米国の第2Q成長率は4.1%、リスクはむしろ「過剰な上昇」
トウシル / 2018年8月7日 7時0分
米国の第2Q成長率は4.1%、リスクはむしろ「過剰な上昇」
米国の第2四半期GDP成長率(国内総生産の成長率速報値)は年率換算で4.1%と、約4年ぶりの高い伸びを記録しました。ブレの大きい純輸出が成長率を1%強引き上げた一方、設備投資がやや足を引っ張る形となりました。
これはおそらく、昨年末に成立した減税法案の中で、設備投資減税の適用について、企業側が税務当局の通達を待っているのが要因と考えられます。税務当局の通達があると思われる秋以降は、減税のメリットを受けようと、企業が駆け込み的に設備投資に踏み切ってくることが予想され、純輸出に代わる米国経済成長の担い手となってくることでしょう。
さて、このような米国経済好調の一因は、言うまでもなく、昨年末に成立した30年ぶりの大税制改革にあります。個人所得減税は今年1月から始まっているため税引き後所得が増加し、月を追うごとに個人の懐が豊かになっています。第2四半期は、個人消費だけで2.7%と高い成長寄与となりましたが、明らかに個人所得減税の影響が出始めているということでしょう。
しかし、昨年末に成立した1.5兆ドルに上る減税の、約9割を占めるのは法人税減税です。これまで先進国で最も高い法人税率であった米国が、英国に次いで2番目に低い法人税率にまで一気に法人税を引き下げたことで、これまで法人税率の高さを理由に、米国を避けていた企業は米国でのビジネスを検討するでしょうし、米国から出て行っていた企業は米国にビジネスを戻すようになるでしょう。中長期的に見れば、このような大きな構造的変化が米国の成長率を引き上げる結果になるでしょう。
通常、景気を良くするために実行される政策として、このような財政政策はもちろん大きな柱の一つです。しかし、直近のトランプ政権の経済政策を見ていると、他にも次から次へと刺激策が打たれていることが分かります。
第一に、トランプ大統領就任直後から実施されている規制緩和です。とりわけ就任直後に出された大統領令13771によって、各省庁が新たな規制を一つ設けるごとに、二つの既存規制を撤廃しなければならない事になりました。規制緩和によってパイプラインの建設が促進され、評判の悪いオバマケアの規制が一部緩和され、金融規制が実質的に緩和されつつあります。規制の数で言うと、オバマ政権のピークから既に4割削減されてきており、上記大統領令によって、今後もこの傾向は続く見込みです。
第二に、今、世間を騒がせている通商問題です。もちろん通商問題は悪化しない方が望ましいのですが、米国は定常的に貿易赤字の国。関税等で圧力をかけたところで、経済に与える影響はほとんどないと見られます。むしろ過去三年間、赤字によって、経済成長率は2015年で0.8%、2016年と2017年にそれぞれ0.3%引き下げられており、貿易赤字が減少すれば、それはそのまま、米国の経済成長率を引き上げることになります。
今は米中貿易戦争として、市場の不透明要因となっていますが、もし将来、何らかの形で決着がつけば、不透明要因の後退と米国の経済成長率上昇によって、ダブルで市場のサポート材料になりえるということです。
第三に、つい先月、トランプ大統領がメディアとのインタビューで「金利の引き上げは望ましくない」「ドルの上昇は望ましくない」と発言したことです。とりわけ財政政策に力を入れているような時にドルが上昇すると、その効果が国外に逃げてしまうので、なるべく阻止したい、という気持ちは分かります。しかし、一般に他の条件が一定であれば、金利を低くしドルを安くすれば、これらは景気の押し上げ要因になります。
要するに、トランプ政権としては、昨年末に大税制改革によって財政政策を打ち出したのみでなく、規制緩和によってさらに景気を刺激し、通商交渉を通じて赤字を減らして成長率引き上げを目指し、金利もドルも上げさせない、という、強烈な景気刺激策を打ってきている状況だということです。
前述の通り、第2四半期の成長率は4.1%と高い数字になりましたが、これらいずれの政策もフルに成長率に反映されている状況ではありません。今後、時間を追って成長率に反映されてくるとすれば、とてつもない景気刺激になるのではないか、そしてリスクは下方サイドではなく、むしろこれから大きく上方サイドに行き過ぎるリスクなのではないか、と思えてくるのです。
そして、行き過ぎが金利や為替に反映されないとすれば、株価に反映されるしかありません。2009年以降、景気の拡大が続き「次のリセッションはいつか」との声が日増しに増える中、S&P500指数の2019年予想ベース株価収益倍率は16倍と、むしろ割安感があるくらいで、近々メルトダウン(大きな下落)が起こるというのは非常に考え難い状況です。唯一、メルトダウンがあるとすれば、それはメルトアップ(大きな上昇)があった後のみでしょう。
現在、多くの人が想定していないからこそ、この先、むしろメルトアップのリスクを念頭に置いておく必要があると考えています。
(堀古 英司)
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