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【特別対談】サウジ人記者殺害事件がリスク化!今後の世界経済と中東の真実・前編

トウシル / 2018年10月25日 17時14分

【特別対談】サウジ人記者殺害事件がリスク化!今後の世界経済と中東の真実・前編

【特別対談】サウジ人記者殺害事件がリスク化!今後の世界経済と中東の真実・前編

[特別対談]サウジ人記者殺害事件がリスク化!今後の世界経済と中東の真実・前編

高橋和夫氏(国際政治学者・放送大学名誉教授)×

吉田哲(楽天証券経済研究所コモディティアナリスト)

前編・サウジ人記者はなぜ殺されねばならなかったか?

 国内情勢だけでなく、世界各地のリアルな動向に目を向けることが、投資には重要です。

 例えば中東の動き。サウジアラビアなど産油国の動きによって原油価格が変動し、株価に大きな影響を与える場合があります。しかし、日本人にとって中東のイメージは「イスラム教」「OPEC」「紛争地」…とやや固定的です。

 しかし、そんなイメージを一変させるような報道が2018年10月、飛び込んできました。

 サウジ人記者のジャマル・カショギ氏が、トルコのサウジ総領事館内で殺害されたとする事件です。そして、この事件はいまや世界を大きく揺さぶっています。

 そこで、楽天証券経済研究所コモディティアナリストの吉田哲と、放送大学名誉教授で中東研究のエキスパートである国際政治学者の高橋和夫氏が、サウジをはじめとした中東の真の姿について対談。

 前編の今回は、記者殺害事件と、中東と世界の関係を理解する上で不可欠な「基礎」に迫ります。

関連記事≫≫[特別対談]中編・「中東」の宗教と文化・ISとIT

関連記事≫≫[特別対談]後編・激震の「中東」・今後の動きと未来

 

中東はなぜ、「Middle Eastミドル・イースト」と呼ばれるのか

吉田哲(以下、吉田) マーケットに関心のある人にとって、中東は気になる存在です。中東で紛争が起こって原油価格が変動し、所有する銘柄の株価が動いたという経験を多くの人がしているからです。

 ところが、中東についてのイメージは、ボンヤリしている。多くの人にとって中東は分かりにくい地域だと思います。

 そこで、第一人者である高橋先生に中東を分かりやすく解説していただきたいと考えています。

高橋和夫氏(以下、高橋) そもそも中東がなぜ「Middle East(ミドル・イースト)」と呼ばれるのか、理解していない日本人は多いかもしれないですね。

吉田 「ミドル・イースト」を直訳すると「真ん中」の「東」ということですよね。欧州を「真ん中」に、その「東」にある地域です。具体的には、どのあたりでしょうか。

高橋 バルカン半島からペルシャ湾沿岸あたりまでを「中近東」と言いますが、欧州ではトルコなどバルカン半島一帯を「Near East(ニア・イースト)」、近東と呼びます。そのさらに東だから「ミドル・イースト」になるわけです。

吉田 そして、そのはるか東の日本や朝鮮半島のことは「Far East(ファー・イースト)」、極東と呼ぶわけですね。

高橋 ちなみに中東の人々は「ミドル・イースト」という呼び名が気に入っているようですよ。「真ん中」という響きがよいのだと思います。

吉田 どこからどこまでを「中東」とするか、いろいろな見方があるようですが、アラビア半島一帯からイランにかけてでも、20近い国があります。その中で私たちがまず動向を押さえておくべき国というと、やはりイラン、サウジになるのでしょうか。

中東研究の第一人者である高橋和夫氏

高橋 そうですね、いろいろな意味で存在感のある2国と言ってよいと思います。ただ、イランとサウジはさまざまな点で異なります。サウジはアラビア半島や北アフリカの多くの国家同様、アラブ人を中心とする国であり、人々はアラビア語を話します。これに対してイランはペルシャ人の国であり、公用語はペルシャ語です。また、面積はほぼ一緒ですが、人口はサウジが約3,200万人、イランは約8,000万人と2倍以上、人口規模が違いますね。

吉田 なるほど。歴史的にはどうなのでしょう?

高橋 イランは紀元前の時代に、この地域を支配した巨大なペルシャ帝国の子孫の地ですから、イランの人たちは「オレたちがこの地の歴史を作り上げてきたぜ」という誇りを持っています。そして、サウジに対しては「ラクダを引いて暮らしている遊牧民じゃないか」と見下す傾向がありますね。

吉田 サウジの人はサウジの人で何かにつけ、イラン人を揶揄(やゆ)しているのでしょうが、いずれにしても互いに対抗意識的なものがあるわけですね。

高橋 それが露骨に出るのが宗教の絡んだときです。イランもサウジもイスラム教国家です。同じ宗教なのになぜ対立するのか、不思議に感じる日本人にはなかなか理解できないところでしょう。しかし実は、宗派が異なるんです。サウジにはイスラム教の中の多数派であるスンニ派の信者が圧倒的に多い。一方、イランはと言うと少数派であるシーア派の信者が大半です。宗教が異なるわけですから、当然、対立することも多いわけです。

 

国家の体を成していない国が多い中東

吉田 中東におけるパワーバランスを探るにはやはり宗教について考察する必要がありそうですが、その話題は次回(中編)に回すとして、それ以外の国はどう見るべきですか。

高橋 実は中近東の中できちんと国家として機能しているのは、イランとトルコ、エジプト、イスラエルくらいで、他は国の体を成しているとは言い難い。

吉田 サウジは国の体を成していると言えないのでしょうか?

高橋 サウジは石油「大国」ではありますが、国家体制という点で見るとバーレーンやカタール、オマーンなど周辺の国々と似たり寄ったりです。いま、国の第一副首相や国防大臣を兼務するムハンマド皇太子が中心となり、さまざまな改革を進めていますが、まだまだ大きく変わったとは言い難いのが実情です。

吉田 具体的にどういうことですか。

高橋 一番分かりやすい例を挙げると、国民がまともに働いていないんです。石油輸出で稼げるから、国民から税金を徴収する必要がないからです。学校の授業料も医療費もほとんど国が面倒を見ています。

吉田 でも、道路を造るにもビルを建てるにも労働力が必要ですよね。

高橋 その役目を負っているのは自国サウジの国民でなく、バングラディッシュなど周辺諸国からやってくる外国人労働者なんですよ。とりわけ肉体労働は外国人に頼っています。

吉田 なるほど、確かに私たちの感覚からすると、「真っ当」な国とは言い難いですね。

高橋 文字通り、「砂上の楼閣」と言ってもいいかもしれません。サウジの国自体が蜃気楼(しんきろう)の上に浮かんでいるようなものです。

吉田 でも、働かなくていいなんて、なんだか複雑な気持ちになります。

高橋 サウジにせよ周辺諸国にせよ、大きな町はどこもきれいで整備されています。それに大概の物は手に入るので不自由は感じないし、治安も悪くありません。そういう快適な環境で、働かずにのんびり暮らせるわけです。

コモディティの専門家である吉田哲

吉田 そういえば2017年に、サウジの王族が来日しましたね。そのときの様子を見て、サウジはリッチだという印象を抱いている人も多いと思います。大きな町は暮らしやすいようですが、地方ではまた違うんでしょうか。

高橋 私も地方に行く機会は滅多になく、情報も入らないので、地方にもきちんとお金が回っているかどうかはなんとも言えません。まんべんなくお金が回っていて国中の人が裕福に暮らしているかもしれないし、お金が回らず貧困を強いられている人がいるかもしれない。前者であることを祈りたいですが。

吉田 ちなみにお酒を飲めないんですよね。

高橋 サウジでは、飲めません。アラブ首長国連邦やバーレーンなどでは、そうではありません。自由に飲める国もあれば、外国人だけが飲める国もある。さらには、全然飲めない国と、実情はさまざまですね。

吉田 ひとくくりに中東と言ってもさまざまな表情を持っていますね。

中東が風邪を引くと、世界中が風邪を引く

吉田 先生は著書の中で「中東は原油や天然ガスなどのエネルギーの多くを世界に供給している。世界を人体に、エネルギーを『血液』に例えれば、中東は人体に血液を送り出す『心臓』にあたる」としています。だから、中東が火種を抱えると、世界中に多大な影響を与えると。

高橋 心臓が働いて、全身に血液を送り込んでいるから人間は生きていられるわけですよね。世界の国々も、中東から原油や天然ガスなどエネルギー供給を受けているから存続できているということです。

吉田 逆に言えば、心臓の機能が低下して血液が回らなくなったら生命の危機を迎えるように、中東がエネルギー供給できなくなったら、世界は存続の危機を迎えかねません。中東が風邪を引くと世界中が風邪を引くと。

高橋 存続の危機と言うと少し大げさかもしれませんが、大きな混乱とダメージを受けるのは間違いないでしょう。事実、中東で起きた出来事をきっかけに、世界中が混乱をきたし、社会や人々が不安の渦に飲み込まれたことは幾度となくあります。

吉田 真っ先に思い浮かぶのはオイルショックですね。1973年に第4次中東戦争が起こり、アラブ産油国が石油の大幅な値上げを行った結果、欧米や日本などの先進国が深刻な事態に見舞われました。さらにその数年後の1979年、イラン革命のときにも原油価格が急騰し、世界中を震撼(しんかん)させました。

高橋 他にも1980年から8年間続いたイラン・イラク戦争や1990年の湾岸戦争のときも世界中に深刻な影響を与えました。

トップニュースとして連日、サウジ人記者殺害事件が報道

吉田 そして今、サウジ人記者殺害事件は、世界への影響が日に日に大きくなっています。なぜ彼は殺されなければならなかったのでしょうか。

高橋 ジャマル・カショギ記者は、かつて体制中枢にいたジャーナリストで、カショギ家はサウジの建国時から華麗な一族なのです。カショギ記者の祖父は医者で、初代国王のアブドゥルアズィーズの侍医でした。

 それがムハンマド皇太子とそりが合わず、身の危険を感じた彼は、昨年から米国に亡命し、ワシントン・ポスト紙にサウジを批判するようなコラムを寄稿していました。

 ただ、王政批判者はカショギ氏だけではない。なぜ彼だけが殺されなければならなかったのかと言えば、得意の英語を駆使し、米国の著名紙上で理にかなった批判をしていたことが、王室にとって脅威だとみなれさたのかもしれません。

吉田 なるほど。トランプ大統領は当初、サウジをかばうような傾向も見られましたが。

高橋 実はカショギ記者の叔父アドナン・カショギ氏は、イスラエルやイランなどと取引していた武器商人で莫大な富を誇ることで有名でした。アドナン氏の台所事情が苦しくなったとき、米国の不動産王だったトランプ氏が、彼所有の豪華なヨットを買ってあげたということもあり、サウジとの結びつきが非常に強いのです。

吉田 サウジへの影響はどうなると見ていますか。

高橋 サウジへの経済支援や投資に影響も出てくるでしょう。謀殺行為をするようなサウジとはビジネスはしたくないと撤退する企業は多くなると思います

吉田 わかりました。この事件の経緯を注意深く見守る必要があるわけですね。では次回は宗教や文化を中心にお伺いします。

中編・「中東」の宗教と文化・ISとITを読む≫≫

高橋和夫(たかはし・かずお)

日本における中東研究の第一人者で国際政治学者。大阪外国語大学ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士。クウェート大学客員研究員、放送大学教授を経て、現在は放送大学名誉教授、先端技術安全保障研究所(GIEST)会長 。著書は『中東から世界が崩れる イランの復活、サウジアラビアの変貌 』(NIHK出版)ほか多数。

【高橋和夫氏が登壇するシンポジウムのお知らせ】

「北朝鮮と中東」日時:2018年12月14日午後3:00~5:00、会場:FinGATE KAYABA(東京都中央区)。詳しくはこちら

 

吉田哲(よしだ・さとる)

楽天証券経済研究所コモディティアナリスト
1977年生まれ。大学卒業後、2000年からコモディティ業界に入る。2007年からコモディティアナリストとして商品の個別銘柄や分析や情報配信を担当し、2014年より現職。ビギナーにも上級者にも役立つ解説がモットー。
主な連載に「週刊コモディティマーケット」「商品先物取引入門講座」がある。

 

 

[特別対談]サウジ人記者殺害事件がリスク化!今後の世界経済と中東の真実

前編・サウジ人記者はなぜ殺されねばならなかったか?

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(トウシル編集チーム)

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