世界有数の金融立国・スイスのプライベートバンクはいかにして生まれたか?
トウシル / 2018年9月21日 7時0分
世界有数の金融立国・スイスのプライベートバンクはいかにして生まれたか?
世界有数の金融立国・スイスのプライベートバンクはいかにして生まれたか?
伊藤 淳(株式会社アイ・パートナーズフィナンシャル IFA)
スイスとプライベートバンク
今回は「スイスと金融の馴れ初め」と題し、スイスの歴史とその中心であるプライベートバンクについて書こうと思います。
国連が毎年発表している「世界幸福度ランキング」で常にトップを争うスイス。世界トップクラスの裕福な国スイスは、どのようにして出来上がったのか。
まずスイスというと、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。美しい山々とエメラルドグリーンの湖、街を見渡せば高級時計の露店や、チーズをふんだんに使った郷土料理のレストランなどなど。
しかし、金融大国スイスを語る上で欠かせないのが「プライベートバンキング」の存在です。日本人にとってなじみの薄いプライベートバンキングとは一体どんなものなのでしょうか。
一般的には富裕層向けに「守秘義務」を重んじ、資産運用やコンサル業務を行っているイメージではありますが、実際細かいところでみると非常に多岐にわたるサービスを行っています。たとえば子供への教育支援や旅行の手配、医療機関の紹介など、お金に関するサービス以外にも多くのきめ細やかなサービスを行っています。
なぜスイスが世界一のプライベートバンキングになったのか
スイス「プライベートバンキング」の歴史は11世紀の十字軍までさかのぼります。それ以降ヨーロッパ各地で戦争が続く中、スイスは傭兵をビジネスとしていました。傭兵は現地で得た報酬のほかに略奪の金品類なども傭兵の収入元になっていたため、秘匿性の高い資産管理が重要だったとのことです。
そんなスイスがプライベートバンクとして地位を確立したのは、19世紀はじめにヨーロッパ諸国がスイスを永世中立国と認める条約が結ばれたことです。戦争の絶えないヨーロッパの地では「不可侵の国」というのは「資産保全に一番適している場所」というわけです。第二次世界大戦ではナチスから逃れるため、多くの資産がスイスに集まりました。スイスはヒトラーの資産を保全していたとか、裏でナチスに協力していたなどという噂もあり、プライベートバンクにブラックな印象が根付き始めたのはそこからとも言われています。(プライベートバンクは秘匿性が高く、噂話に対し肯不定しないためブラックなイメージを持つ人々もいると筆者は考えています。)
現在のスイスプライベートバンク
ただ、その秘匿性は2007年、HSBCの子会社(ジュネーブに拠点を置くプライベートバンク)が起こした「スイス・リークス事件」がきっかけで大きな転換点を迎えます。これは簡単にいうとHSBCの子会社が機密情報を漏洩してしまい、世界数百件以上の顧客が、脱税に関与していたのです。これにより2009年、当時のオバマ大統領の要請によって一部の秘匿性は撤廃されています。これを理由にスイスのプライベートバンクから一部資金が他国へ流出しましたが、スイスのプライベートバンクの地位が特段崩れたわけではありません。むしろ他国との競争力も上がり、現在ではサービスが日々向上しているといわれています。
プライベートバンクの運用
スイスプライベートバンクの特徴は、他の金融機関とは異なり、「資産運用」ではなく、「資産保全」を第一に考えています。重要なのは、コアな資産が、スイス国内のインフレに対応することが大切であり、期間も30年~50年先を考えて戦略を練っていきます。過去30年のスイスのインフレ率を見ても2~3%(データ:IMF)となっています。
それに対し、欧米諸国の金融機関は、世界株式(MSCIやFTSE等)の上下に連動するような戦略が中心となる傾向ですので、大幅にリスク管理が違います。
簡単にスイスの金融の歴史とプライベートバンクの特徴を書きましたが、ネガティブな印象をお持ちになった方もいるかもしれません。しかし、スイスを知る上で表も裏も知っておくことは、世界の金融事情を知る上で大いに役立ちますので、覚えておきましょう。
参考文書
(トウシル編集チーム)
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