勝っても負けても、皆自分の欲しいものを相場から手に入れる
トウシル / 2018年8月9日 13時25分
勝っても負けても、皆自分の欲しいものを相場から手に入れる
社会を脆くし、危機を生み出している主犯は、〝身銭を切らない〟人たち
『まぐれ』や『ブラック・スワン』を書いたナシーム・タレブが『反脆弱性』という素晴らしい本を書いている。タレブは金融界でのそうそうたる経歴を経た後、現在は文筆業と研究に専念している。
彼は金融トレーダーとして、リスクや不確かさの定量化に関しては常に懐疑的であった。しかし、今日の大多数の人々は「だまされたがっている」のかもしれない。ニーチェが指摘した日々の奴隷的生存および社畜・国畜労働に疲れた人々は、「考えたくない」のである。「だまされていた方が楽だ」という気持ちが意識の深部に宿っているのだ。
ナシーム・タレブは『反脆弱性』のなかで、「社会を脆くし、危機を生み出している主犯は、〝身銭を切らない〟人たち」であるという指摘をしている。
【社会を脆くし、危機を生み出している主犯は、〝身銭を切らない 〟人たちだ。世の中には、他者を犠牲にして、自分だけちゃっかりと反脆(はんもろ)くなろうとする連中がいる。彼らは、変動性、変化、無秩序のアップサイド(利得)を独り占めし、損失や被害といったダウンサイド・リスクを他者に負わせるのだ。そして、このような他者の脆さと引き換えに手に入れる反脆さは目に見えない。
ソビエト=ハーバード流の知識業界は反脆さに対して無知なので、この非対称性が着目されることはめったにないし、教えられることは(今のところ)まったくない。さらに、2008年に始まった金融危機でわかったように、現代の制度や政治事情が複雑化しているせいで、破綻のリスクを他者に押しつけても、簡単には見破られない。
かつて、高い地位や要職に就く人というのは、リスクを冒し、自分の行動のダウンサイドを受け入れた者だけだった。そして、他者のためにそれをするのが英雄だった。ところが、今日ではまったく逆のことが起こっていて、逆英雄という新しい人種が続々と出現している。官僚。銀行家。ダボス会議に出席する国際人脈自慢協会の会員のみなさん。真のリスクを冒さず説明責任も果たしていないのに、権力だけはやたらとある学者など。彼らはシステムをいいように操作し、そのツケを市民に押しつけている。歴史を見渡してみても、リスクを冒さない連中 、個人的なエクスポージャーを抱えていない連中が 、これほど幅を利かせている時代はない】(ナシーム・タレブ『反脆弱性』)
先週のレポートで日銀の「金融抑圧政策」について書いた。タレブ流にいうなら、日本の金融政策はさしずめ、「国民にリスクを押し付ける政策」が行われている。
政府の借金圧縮(いわゆる財政健全化)のための「増税」や「歳出削減」は、国民やマスコミから文句が出やすい。一方で、「金融抑圧」は目に見えない政策なので、実際は大変な不利益を被っている国民に十分理解されない。2%のインフレが10年も続けば、政府の債務は実質20%軽減される。だが、多くの国民はそれを認識しづらい。いわゆる「茹でカエル」状態だ。長期金利が上がらないのは謎と言われているが、多くの借金を抱える国が「インフレ率より長期金利を下げたい」という「金融抑圧の誘惑」にかられるのは当然の帰結なのかもしれない。
「日銀の金融政策は物価目標が達成できず大失敗している」という報道とは裏腹に、予想以上に上手くいっていると言えるだろう。日銀の政策は、「金融抑圧」が理想的な財務省の方針とも一致している。 物価目標2%は日銀が国債を買う(金利上昇を抑える)ための方便である。日銀の金融政策はそれが破綻するまで続けるしかなく、出口はない。最後までやるということだ。そして、多くの投資家もそれに依存している。
投資に必要な能力は何か?
最近、金融機関の人から、「投資に必要な能力は何か?」という質問をよく受ける。これは難しい質問だが、「未来を正確に予測することは誰にもできない」ので、能力や資質があるかいなかという問題は、「誰も資質がない」ということになる。所詮は人間がやっていることで、投資で成功するかどうは「運」に左右されることも多い。
ラリー・ウィリアムズは、「マネーマネジメントとは、トレードにおいて最も重要なルールである。トレンドや価格ももちろん重要だが、自分の資金をどう扱うべきかを分かっているかどうかは最も大切なことである」と述べているが、相場を当てる(トレンドをとる)という行為より、資金がなくなってゲームオーバーとなるという事態の方が重要であることは間違いがない。したがって、ゲームオーバーにならないように運用することができる人は、投資家としての能力をもっているといえるだろう。
投資本の名著『マーケットの魔術師』に登場するエド・スィコータは、「ほとんどの敗者は負けたがっている、そして目標に到達できない」、「負けるトレーダーは彼自身を変えたいとは思っていない」と述べている。
「そんな馬鹿な話があるか?」と皆が思うだろう。投資家は皆「勝ちたい」と思っているが、実際の投資行動は「負けたい」という投資行動になっていることが多い。エド・スィコータは、「勝っても負けても、皆自分の欲しいものを相場から手に入れる」と言っている。これは、相場の本質を突いたとても深い言葉である。
為替市場のトレンドの状況
ブローカーから、「動かない…、つまらない…」といった愚痴を聞かされることの多かった為替市場だが、相場によくやく動意が出てきたようだ。主要通貨の中で動きが出てきたのはポンド/ドルである。日足は筆者の標準偏差ボラティリティトレードモデルでみると、「売りのトレードゾーン」に入ってきた。
ユーロ/ドルやスイスフランは、1時間足などで動きが出てきたが、大きなトレンドの発生には日足のレンジブレイクが必要だろう。
ポンド/ドル(日足) 標準偏差ボラティリティトレードモデル
ポンド/ドル(1時間足) 標準偏差ボラティリティトレードモデル
ユーロ/ドル(日足) 標準偏差ボラティリティトレードモデル
ユーロ/ドル(1時間足) 標準偏差ボラティリティトレードモデル
ドル/スイスフラン(日足) 標準偏差ボラティリティトレードモデル
ドル/スイスフラン(1時間足) 標準偏差ボラティリティトレードモデル
日米の新たな通商協議「FFR」の初会合に注目
日米の新たな通商協議「FFR(日米新通商対話)」の初会合が、今週8月9日にワシントンで始まる。麻生・ペンスに代わって、茂木経済再生相とライトハイザーUSTR(米通商代表部)代表に交渉の窓口が変わるが、ライトハイザー代表は対日強硬派として知られている。
米国は茂木・ライトハイザー枠組みをFTA(自由貿易協定)交渉に切り替えることを想定していると言われ、それを脅しに経済協議で譲歩を引き出そうとしている。トランプは対日貿易赤字の早期大幅削減を指示しているらしいが、日本の自動車産業にとっては脅威である。
円の実質実効レートは2010年と比べても25%も割安になっているおり、為替でも突っ込みどころが満載である。日本側は苦戦を強いられるだろう。
円の実質実効為替レート (2010年=100 上昇=円安・下落=円高)
COTレポートで円相場を読む
著名投資家ラリー・ウィリアムズは8月の円相場について、円高の方向でみている。断わっておくが、相場で大損する最大の原因は「思い込み」である。予測はあくまで予測であり、筆者は予測と自分のテクニカルが合致しない場合はポジションをとることはない。そして、最も大切なことは、ストップロス。間違った時の対処をしておくことが重要だ。
現在の日本円はドル全体の動きの中では売られすぎになっており、また一般投資家(小口投機筋)のポジションも円売りに傾きすぎている。このようなコンディションが整っているので、ラリーは相場が反転するセットアップが整っているとみているようだ。
COTレポートをベースとしたラリー・ウィリアムズの日本円先物予測
8月3日時点の日本円のポジション(CFTC発表)
ラリー・ウィリアムズの日本円先物分析とフェイクバーのブレイクによるエントリー手法
ドル/円(日足) 標準偏差ボラティリティトレードモデル
ドル/円(1時間足) 標準偏差ボラティリティトレードモデル
COTレポートの読み方については、『Trade Stocks and Commodities with the Insiders: Secrets of the COT Report』という本をラリー・ウィリアムズが出版しており、『ラリー・ウィリアムズの「インサイダー情報」で儲ける方法』いうタイトルで邦訳もされている。COTレポートやコマーシャルズの動向に興味がある方は、参考にされるとよいだろう。
【マーケットにおける真のスーパーパワーは、毎日、売ったり買ったりする強大な力によって、あらゆる商品や株価の将来価格に大きな影響力を持っている。そのスーパーパワーとは「コマーシャルズ」と呼ばれる人たちであり、ピルスベリーやゼネラル・ミルズ(天然資源)、チェースマンハッタン(金融商品)など、だれでもが知っている会社である。
これらの巨大で強力なトレーダーたちがいったん行動を起こすと、巨大なトレードを毎週報告することが義務付けられた連邦法によって、必ずその痕跡が残るようになっている。そして、この貴重な情報は、CFTC(米商品先物取引委員会)が発行しているCOTレポートによってだれにでも見ることができる。
本書は、世界でもっとも有名なトレーダーであるラリー・ウィリアムズが、「インサイダー」である「コマーシャルズ」と呼ばれる人たちの秘密を、初めて明かした画期的なものである。いつも勝ちトレード側にいる数十億ドル規模のプレーヤーたちと歩調を合わせる方法や、彼らの動きを毎日のトレードに利用する方法を授けてくれている。このきわめて簡単にゴールに到達できる最高の情報源がCOTレポートである。本書では、そのCOTレポートをどのように利用すれば、常勝トレーダーの仲間入りができるかを伝授してくれている。また、このレポートの利用法や見方とともに、世界規模のコマーシャルズの側について行きながら、最大の収益を目指し、リスクをマネジメントするトレードプランも読者に提案してくれている】(ラリー・ウィリアムズ『「インサイダー情報」で儲ける方法』)
(石原 順)
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