(前編)面白法人カヤック式・働き方改革=固執しない!みんなで「おもしろい」に乗っかりまくる
トウシル / 2018年8月23日 7時16分
(前編)面白法人カヤック式・働き方改革=固執しない!みんなで「おもしろい」に乗っかりまくる
カヤックの働き方改革は「楽しく働くこと」?
「面白法人カヤック」を名乗る株式会社カヤック(マザーズ3904)は、今から20年前の1998年、大学の同級生だった柳澤大輔さん(CEO=最高経営責任者)、貝畑政徳さん(CTO=最高技術責任者)、久場智喜さん(CBO=最高ブッコミ責任者)の3人が、資本金3万3,000円で設立した合資会社が始まりです。3人で喜びを分かち合いたいと思ったことが出発点。以来、「何をするか」より、「誰とするか」にこだわって、仲間(社員)を増やしてきました。
ーー「面白法人」という呼び名は?
直感的につけた言葉です。「何気なく生まれた言葉の意味を、よく考えていくと、働き方改革は、生産性向上に結びつけた議論になっていますが、働き方改革を面白法人として定義するなら『楽しく働くこと』ではないかと考えています」、と柳澤さん。
楽しく働く場所の「楽しさ」には深い意味がある!?
経営者から「楽しく働く」という言葉を聞くと、「楽しく」には深い意味が隠されているように聞こえます。100の苦労の先に楽しさがあるというような。
ーー まさか大学のサークル活動のような楽しさではないですよね?
「確かに仕事というものは、日々会社を成長させ、自分を成長させるために行っている側面があります。その過程では、苦労もあります。でも、だからといって毎朝、会社に行くのがつまらないという日々は、人生の大事な時間の多くを無駄にしてしまいます。もっと、学校や部活に行くのが楽しみなように、ワクワクする職場にすることもできるはずです。楽しみながら成長すれば良いし、仕事と楽しさがトレードオフの関係にあるとも思っていません」
ーー 柳澤さんが言う「面白い」や「楽しい」とは?
3段階の思いが込められています。
(1)まずは、自分たちが面白がろう
(2)つぎに、周囲からも面白い人と言われよう
(3)そして、誰かの人生を面白くしよう
中でも、最初の「自分たちが面白がる」ということが実は一番難しいと柳澤さんは言います。そこは自分次第でもあるのだと。一方で、周囲から面白いと言われるためには、サイコロを振って給料を決める「サイコロ給」を作ったり、ネットの検索結果が履歴書の代わりになる「エゴサーチ採用」のようなユニークな採用を行ったり、いろいろな場所へ行って働く「旅する支社」のように働く場所を自由にする制度を作ったり、今までの株主と経営者という関係を変えてみたり……というように、会社の活動そのものが、見ていて面白いと言われるようなことを目指しています。ちなみに「サイコロ給」は基本給にサイコロの目の分が上乗せされる制度。基本給30万円の人がサイコロを振って6の目が出れば、給料は6%相当の1万8,000円も増えることになります。
人の「評価」なんてサイコロの目のようなもの?
「サイコロ給」の話は確かに面白い。話題にもなりました。つまり、周囲からも面白いと言われます。ですが、それだけが目的ではありません。
ーー「サイコロ給」には、柳澤さんが込められたある思いとは?
「仕事をしていく以上、評価というものからは避けて通れないし、評価は大切ですが、本当に面白く働くためには評価には振り回されないほうがいい」
つまり「評価を気にしすぎるな」というメッセージが込められているというわけです。一般企業では上司の査定(という評価)により給料が決まりますが、実は査定なんて曖昧なもの。公平なはずなのに、上司の感情により変わることだってあります。評価は大切だけど、絶対ではない。だから給与だって、サイコロで決まるくらいがちょうどいいというわけなのです。これによって自分達1人1人も面白く働くことを大切にしようというメッセージが込められています。
自分の企画がボツにされても楽しく働けるの?
ーー 面白く働くといっても、普通は好きな仕事だけをえり好みできるわけではありませんよね?
「うちの会社は、いろいろな事業を手がけているものの、組織としては、徹底的に職種を絞っています。社員の9割以上がクリエイターという集団で、ある種偏った組織かもしれません。社員のほとんどがクリエイターなので、比較的、手を挙げた人がやりたいことに配置される仕組みにしてあります。それともうひとつ、さまざまな情報をオープンにしています。仕事が面白くなくなる理由の一つは、自分の知らないところで物事が決まり、いつの間にか作られた仕事を与えられること。でも情報がオープンになっていれば興味が湧くし、自分の仕事と受け止め、主体性が出てきます」
ーー だからといって経営者が一から十までお膳立てをするのも大変ではないですか。
「“何でも言っていい感”を出す文化を作ることに徹したいと思っています。つまり物事を言いやすい場を作ることに力を入れているわけです。」上司部下、先輩後輩の枠にとらわれず誰に何を言ってもいいのだから、自分たちが話し合って面白く働ける仕組みをどんどん自分たちで作っていけばいい、というわけです。
それって、話題のティール組織ですか?
「それは言い過ぎ。世の中にはお手本になる企業がたくさんあるから、そういう企業をよく見て研究しました。ティール組織は新しい言葉だし定義も流動的ですが、ティール組織的な、主体的に動く組織を作りたかったのです」
ビジネスマネジメントの世界では『ティール組織』という次世代型組織が話題になっています。ひと言でいえば自立的に動く組織ということですが、それを先取りしていた?
ーー とはいえ、理想論だけで、そんなにうまくやれるものでしょうか?
「極めて人間的な感情を否定するつもりはないから、嫌な気持ちになるのも当たり前だよね、みたいな話も全部オープンしているんですよ。聖人君子のようなことばかりをいうのではなく、嫌な気持ちになったら『それは嫌です』というのはあり、と認めています。組織はいろいろな感情が渦巻いているものだから」
ブレスト体質になると何がどうなる?
会社にはいろいろな人が集まっているのだから、いろいろな感情が渦巻くのは当たり前。
ーー ただ、渦巻かせたままでは具合が悪いのでは……。
「それを解消するために徹底したブレスト(※ブレインストーミング)をやっています。導入時は、ブレストは面白くて盛り上がるというとらえ方で効能には気づいていなかったのですが、ブレスト体質になると、自分がやったことと他人がやったことの境目がなくなってくるので、誰のアイデアなのかなんて気にならなくなるし、いちいち覚えていません。その代わり手柄も自分、失敗の責任も自分になります」
カヤックのブレストには、2つのルールがあります。
(1)他人のアイデアに乗っかる
(2)とにかくアイデアの数をたくさん出す
ーー 自分のアイデアに固執せず、他人のアイデアに乗っかることですか?
誰かがぼそっとつぶやいたアイデアに乗り、そこからインスピレーションを得たアイデアをかぶせていく。その結果、いいアイデアに絞られていく……ことを目指すのではなく、良くても悪くてもアイデアをたくさん出すことを目指す。そうなると他人の批判なんかしていられません。そしてアイデアの数が少ないブレストは失敗、たくさん出たブレストは成功です。
ーー ブレスト脳を鍛えてブレスト体質になるとどんないいことがありますか。
人生を面白がることができるようになり、ポジティブに生きることができるようになります。とはいえ、必ずしも皆がその考え方に馴染むわけではないのですが、そもそも、辞めることが“悪”ではないというのも、この会社の面白いところです。
※ブレインストーミング(brainstorming)とは集団でアイデアを出す会議のこと
※働き方改革とは
国が推進する「働き方改革」とは、多様な働き方に対応する試みのこと。少子高齢化により働く人の減少や仕事と育児や介護の両立など働く人が求めることの多様化に対応するため、これまでの働き方を見直して、より良い方向へ変えていこうという試みです。働く人の個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会、働く人がより良い将来の展望を持てる社会にするため、多くの会社は生産性を向上させて長時間労働を是正し、場所や時間にとらわれずに働くテレワークのような仕組みを整えて多様化に対応しようとしています。
>> 後編へつづく
次回は働き方改革を先取りしたカヤックの試み、経営者としてカヤックをどう舵取りするのか、投資対象としてのカヤックの魅力を紹介します。
◎今回取材の会社情報
株式会社カヤック
東京証券取引所マザーズに上場 正社員・契約社員281名(2017年12月末時点)
【事業内容】
日本的面白コンテンツ事業。新しいアイデア、新しい技術及びサービスを用いたインターネット広告の制作、クライアントのマーケティング及びブランディングを支援する「クライアントワーク」、「ソーシャルゲーム」の提供、スマートフォンゲームコミュニティなど
「面白株主制度」、「面白株主に名刺支給制度」、「株主版 ぜんいん社長合宿」「株主オフ会」など、株主と一緒に面白法人をつくる制度を設け、毎年の株主総会にて新しい施策を発表している。
▼このインタビューをもっと読む
「面白法人カヤック柳澤氏インタビュー」
8/23公開 (前編)面白法人カヤック式・働き方改革=固執しない!みんなで「おもしろい」に乗っかりまくる
8/28公開 (後編)面白法人カヤックの経営方針=面白さの追求
▼この特集をもっと読む
(トウシル編集チーム)
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