(後編)面白法人カヤックの社長に聞く!経営方針=面白さの追求
トウシル / 2018年8月28日 8時0分
(後編)面白法人カヤックの社長に聞く!経営方針=面白さの追求
ブレストによって人は成長しますか?
カヤックでは、一般の会社の会議に当たるブレスト(※ブレインストーミング)を重視しています。とにかくたくさんのアイデアを出し合って、ブレスト脳を鍛え、ブレスト体質になると、仕事はもちろん、人生を面白がることができるようになる。
ーー それって成長したということでしょうか?
「カヤックという組織の中では“成長”ということでしょう。でも成長の定義にもいろいろあるし、外の価値観では成長ではないと捉えられることもあるので“変わった”というほうが近いと思います」と話してくれました。
こんなエピソードがあります。カヤックでは、「360度評価」を採用しています。10~30人のグループメンバーが、評価対象者を15段階で順位付けするというもの。
「社員は自分の過去の評価も見ることができるのですが、当初とまったく違う評価になっている人もいます。うちで働いているうちに変わったということですよね。そうやって変わり続けることはいいことです。もしうちを辞めて全然違う価値観のところへ行ってもやっていけるということだから。うちでは辞める(退職する)と言うことは、悪いことになっていないのです」
※ブレインストーミング(brainstorming)とは集団でアイデアを出す会議のこと
え、会社を辞めることは悪いことですよね?
ーー 退職が、会社によっては悪いというイメージがあります。ところがカヤックの社員の中にはいろんな人がいます。
「たとえば、1年前に会社を辞めると宣言して、在職中に『カヤック退職宣言ブログ』を書いた社員もいました。経営者としては、簡単に辞めて欲しくないので、バランスが難しいところなのですが・・(笑)」
ーー 会社を辞めることは、社員にとっては悪くなくても、経営者としての柳澤さんには困ることなのではないですか?
カヤックの経営理念は「つくる人を増やす」です。「この会社は自分がつくっている」という主体的な社員でいて欲しいという意味も込めているのですが、退職して独立したり、他の場所へ移ったりして活躍することを通じて「つくる人を増やす」ことも、また良しとされているという感じでしょうか。おそらく、これは事業内容が面白コンテンツ事業なので、新陳代謝もあったほうがいいというプラス面もあることで、成り立っているバランスなのではないかなとも思います。「とはいえ、学校ではないので、会社が持続的に成長するためには、社員をはじめとする資産は、内部に蓄積しておかなければなりません」
ーー カヤックは数年前まで最適な退職率を25%としていたそうです。
それを15%へ変更しました。理由は、内部的には、事業モデルが変わって長期で運用する自社サービスの開発が増えてきたことと、外部的にはIT業界の人材不足により、採用コストが高くなったことがあげられます。ちなみに2017年度の退職率は13%程度だそう。
近くのカフェではなくイタリアで働く!?
ーー 働き方改革では、社員が自宅を含め、どこでも働けるリモートワーク、テレワークのような仕組みを作ることが求められています。
多くの会社は本社や支社を東京に置いているので、ビジネス効率だけを考えれば東京にオフィスを置くことが望ましい。その代わり社員によっては、混雑する電車に乗って通勤しなければなりません。そこで自宅(ファーストプレイス)やオフィス(セカンドプレイス)以外の働く場所として、ターミナル駅などにサードプレイスを用意する企業も増えています。でも、カヤックの本社は神奈川県鎌倉市にあります。
ーー 通勤には遠い? いいえ、柳澤さんの発想は違いました。
「会社員時代、通勤時間が体力をそいでいるという気持ちがありました。一方で、会社を作ってみて、ずっとテレワークで社員が皆バラバラだと、組織としての一体感が薄れてしまうということもわかりました。そこで、職住近接の方がバランスがいいだろうということで、それを実現できる場所として鎌倉を選びました。ですので、カヤックでは本社のある鎌倉に住むことを推奨して、現状は鎌倉住宅手当を出しています」
ーー 職住近接が実現すれば働き方はシンプルになります。
「ただ、一方でいろいろな場所で働くことで刺激を受けることもありますよね。これからは旅をしながら仕事をする人も増えてくるだろうから、そういったことも視野に入れて行くことになるだろうと思います。」
ーー どういうことですか?
「カヤックのエンジニアなどを見ていると、海外に住みたいからという理由で退職したりする人も少なくありません。これは逆にいうと、海外にもそういう価値観を持った優秀なエンジニアはいるので、鎌倉にふらりときて、半年だけ仕事していく。そういったクリエイターも柔軟に取り入れる組織にした方がいいだろうなということです。」
ーー そういえば昔、「旅する支社」という制度があったと聞きました。
「はい、以前に何度か実践しました。住居兼オフィスを一定期間(2~3カ月)借りて、仕事に集中するのです。国内はもちろん、海外でも行いました。」
この春には花粉症の時期に花粉が飛ばない場所に行って仕事をするというアイデアが出たことで、実験的に一部の社員が北海道の下川町で働いたそうです(もちろん花粉症は発症しなかった)。
旅先で仕事をすると生産性が上がりますか?
ーー この試みをしていた当時から「生産性が上がるんですよね?」と質問されていたそうですが…
「企業が何かをするときには、必ず合理的な理由が求められますので、当時、旅する支社の取材時には、『参加した社員は、テンションが上がり、モチベーションが上がり、生産性が上がるんですよね?』と3セットで聞かれました。ただ、どうでしょうか。目で見える生産性という意味では、上がってないように思います。
ただ、前述のように海外で働いてみたいという人が増えているように、海外で働きたい人に必ずしも合理的な理由はありません。もしかしたら、健康にいいというような合理的なデータが取れるかもしれないけれど、今までの延長線にあるわかりやすい生産性だけを指標にしている限りは、おそらくこの旅する支社という制度もむだな試みになってしまうだろうなと当時から思っていました」
ーー 生産性に対する指標を変える時期に来ているのかもしれません、と柳澤さん。
「働き方改革で注意しなければいけないのは、生産性を上げるということだけに集中しすぎてはならないということです。生産性が超高まって、勤務時間は短くなったけれど、仕事が楽しくなくなったということが起こるかもしれない。もうひとつ別の指標を加えないと本当の働き方改革にならないという感じはあります」
「というのも、生産性を今までの合理的な企業の論理だけで語ると、目で見えないものの価値がごっそり抜け落ちてしまうからです。たとえば、「何かかっこいい」というような目で見えない価値、すなわちそれをクリエイティブと呼ぶとします。そういった世界観に投資しているビジネスと、そうでないビジネスを見比べてみてください。実は、C向けの(※BtoC)のビジネスの方がそこに投資していることが多いことがわかるのではないかと思います。それは、すなわち個人を相手にしているから、それが伝わりやすいのです。人は必ずしも合理的なものでない価値を感じ取るし、大事にするのです。ところがB向け(※BtoB)のビジネスでは、必ずしもそうではない。B向けのビジネスでは、どちらが効率的とか、安いとか、より合理性が評価される傾向にあります。そういうこと一つをとっても、個人がいいねと感じることと、企業がいいねと感じることは違います。おそらく、旅する支社はそういうたぐいのことなんだと思います。
※BtoCとは、Business to Consumerの略で、企業(business)が一般消費者(Consumer)を対象に行うビジネス形態のこと。一方、BtoBとは、Business to Businessの略で、企業(business)が企業(business)を対象に行うビジネス形態のこと。
ーー 旅する支社は今後も続きますか?
当時はランサーズなどのクラウドソーシングサービスもなかったですからね。現在は、企業がそうした制度をつくらなくても、個人でそういったプラットフォームを利用しながら、働く場所を変えていく、それが簡単にできる時代になったのではないでしょうか。
会社の決断と社員の工夫により、カヤックのような働き方ができそうです。実はその二つの実現が難しいのですが……。
規模の拡大に興味はありませんか?
ーー 柳澤さんは、この先、カヤックをどのように舵取りしていくのでしょう。
「企業の成長をKPIにして、規模の成長を実現していくのは、とても重要で面白いことだと思います。会社はそうしたKPIを追求するのに向いた仕組みでもありますよね。実際に、カヤックもM&Aなどを通じて、グループ会社も増えています。ただ、規模の拡大だけを目的化して、その指標を追うだけではなく、多様性や働く人の面白さを指標にしていく必要性も感じています。そのことが、実は成長を促進するのではないかという仮説を持っています」
「そして、時代の潮流としても、仕事が辛いものだという時代ではもはやなく、仕事は楽しいものだという方向に向かっているのではないでしょうか。だから、会社が大きくなって、多様性が失われ、組織の流動性が失われてしまっても面白くないとも感じます。僕は経営者として多様性を保ちつつ、ルールも少ない中で、事業を成長させるという矛盾と対峙することに興味を持っています」
上場と面白い経営は両立できますか?
「面白さを追求するからこそ、面白いコンテンツが生まれ、それが結果的に収益につながると僕は信じています。もちろん企業にはいいときもあるし悪いときもありますが、ちゃんと成長することに向き合っていれば、そこは必ずしもトレードオフにならないのではないかと。それに株主が増えることは、外部の人との接点、関わりが増えること。株主の皆さんとは、しっかりとコミュニケーションをとり、情報はなるべくオープンにしていくことにこだわっています。カヤックでは、株主の方々が一緒になってブレストしてくださることもあり、心から感謝しています。」
ーー カヤック第13回目の「定時株主総会」は、今年も日本最古の禅寺 鎌倉・建長寺で開催されました。
カヤックでは株主を「面白株主(おもしろかぶぬし)」と呼んでおり、「面白株主制度※」を設けています。初めての試みとして、事業報告の合間に「シェアタイム」を設け、面白株主同士で内容を振り返る時間が設けられました。さらに面白株主制度第5弾「面白株主に名刺支給制度」、第6弾「株主オフ会」の発表も。株主になって総会に参加したくなりますよね。
ーー では投資について、柳澤さんはどう考えているのでしょう。
「投資を通じて会社や会社の経済活動を学ぶこと、そして資本主義そのもののメカニズムを学ぶことは、勉強になるのではないかと思っています。そしてその先に、共感できる企業を見つけて投資することで、自分たちの作りたい世界観を皆で実現して行くということに繋がるようになれば良いと思っています。」
「アイデアいっぱいの人は深刻化しない」
カヤック社内でよく使われるフレーズです。日々の生活でも、仕事でも、投資でも、見方を変えることで、面白がれるし、ひいてはイノベーションにもつながる。そんなふうに考える社員がたくさんいるカヤックは、投資対象としても魅力的です。
※働き方改革とは
国が推進する「働き方改革」とは、多様な働き方に対応する試みのこと。少子高齢化により働く人の減少や仕事と育児や介護の両立など働く人が求めることの多様化に対応するため、これまでの働き方を見直して、より良い方向へ変えていこうという試みです。働く人の個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会、働く人がより良い将来の展望を持てる社会にするため、多くの会社は生産性を向上させて長時間労働を是正し、場所や時間にとらわれずに働くテレワークのような仕組みを整えて多様化に対応しようとしています。
<編集後記>取材を終えて…
自由な社風のオフィスは、面白仕掛けがいっぱい!
エントランスでは、漫画『サンクチュアリ』作画:池上遼一先生の直筆イラストがお出迎え。挨拶時に柳澤社長からいただいた名刺の似顔絵イラストも、池上遼一先生の描いたものだとか。取材の最後に、なぜ『サンクチュアリ』が好きなのか理由をお聞きしてみました。
「自分の人生をジャンケンで決めるということと、友情をつらぬくところ」だそう。
人生の大きな選択を運に身を任せる大きさ。そして友情。経営方針にも通じるところがあるような気がしました。(トウシル編集キカ)
◎今回取材の会社情報
株式会社カヤック
東京証券取引所マザーズに上場 正社員・契約社員281名(2017年12月末時点)
【事業内容】
日本的面白コンテンツ事業。新しいアイデア、新しい技術及びサービスを用いたインターネット広告の制作、クライアントのマーケティング及びブランディングを支援する「クライアントワーク」、「ソーシャルゲーム」の提供、スマートフォンゲームコミュニティなど
「面白株主制度」、「面白株主に名刺支給制度」、「株主版 ぜんいん社長合宿」「株主オフ会」など、株主と一緒に面白法人をつくる制度を設け、毎年の株主総会にて新しい施策を発表している。
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「面白法人カヤック柳澤氏インタビュー」
8/23公開 (前編)面白法人カヤック式・働き方改革=固執しない!みんなで「おもしろい」に乗っかりまくる
8/28公開 (後編)面白法人カヤックの社長に聞く!経営方針=面白さの追求
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(トウシル編集チーム)
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