トランプが仕掛ける貿易戦争と通貨戦争の賞味期限はいつだ?
トウシル / 2018年7月27日 7時0分
トランプが仕掛ける貿易戦争と通貨戦争の賞味期限はいつだ?
通貨戦争の号砲
トランプ大統領は先週金曜日(2018年7月20日)に、「米国は非常に好調だからと罰せられるべきではない。現在の引き締めはこれまでの努力全てを損なう。違法な為替操作やひどい貿易の取り決めによって失ったものを取り戻すことを米国は認められるべきだ。債務の返済期限はやってくる。なのに、われわれは金利を上げている。本気か?」と述べた。これは、通貨戦争の号砲である。
米国の公的債務総額
レーガノミクスの時代の米国の負債は1兆ドル(110兆円)だった。それがトランプノミクスの今は20兆ドル(2,200兆円)に達している。
7月4日の『人民元の変動、アジア新興国通貨はなすがまま-通貨戦争の足音近づく』というブルームバーグの記事によると、「1ドル=7元まで下落なら新興市場全体でパニック売り起きる恐れがある」という観測が浮上してきたようだ。
ドル/人民元(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
ドルインデックス先物(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
米10年国債金利(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
今週はロシアの米国債売り発覚と日本の金融政策変更観測で米長期金利が上昇
「アバディーン・スタンダード・インベストメンツの新興市場ソブリン債責任者、エドウィン・グティエレス氏(ロンドン在勤)は、人民元は間違いなくリスクを強めているが、アジアではそれがはるかに大きくなると指摘。だが、中国当局は秩序が崩れるのを放置しないはずだ。資本流出の阻止に成功したばかりなのに、大幅な元安でその懸念を再び引き起こすようなことはしないだろうと述べた。中国人民銀行(中央銀行)は先週、ほぼ1年ぶりに中心レートを1ドル=6.7元を超える元安水準に設定し、20日には過去2年で最も大幅に中心レートを引き下げた。グティエレス氏は、1ドル=7元まで下落すれば、新興市場全体にパニック売りが広がるかもしれないと警告する。新興国通貨のうち、中国人民元は今月の下落率がトルコ・リラに次ぐ大きさ。韓国ウォンやインドネシア・ルピアも売り浴びせに遭っている。一方、アルゼンチン・ペソやメキシコ・ペソ、ブラジル・レアルは比較的堅調だ。アバディーンでは中南米通貨をしばらくの間オーバーウェートにしていると、グティエレス氏は語った。」(7月4日ブルームバーグ 『人民元の変動、アジア新興国通貨はなすがまま-通貨戦争の足音近づく』)
中国はトランプの貿易戦争に対処するために元安誘導をおこなっているが、過度な人民元安は中国からの資本流出につながりかねず、舵取りが難しくなっている。そのため、中国は金融を緩和してバブルの延命を図る方向に動いている。
「中国人民銀行(中央銀行)は23日、中期貸出制度(MLF)を通じた大規模な資金供給を行った。MLF資金の単一供給としては過去最大で、アナリストらは人民銀が金融緩和にシフトしつつある新たな兆しだとしている。人民銀はこの日の公開市場操作(オペ)で7日物リバースレポでの資金供給を見送ったが、期間1年の資金を5,020億元(約8兆2,400億円)提供した。中信証券の債券調査責任者、明明氏(北京在勤)は流動性の供給規模を見れば、現在の中立的スタンスから金融緩和に向かう人民銀の動きは明らかだと指摘したほか、人民銀が資金供給と引き換えに市中銀行に低格付け社債への投資を促したとの先週の報道にも触れた。同氏は人民銀が年内に1回か2回、預金準備率を引き下げると予想した。(7月23日 ブルームバーグ『中国人民銀、8兆円超のMLF資金供給-単一では過去最大』)
トランプの貿易戦争が為替市場に与える影響についての結論を言うと、アジア通貨は円を除いて買いにくい状況になってきたということだ。筆者は新興国ではパラグアイやメキシコの債券や通貨を売買しているが、通貨戦争の影響はアジア通貨に比べると比較的軽微である。
メキシコペソ/円(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
一方で、トルコリラ・韓国ウォン、インドネシアルピーは軟調な展開が続いている。7月24日にトルコ中銀は政策金利の発表を行ったが、これがまさかの金利据え置き(17.75%)だった。インフレが進むなか、あり得ない措置だろう。エルドアン大統領の娘婿が財務大臣に就任したことで、トルコ中銀の独立性が危うくなってきたようだ。
トルコリラ/円(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
トランプの貿易戦争の賞味期限
G20では各国から貿易摩擦の激化に危機感が示されたものの、結局、トランプの保護主義に対してなんの抵抗もできなかった。
「米国経済に目に見える形で悪影響が出ない限り、トランプ米大統領に翻意を促すのは難しい。経済産業省の幹部は、諦めの表情を浮かべながら話す。」(産経新聞)と報道されているが、貿易戦争のヒントはこの発言にある。
中間選挙を控えるなかで、トランプの貿易戦争や通貨戦争の相場的な賞味期限は11月6日の中間選挙がリミットとなる。どの大統領も成しえなかった“中国との貿易戦争に勝利した”ことをアピールして、中間選挙に勝利することがトランプ流の戦略である。
しかし、中間選挙までにトランプの支持者であるラストベルトの人達から「インフレや不景気で、前より生活がひどくなっている」という声が大きくなれば、トランプは中間選挙対策として“いったん貿易戦争を休止する”可能性がある。
中国は米国への報復として米国産大豆に25%の関税をかけた(トランプの選挙地盤への攻撃)。これによって、米国から中国への大豆輸出は大きく減少するだろう。今後、米国農家の不満が高まるか否かが貿易戦争の焦点となってくるが、大豆先物の価格に注目すべきだろう。
大豆の値下がりに危機感を抱いたトランプは、早速、農家への助成金のばらまき(農家への直接の支払いや食料援助用農産物買い上げなど組み合わせ)で、貿易戦争の影響を緩和する作戦に出てきている。
「パーデュー農務長官は24日に記者団に対し、農家への直接の支払いと、食料援助プログラム向けの農産物買い上げ、新たな輸出市場の拡大強化を組み合わせた支援になると説明した。トランプ大統領に最も忠実な支持者の一部が貿易政策で打撃を受けていると警告してきた農業州選出の共和党議員は同計画を批判。大豆などの農産物の価格を押し下げている貿易戦争を終結させる方が農家にとって好ましいと指摘した。モラン上院議員(カンザス州)は「問題解決に十分な資金では決してないだろう。農家や牧場経営者はトランプ政権の配慮を認識している。彼らが心配なのは関税だ」と述べた。価格下支え計画は議会の承認が不要で、大豆生産で全米トップのアイオワ州をトランプ大統領が訪問する2日前に打ち出された。パーデュー長官は9月初めまでに支援の詳細が発表されると説明した。米国産豚肉や大豆などの大口購入者である中国やカナダなど貿易相手国との貿易摩擦のあおりで、生産者は値下がりや在庫増加に見舞われているが、追加支援がそうした痛手を軽減しそうだ。ただ、貿易摩擦が長期化し、秋の収穫期や中間選挙まで長引けば、トランプ大統領にとって重要な政治基盤の農村部で支持が揺らぐ恐れもある。」(7月25日 ブルームバーグ『トランプ政権、120億ドルで農家支援へ-貿易戦争の影響緩和狙い』)
大豆先物(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
ラリー・ウィリアムズの円高・株安予測
先週からドル/円や日本株の上値が重くなっているが、米著名投資家ラリー・ウィリアムズは先週のレポートでそれを予見していた。ラリー・ウィリアムズはここからは円高や日経平均の下落を想定しているようだ。(これらの予測はあくまで予測であり、筆者は自分のテクニカル分析と合致しない限り、ポジションを取ることはない)
ラリー・ウィリアムズによる日経平均のサイクルフォーキャスト(サイクルによる将来予測)
ラリー・ウィリアムズの日経平均予測
日経平均CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
日銀が7月31日の金融政策決定会合で年6兆円買っているETF(上場投資信託)の購入配分の見直しを検討するという報道で上値が重い…
日経平均CFD(1時間足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
先週のトランプ発言やツイートを受けて、ドル/円の日足は先週末で買いトレンドが消滅した。
ドル/円(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
ドル/円(1時間足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
現在、ラリー・ウィリアムズはドル/円の戻り売りを推奨している。
ラリー・ウィリアムズの日本円通貨先物予測 (日本円通貨先物は上昇=円高・下落=円安)
銅価格の下落
先週のレポートで取り上げた、「不景気になると最初に売られる」と言われる銅先物の価格は、ここにきて大きく下落してきている。これは世界経済減速のシグナルだろうか?
銅CFD(週足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
銅CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル
「特に投資家は資産デフレが実際の経済活動に及ぼす影響に注意を払うべきだ。FAANG(フェイスブック・アップル・アマゾン・ネットフリックス・グーグル)などのハイテク株を除けば、ほとんどの資産(不動産、高利回り債、大半の世界株など)が、もはや値を上げていない。したがって、実際の経済活動への影響が深刻に感じられるだろう。株式で大きなリスクを取っている投資家はポジションの軽減を提案したい。」とマーク・ファーバーいうように、この夏の相場には注意が必要なようだ。
NYダウ・日経平均 月別騰落率(過去20年)
歴史的に5月・9月・10月はボラティリティが上がるが、近年の相場は8月が危ない
米ドル/円・豪ドル/円・NZドル/円・カナダドル/円 月別平均騰落率表(過去20年)
(石原 順)
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