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安値を拾うプラチナ版「ミセスワタナベ」動く

トウシル / 2018年8月3日 18時13分

安値を拾うプラチナ版「ミセスワタナベ」動く

安値を拾うプラチナ版「ミセスワタナベ」動く

世界的な調査機関も注目する「プラチナ版ミセスワタナベ」の投資傾向

 以下は、東京商品取引所で売買されているプラチナの価格推移と出来高を示したものです。価格が下落したタイミングで、出来高が増えています。この下落は通常の下落ではなく、1グラムあたり3,100円、3,000円、2,900円と、節目を割る下落でした。

図1:プラチナ価格(円建て・東京商品取引所・先物価格・期先)と出来高

出所:マーケットスピードCXより筆者作成

 この「節目割れ」は、割安感が出たことの象徴となり、しばしば買いのサインと認識されることがあります。XX円を割ったのだから、もうそろそろ買いだろう…のような感覚です。
節目割れのタイミングで、プラチナ市場に買いが集まった様子を6月と7月の価格と出来高の推移から読み取ることができます。

 個人投資家が中心と言われる東京商品市場において、価格の下落という劣勢にあらがい、果敢にプラチナの安値を拾う投資家を、筆者は日本人の個人投資家が為替市場で大きな存在感を示しているさまになぞらえ、以前のレポート「プラチナ版“ミセスワタナベ”現る!?」で示したように「プラチナ版ミセスワタナベ」と呼んでいます。

 このような日本の個人投資家の動きに注目が集まっていることを、世界的なプラチナの調査機関であるWPIC(ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル) が四半期に一度公表しているレポートや、彼らのウェブサイトに掲載されているニュースで確認することができます。

 今年5月にWPICのCEOのコメントとして掲載された以下のニュースに注目してみます。

Japanese investors can be quite price-focused. In December of last year, when the platinum price dropped below the ¥3,400/g threshold, we saw a rally in purchases of platinum bars. This trend has continued into 2018, 

 -日本の投資家は価格動向に非常に敏感である。昨年12月に1グラムあたり3,400円を割った時には、我々はプラチナバーの旺盛な買いを目の当たりにした、この傾向は2018年に入っても続いている-と解釈できます。

 WPICは四半期ごとに公表する統計で需要の内訳を「内燃機関の排ガス触媒向け(Automotive)」「宝飾(Jewelry)」「化学(Chemical)」「製油所向け(Petroleum)」「電子部品(Electrical)」「ガラス(Glass)」「医療(Medical and Biomedical)」「その他の産業(Other industrial)」「投資(Investment)」の9つに分類しています。

 WPICのその他複数の記述からも読み取れますが、プラチナの「投資(Investment)」部門において、日本の投資家の存在感は大きいと彼らは認識していることが分かります。

 価格が下落したときに買う、と言う行為は、正に為替取引における「ミセスワタナベ」の行為です。プラチナの世界でも、日本の投資家の行為を世界的な調査機関が注目しているのです。

 

プラチナが抱える「技術革新→供給増・消費減少」と言うジレンマ

 以下は、世界のエネルギーと自動車を取り巻く環境の変化を示したイメージ図です。

図2:世界のエネルギーと自動車を取り巻く環境の変化(イメージ)

出所:筆者作成

 技術革新のエネルギー要求、環境問題の悪化、電化技術の向上、自動車の普及、自動車メーカーの不正、と言うキーワードが歴史の中で連鎖してきました。そして長い歴史の中で近年、「内燃機関からモーターへ」のスタート地点に立ったと言えます。

 逆に言えば、「内燃機関からモーターへ」という流れは、自動車だけがそのきっかけではなく、人類が環境を悪化させたことや技術の進歩を追い求め続けてきたことが深く関わっているのです。

 これまでのわたしたちの行動の積み重ねの結果が「内燃機関からモーターへ」、つまり触媒向け貴金属消費量の減少「懸念」の発生という、プラチナの価格動向に大きく関わる事象を引き起こす一因になったと、筆者は考えています。

 環境問題の悪化はある程度仕方がない、技術革新は正しい、と言うのが現代社会の風潮だと筆者は感じています。しかし、それらが触媒向け貴金属消費量の減少「懸念」を生じさせた可能性があるとの認識はなかなか一般化していないと思います。

 ただ、今のところ自動車などの排ガス触媒向け貴金属消費量は減少していません。何度も「懸念」としたのはそのためです。

 以下の図3を見る限り、世界規模の次世代自動車の一般化はまだ始まっていないと考えられます。

図3:自動車等の排ガス触媒向け貴金属消費量 

注:プラチナ、パラジウム、ロジウムの3つの貴金属において自動車排ガス触媒向けで消費された量の合計。ロジウムの消費量は一部筆者推定
単位:トン
出所:トムソン・ロイターGFMSのデータより筆者作成

 

車1台あたりの触媒向け貴金属消費量は減少、リサイクルからの供給は増加

 環境配慮や技術革新と言うテーマがプラチナの過去、現在、そして未来を考える上で非常に重要であると述べました。

 ここからは、技術革新が及ぼす影響を自動車生産とリサイクルの面から見ます。

図4:世界の自動車生産台数と自動車触媒向け貴金属消費量の推移

注:ともに2003年を100として指数化
出所:トムソン・ロイターGFMS、グルーバルノート(原典OICA)のデータより筆者作成

 2003年から2007年頃までは、世界の自動車生産台数と自動車排ガス触媒向け貴金属消費量の動向は非常に似通っていました。自動車の生産が増えると、これに呼応して貴金属消費量が増えると言う構図です。

 しかし、2008年以降、ややその連動性が低下しました。

 以下の図5は、自動車1台あたりの排ガス触媒向け貴金属消費量の推移です(自動車排ガス触媒向け貴金属消費量÷自動車生産台数)。

図5:自動車1台あたりの排ガス触媒向け貴金属消費量の推移 

 単位:グラム
出所:トムソン・ロイターGFMS、グルーバルノート(原典OICA)のデータより筆者作成

 2005年頃は自動車1台あたりに排ガス触媒向けの貴金属が4グラム程度使われていたとみられます。しかし2017年は3.75グラムまで低下しています。

 先に述べた通り、自動車排ガス触媒向け貴金属消費量が増加傾向にあることから、世界的な次世代自動車の一般化は始まっていないと考えられます。この点を念頭におけば、この1台あたりの自動車排ガス触媒向け貴金属消費量の低下は、内燃機関の技術革新によって起きた可能性があります。

 2008年に大きく低下したわけですが、リーマン・ショックを境に、自動車メーカーにおいてできるだけコストを抑えて自動車を生産することが重要視されました。その結果、貴金属の量を減らしても性能を維持できる内燃機関の開発が進んだ可能性があります。

 次は自動車からのリサイクルの例です。

 以下のグラフは、自動車のスクラップから取り出された貴金属の量(リサイクルによる供給)と自動車販売台数の推移です。自動車のリサイクルによる供給については、以前のレポート「EV化で気になる、プラチナ・パラジウムの“自動車鉱山”からの供給圧力」で「自動車鉱山」として触れています。

図6:自動車からのリサイクルによる貴金属の供給量と自動車販売台数の推移

出所:トムソン・ロイターGFMS、グルーバルノート(原典OICA)のデータより筆者作成

 共に増加傾向にあることがわかります。しかしポイントは、自動車販売台数の増加の中には買い替え需要による販売が含まれていると言う点。そして買い替えが起きることは、使われなくなった自動車がいずれ中古車市場に出回るかスクラップになり、スクラップ(自動車鉱山)からの供給圧力の源となる点です。

 自動車の販売台数がそのまま自動車鉱山からの供給圧力になるわけではありませんが、販売あるところに自動車鉱山がある、特に、歴史的に内燃機関を動力源とする自動車の販売台数が多かった地域である北米や欧州、日本などでは自動車鉱山の供給圧力は高まりやすいと言えます。

 そして、それらの自動車鉱山に埋蔵されている貴金属を取り出すために必要なのが、リサイクル技術です。

 これまで長く自動車社会にあった国や地域ではリサイクル技術が浸透している、あるいはこれから発展する可能性があります。

 貴金属が「リサイクルできる」という点は、原油や穀物と異なる大きな特徴です。

 原油を精製してできるガソリンは内燃機関で燃焼され熱を発し、その熱が動力源に変換されます。穀物のトウモロコシや大豆はそれらを口にした動物の体内で分解され糖となり、その糖が燃焼されて活動するためのエネルギーになります。

 原油も穀物も、熱の他、光や音などのエネルギー源です。原油も穀物も、形を変えて何かの動力源になれば、やがては水や二酸化炭素になって大気中に放出されます。つまり、使えば目に見えなくなってしまうわけです。

しかし、貴金属は一部の例外を除き、使ってなくなってしまうことはありません。リサイクルができるということは、いずれ供給側に立つということでもあります。
リサイクル技術が進めば進むほど、いったん消費された貴金属が再び市場へ戻りやすくなると言えます。

 

プラチナの価格動向(円建て)は、大局的には 「底堅く推移」か

 人類が渇望し続ける「技術革新」が、車1台あたりに用いる排ガス触媒向けの貴金属の量を減らしたり、自動車鉱山からの供給圧力を強めたりする要因になると書きました。

 では、技術革新は止まるのでしょうか? その答えはNoだと思います。世界各国の企業は日夜研さんを重ね、技術を高めることを重要課題としているためです。

 では、プラチナの需給は緩む方向に向かうのでしょうか? その可能性はあると思います。技術革新の他、世界的な環境配慮のムードは今後も高まることが予想され、結果として内燃機関からモーターへの流れは強まることが予想されます。

 以前のレポート「プラチナ!がんばれ!我慢の先に反発への道は拓ける」で書きましたが、中国における自動車触媒向け貴金属消費がパラジウムからプラチナにシフトする、中国におけるプラチナの宝飾需要が再び拡大する、などの現状よりも消費を急拡大(拡大ではなく急拡大)させる事象が発生すれば、プラチナ需給は引き締まる可能性は高まります。

 とは言え、プラチナに限っては需給だけが価格の変動要因ではないと筆者は考えています。冒頭で述べたとおり、ここ数週間の円建てプラチナ価格を支えているのは「プラチナ版ミセスワタナベ」である可能性を考えれば、このような投資家たちが現在の円建てプラチナ市場を作っていると言えそうです。

 技術革新、環境配慮などに端を発した需給の緩みによる下げ圧力と、価格が下落した場面で買う傾向がある「プラチナ版ミセスワタナベ」による上昇圧力が拮抗すれば、円建てプラチナ市場においては、大局的には底堅く推移するのではないか?と筆者は考えています。

 今後も「プラチナ版ミセスワタナベ」の動向に注目していきたいと思います。

(吉田 哲)

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