇のほうが上回るものと考えられます。こういう損得の理解も含めて「投資」です)
しかし、「投資として魅力がない」という気持ちは分からないではありません。
iDeCoのつまらなさといえば、下記のようなポイントがあげられます。
- 個別銘柄で株を買えない
- 好きなタイミングで入金(出金)できない
- 投資信託の本数は数十本しか選べない
- どんなに儲けても解約しておろせない
- 必ずゼロ円からのスタートである
(1年がんばっても数十万円にしかならない)
要するに投資のおもしろさ、特にダイナミックさのようなものを感じにくいのがiDeCoということになります。しかし投資好きこそ、iDeCoを上手に活用して欲しいと思うのです。
iDeCoの中では、あなたは長期投資家になるほかない
私たちが投資をすると、どうしても短期的な勝ち負けを気にする世界になってしまいます。
しかしiDeCoでは、長期投資家になることを余儀なくされます。60歳まで原則解約できないという制約と、リアルタイムトレードを行えないという制約が、長期スパンでの投資スタンスを求めることになるからです。
しかし、これはつまらないことではなく、むしろ投資家としての「幅」を広げることになると考えてみたいところです。
例えば、iDeCoを始めると「年率換算利回り」という数字を見るようになります。これは従来の個人投資では見なかった数字です。これは何かというと、「あなたのiDeCo内トレードのすべて」について利回りを見ようという考え方になります。
中長期的な視点にたって、運用利回りを捉える(かつそれを年率換算でそろえる)ということは本当は重要な視点ですが、個人が計算することが困難な数字のひとつでした。
年率換算利回りをもって、自分の運用成績を測るようになると、個別商品の売り買いの勝ち負けだけ自慢することは本質的ではない、ということに気がつかされます。たとえば
A株を2カ月保有して10%下がったので売った
B株を4カ月保有して20%上がったので売った
とき、たいていは後者を自慢しますが、自慢する人は購入(売却)金額や保有期間を考慮せず「個別の売り買いの実績」だけで語ります。
A株の取得価格は100万円で、B株の取得価格は20万円であれば、前者の取引の損失は10万円、後者の利益は4万円です。個別のトレードで「○%儲かった」はあなたの投資全体にはほとんど意味がありません。
また、トータルでは年間取引としてマイナス6万円である、という事実も考えなければいけません(同一年にこの2取引しか行わなかったとすれば)。
iDeCoにおいてはそうした「総取引全体で自分はお金を増やせているのか」という考え方をするきっかけになります。
メイントレード口座の勝ち負けが老後にも及ばない「防波堤」としてのiDeCo
また、iDeCo口座のよいところをもうひとつあげるとすれば、「老後資産のベース」になりうるアカウント、そして解約を絶対に避けられるアカウントを持てる、ということがあげられます。
iDeCo口座はどんなに儲けても中途解約を不可としていますが、これは言い換えれば解約の誘惑を法律が完全に断ち切っている、ということでもあります。税制優遇のトレードオフということになりますが、これはなかなか大胆なことです。
私たちは人生でお金を浪費したい誘惑と戦い続けなければなりません。一見すると必要な出費として正当化することもあります(本当は割安にしたり回避することができても、住宅購入、調度品の購入、学費の支出などを抑制し続けることは難しい)。
かといって、投資で貯めたお金を儲けるたびに崩していては老後資産形成はおぼつかないでしょう。老後資産形成のゴールは人生の一番最後に控え、金額は最大を求められ、ゴールテープを切ったあとにあわてて足し増すことはできない性格があり、油断した投資家ほど、老後に泣くことになるからです。
結果として、iDeCoが解約できないというシンプルな条件は、老後に納得がいくものになるかもしれません。
むしろ投資好きこそiDeCoを活用してみたい
iDeCoはつまらないと思いつつ、税制優遇はおいしいからやってみるか、という個人投資家は、5年くらい続けてみると、今までのトレードと異なった投資経験をしていることに気がつくはずです。
市場の騰落によらず、一定額を買い付け続けていく経験(特に下落基調において買い続ける経験)、市場が少々低迷して元本割れしてもあえて売らずに保有、市場の回復後に高利回りを達成した経験などが得られれば、あなたの投資には新しい選択肢が加えられたということになります。
上昇相場の端っこで利益を重ね、下落相場では全額現金化して様子を見るだけが投資ではありません。売りから入ることのできる信用取引で期限を切られた決済をするだけが投資ではないのです。
投資経験者、特に個別株式の投資の楽しみを知っている個人投資家はすでにNISAを使いこなしていると思います。同じようにiDeCoを使いこなす方法を考えてみて欲しいと思います。
(山崎 俊輔)
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