リーマンショックから10年、長銀・日債銀破綻から20年、危機は繰り返す?
トウシル / 2018年9月18日 7時8分
リーマンショックから10年、長銀・日債銀破綻から20年、危機は繰り返す?
9月15日、リーマン・ブラザーズ破綻からちょうど10年
先週の土曜日(9月15日)は、リーマンショックの10周年記念日でした。10年前の2008年9月15日、米証券大手リーマン・ブラザーズが破綻すると、世界景気は急激に悪化し「リーマンショック」と呼ばれる不況に陥りました。
北米の住宅ローン債権や不動産の下落で、リーマン・ブラザーズの財務が悪化し、危機に瀕していることは、当時、すでに知れ渡っていました。ただし、巨大金融機関リーマンが破綻すると世界中に金融危機が拡散する恐れがあるため、米国政府が公的資金を入れて救済すると考えられていました。それだけに、リーマン破綻のニュースは衝撃が大きく、世界の株式市場は大暴落しました。
20年前にもあった金融危機、危機は10年ごとに繰り返す?
20年前の1998年にも、金融危機がありました。日本では長銀・日債銀が破綻し、日本の金融危機がスタートしたのが1998年でした。同時に世界も危機に見舞われました。中南米の通貨危機がアジアに拡散し、さらにロシア危機までが併発しました。
1998年から10年後の2008年、リーマンショックが起こり、さらにその10年後が2018年の今年です。同じ「10年」という区切りの到来に、危機は繰り返すのでは、と心配する人もいます。
しかし私は、この1~2年以内にリーマンショックのような危機が起こる可能性はきわめて低いと考えています。確かに、リーマンショックの頃と似たようなことも起こりつつあります。米国が利上げを続けていることがそうです。ただし、冷静に分析すれば、今は当時とまったく異なる環境になっています。
本日のレポートでは、リーマンショック時と今を比較し、今ある世界の金融市場のリスクについて考えます。
その前に、そもそもリーマンショックはなぜ起こったのか、紐解いてみましょう。
リーマンショックはなぜ起こった?ショックを引き起こした二つの要因
リーマンショックは、二つの要因が重なって起こった「複合ショック」です。一つは、リーマン・ブラザーズの破綻に象徴される欧米の「金融危機」。もう一つの要因は「世界的なインフレ高進」です。インフレが世界の消費を押しつぶし、一時的に「需要消失」状況を生じました。
リーマンショックは、北米の住宅バブル崩壊が引き起こした「金融危機」として知られています。北米のサブプライムローン(低所得向け住宅ローン)が不良債権化し、米国の大手金融機関の財務が悪化しました。この危機は米国に留まらず、世界に拡散しました。金融テクノロジーの進歩で北米のサブプライムローンは証券化され、幅広く世界中の金融機関に販売されていたからです。特に、欧州の金融機関が甚大な被害を受けました。
最初に、サブプライムローンの問題がクローズアップされたのは、リーマンショックより1年前の2007年8月でした。サブプライムローンを組み込んだファンドの危機が表面化しました。ところが、この時はまだ、これが世界的な金融危機に発展すると見るむきは少数派でした。世界景気は好調で、米国の住宅ローン危機もそのうち収まる、と楽観的に見られていました。
後から振り返ると、リーマン危機の兆しは、1年以上前から顕在化していたわけです。楽観論が支配する中で危機の芽は無視され、1年後の2008年9月に、リーマンショックという世界的な金融危機にまで発展することになります。
需要消滅:インフレが世界的に高進し、消費を押しつぶした
リーマンショック直前は資源バブルのピークで、世界的にインフレが高進していました。インフレが世界の消費を押しつぶし、一時的に世界から需要が消失した状況を生じました。新興国では軒並みインフレ率(消費者物価指数の上昇率)が10%を超えており、ハイパーインフレが世界経済のリスクと言われていました。中国ではインフレ率が一時8.5%まで上昇しました。
WTI原油先物価格の推移:2000年1月~2018年9月(13日まで)
先進国でもインフレ率の上昇が懸念されていました。低インフレ国の日本でも、一時的にインフレ率が2%に達し、消費を抑制しました。ガソリン価格上昇によって2008年4~6月は車に乗る人が極端に減り、普段渋滞する道路も一時ガラガラとなりました。リーマンショックの前から、インフレによる消費悪化の兆しははっきり出ていたのです。
リーマンショックが起こると、需要消失が世界中に連鎖しました。製造業で一時的に生産が完全にストップしました。製造業の生産効率引き上げのために、世界的なサプライ・チェーン・マネジメントが拡散していたからです。最終需要の減少がまたたく間に世界中の製造業に伝播し、世界中の製造業が「瞬間凍結」しました。
リーマンショックは短期で終息
「金融危機」と「需要消滅」が同時に起こり、サプライチェーンを通じて、世界中の製造業が「瞬間凍結」したのが、リーマンショックでした。このような世界不況はかつて経験したことがなかったので「100年に1度の世界不況」と言われました。多くの市場関係者が、深刻な不況が長期化するというイメージを持ちました。
ところが瞬間的な落ち込みは激しかったのですが、不況は短期で終息しました。リーマンショックが起こった翌年の2009年1~3月が世界不況の底でしたが、2009年4月以降、世界景気は立ち直りました。
「リーマンショック前」と「現在」、似ているところ
昨年から今年にかけて「世界まるごと好景気」と言っていい状況が続いています。特に米国の好調が目立ちます。ただ最近、中国や中南米などに一部、景気減速の兆しがあります。
世界景気は「おおむね好調」と言えますが、不安材料は米利上げが続いていることです。米利上げが続いてきた副作用で、新興国から資金が流出しています。トルコ、アルゼンチン、ベネズエラ、南アフリカなど、対外負債の大きい新興国の通貨が大きく下落し「新興国危機」が起こる不安が出ています。
また、貿易戦争や地政学リスクの高まりで、世界景気が減速する不安もあります。それでも、米国株(S&P500・ナスダック総合指数)が強いので、世界全体では株価は好調と言えます。
この環境は、リーマンショック前と似ているとも言えます。リーマンショック前、世界景気が好調で米利上げが続く中、サブプライムローン危機の芽が出ていました。ただし「ブリックス(ブラジル、ロシア、インド、中国)の高成長が続くので、欧米景気が減速しても世界景気の拡大は続く」と楽観論が広がっていました。
「米利上げが続き危機の芽はあるが問題なし」と楽観論が広がっているところが、リーマンショック前と今の共通点です。
「リーマンショック前」と「現在」、異なるところ
当時と今を、もう少し詳しく比較してみましょう。
異なる点1:利上げが続いているが、金利水準は当時よりも低い
世界の株式市場にとって、米利上げが続いていることがリスクとなっている状況は同じです。ただし、金利の水準は当時と比べてかなり低い状況です。世界的にインフレは沈静化しています。
最近、原油価格がゆるやかに上昇してきていますが、それでも原油価格はリーマンショックの頃より、大幅に低い水準にあることには変わりません。今の世界景気には、資源価格低下の恩恵が幅広く及んでいます。
米FF金利(政策金利)と長期金利推移:2004年1月~2018年9月(13日まで)
異なる点2:反グローバル主義・反資本主義が勢いを得つつある世界の政治情勢
政治情勢は、当時よりも今の方が不安定化しています。米国のトランプ政権が、米国第一主義を取っている影響が大きいのですが、それだけではありません。欧州にもポピュリズム(大衆迎合主義)が広がり、反グローバル主義・反資本主義が勢いを得つつあります。
- 米国が保護貿易主義に転じ、中国、メキシコ、日本、ドイツなどを相手に貿易戦争をしかけていること
- 英国がEU(欧州連合)離脱方針を決めたこと
が、世界の株式市場にとってリスク要因となっています。
異なる点3:日本株の投資魅力は高まっている
日本株の投資価値は、リーマンショック直前よりも今の方が高い、と考えています。日本企業の財務内容・収益基盤・ビジネスモデルが、ともに改善しているからです。
また、日本株のバリュエーション(予想PER)が低下し、予想配当利回りが高くなってきていることも、日本株の投資魅力を高めています。
日経平均の予想PER:2004~18年(年末ベース)、2018年は9月13日時点
結論!リーマンショックのような危機が起こる可能性は低い!
世界経済が2019年に減速するリスクはありますが、リーマンショック級の景気後退にはならないと考えています。2019年の世界景気減速を織り込む時に、日経平均は下落が予想されます。ただし仮にそうなっても、日本株の減益率・下落率は、10~15%の範囲に留まる、と予想しています。日本株のバリュエーションが低くなり、日本企業の収益・財務基盤が、リーマン前よりも堅固になったからです。
短期的な急落は、これからもあるでしょう。ただし長期的には、日本株は上昇トレンドをたどっていくと考えています。
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