消費セクターの年末テーマは「軽減税率」。スーパー、コンビニ、フードデリバリーは悪材料を乗り越える?
トウシル / 2018年9月27日 8時0分
消費セクターの年末テーマは「軽減税率」。スーパー、コンビニ、フードデリバリーは悪材料を乗り越える?
日本の消費関連銘柄に悪材料が増えています。自然災害がインバウンド消費に影を落としているほか、米中貿易摩擦の懸念を背景に中国関連銘柄にも手を出しにくい状況です。インバウンド消費が年内に本格回復する可能性は低いでしょう。
さらに、来年2019年の10月には消費増税が待っています。これを控えて、各小売企業は来期の業績予想を控えめに出してくる可能性があります。ただし、今期発生している悪天候や自然災害などの悪材料は一過性のものであると言え、来期はその分販売のハードルが下がると考えられます。この効果が消費増税による影響をどこまで相殺できるかが焦点になります。
消費増税が年後半からの予定であるため、来期は、各企業が上期下期でどのような販売戦略を立てるのかに注視する必要もあります。こうしたなか、今後、意識されるとみられるテーマが軽減税率です。スーパー、コンビニエンスストア、フードデリバリーセクターは軽減税率の恩恵を受ける可能性が高く、消費増税が悪材料になりにくいと考えられます。
2019年10月1日に実施される予定の消費増税(8%から10%に上昇)ですが、一部の商品は軽減税率の対象となり、消費税率は8%に据え置かれる公算です。軽減税率の対象は、酒類・外食を除く飲食品と、定期購読契約に基づく週2回以上発行される新聞などになる見通しです。
来年は、スーパー、コンビニエンスストア、フードデリバリーセクターにとって、消費増税を避けられるだけではなく、外食から顧客を奪う好機にもなるでしょう。近年、節約志向が高まるなかでも、外食および調理食品へのニーズは強く、日本の消費者は手軽さや時間の効率化に価値を見出していると考えられます。このニーズをスーパー等が取り込むことが期待されます。
スーパーの中でも、ヤオコー(8279)、ベルク(9974)に注目しています。高い販売力を背景に、ヤオコーは27期、ベルクは13期連続で純利益を更新する見通しです。
また、足元で株価が上昇しているものの、オイシックス・ラ・大地(3182)にも期待しています。25日移動平均線の水準である3,200円まで株価が下がれば投資妙味がありそうです。
日本の消費関連銘柄に悪材料が増える
日本の消費関連銘柄に悪材料が増えています。猛暑に加え、豪雨、台風、地震といった自然災害がインバウンドを含む消費環境に影を落としています。さらに、2019年10月に実施される予定の消費増税、中国の景気減速など、来年に向けて注意が必要な材料もあります。
災害がインバウンド消費に影響を及ぼす
インバウンド消費への影響は数字になって出てきています。韓国の観光客に中心に日本で旅行手配を展開するHANATOUR JAPAN(6561)の旅行事業における取扱高推移は足元で大きく落ち込んでいます。韓国は日本と距離が近いため、訪問時期を見直すことが比較的容易です。キャンセルをしやすい分、最初に顧客の反応が出たと考えられます。
<HANATOUR JAPAN、インバウンド需要が落ち込む>
HANATOUR JAPANの旅行事業における取扱高増減率(前年同月比)
(期間:2018年1月~8月)
関西に強い大丸を展開するJ.フロントリテイリング(3086)の免税店売上げも、二桁増収ではあるものの勢いが落ちています。
<J.フロントリテイリング、免税売上高の勢いが鈍化>
大丸松坂屋百貨店における免税売上高の増減率
(前年同月比)(期間:2018年1月~8月)
9月に北海道地震が起き、韓国以外の国々にもキャンセルが広がっている可能性を考えると、インバウンド消費の本格的な復活は年明け以降になるでしょう。
米中貿易摩擦の懸念が拭い去られていない
中国における消費マインドの低下も潜在的なリスクです。現状は、中国の8月の小売売上高は前年同期比9.0%増で推移しており、消費活動は堅調に見えます。米中貿易摩擦の懸念は拭い去られていませんが、それを受けて中高所得者がすぐに出費を抑制するとは考えにくく、当面、小売売上高は拡大していくとみられます。しかし、中国経済に対する懸念が長期間に渡れば、高級品を中心に販売が停滞するリスクがあります。
2019年の消費増税で購買力は低下へ
2019年10月1日に実施される予定の消費増税(8%から10%に上昇)については、年の前半は駆け込み需要、後半は反動減がテーマになりますが、実質賃金が2%上昇しない限り消費者の購買力は低下するでしょう。政府が自動車や住宅などの購入支援策や子育て世帯への補助を実施する可能性がありますが、恩恵を受けない人にとって消費増税は打撃となります。このテーマについては、2月決算の小売り企業が機関投資家向け説明会を開き始める3月頃から本格的に話題になると思います。各企業がその影響をどのように通期計画に織り込むのかが焦点になります。
軽減税率対象の商品は税率が据え置きに
ただし、2016年に公布された「抜本改革法等改正法」により、一部の商品の消費税率は据え置かれる公算です。軽減税率の主な対象は、酒類・外食を除く飲食品と、定期購読契約に基づく週2回以上発行される新聞です。飲食品については同じ商品であっても、持ち帰る目的で購入したものは消費税が8%に、店内で飲食した場合は10%になる見通しです。
スーパー、コンビニエンスストア、フードデリバリー関連の企業に有利
軽減税率は、スーパー、コンビニエンスストア、フードデリバリー関連の企業に恩恵をもたらすでしょう。節約のために外食に行く回数を減らして、スーパーやコンビニの惣菜を選ぶ消費者が増加すると考えられます。特に、飲食品の持ち帰りが基本の食品スーパーが有利な立場になります。食品メーカーが、自宅で簡単に調理できる加工食品や冷凍食品を訴求することによって、スーパーの惣菜以外のコーナーも魅力度が高まりそうです。
<主要スーパー、コンビニエンスストア、フードデリバリー企業一覧>
ヤオコー、ベルク、オイシックス・ラ・大地に特に注目
食品スーパーでは、5月31日「優待だけじゃない!イオン、ヤオコー、ベルク…スーパーストア業界に変化の兆し」で詳しく述べているヤオコー(8279)、ベルク(9974)に期待しています。両社は相対的に消費環境が有利な地域を基盤にしていることに加え、独自の付加価値を消費者に提供しています。両社の月次はしっかりと推移しており、来期にかけても、自宅における飲食需要をしっかり刈り取ることができるでしょう。
<ヤオコーの販売は堅調に推移>
ヤオコーの既存店売上高と客数の推移(前年同月比)(期間:2017年4月~2018年8月)
ヤオコーの業績推移
ヤオコーの株価推移(9月14日まで)
<ベルクの販売は堅調に推移>
ベルクの既存店売上高と客数の推移(前年同月比)(期間:2017年4月~2018年8月)
ベルクの業績推移
ベルクの株価推移(9月14日まで)
フードデリバリーの分野では、オイシックス・ラ・大地(3182)に注目しています。同社は「Oisix」ブランドで、安全に配慮したこだわりのある青果物をネット販売しており、その会員数は増加傾向にあります。
2019年3月期1Qの会員数は前年同期比22.0%増の179,942人に拡大しました。ARPU(※)は同2.3%減の1万1,562円となりましたが、会員数の増加で相殺できています。
※ARPU:Average Revenue Per User (会員一人当たりの月間売上高)
=定期会員の購入頻度×購入単価/回
<「Oisix」の会員数は増加傾向>
第1四半期における会員数とARPUの推移
「Oisix」が提供する食材はスーパーで購入する場合と比べて安いわけではありませんが、食材にこだわりのある消費者のニーズを掴んでいるほか、共働き世帯を中心にミールキットが支持されています。ミールキットは、カット済みの野菜と調味料のセットで、20分で主菜と副菜が作れる点が特徴です。
手軽に食事を取るニーズは高まっていると考えられます。近年、日本の家計は支出を抑制し節約に努めてきました。勤労者世帯の平均消費性向は低下傾向にあります(詳細は5月17日「30年前を下回った実質賃金。節約ムードでも国内で最高益を叩き出す小売業のなぜ?」)。ただし、消費支出に占める外食および調理食品の比率は、どの年代でも上昇傾向にあります。日本の消費者は手軽さや時間の効率化に価値を見出していると考えられ、この需要をミールキットが取り込んでいるとみられます。
同社は競合であった「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」を傘下に収め、足元ではこの2社のブランド力を強化、育成しています。「Oisix」で培ったマーケティング力、商品力を活かすことにより、2社は連結業績の拡大に寄与していくでしょう。「大地を守る会」では、商品カタログのページを、ターゲットに合わせて落ち着いたデザインに変更。「らでぃっしゅぼーや」は収益性が懸念材料でしたが、2019年3月期1Qは黒字となりました。
<2019年3月期1Qのセグメント別業績推移>
<オイシックス・ラ・大地の業績推移>
オイシックス・ラ・大地の株価推移(9月14日まで)
(松村 梨加)
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