急落した半導体関連株の投資判断:スーパーサイクルの恩恵を受ける銘柄とは
トウシル / 2018年10月31日 7時37分
急落した半導体関連株の投資判断:スーパーサイクルの恩恵を受ける銘柄とは
空前の半導体ブームはピークアウト近い?フラッシュメモリの需給緩む
最近、世界的に半導体関連株の下落が大きくなっています。トランプ米政権が仕掛ける貿易戦争が激化し、世界景気が腰折れするリスクが警戒されている面もあります。実際、日本の株式市場では、今年に入ってから、景気敏感株(自動車・機械・半導体関連など)の下げが目立つ中、ディフェンシブ株(食品・医薬品・電鉄など)が相対的に堅調です。
ただし、半導体関連株の下落が大きいのは、貿易戦争の影響だけではありません。これまで、供給不足が長期化し、価格上昇が続いてきた最先端のフラッシュメモリ(データセンターやスマホの記憶媒体に使われる半導体)の需給が緩和し、価格が下がってきた影響も出ています。
当初、最先端のフラッシュメモリ(3次元NANDフラッシュ)は生産が難しく、なかなか歩留まり【注】が上がりませんでした。
【注】歩留まり(ぶどまり)
工場で生産される半導体から、「不良品」を取り除いた出荷可能な「良品」の比率を、「歩留まり」という。最先端の半導体は、生産が難しく、当初、歩留まりが低い。技術がこなれて生産が軌道に乗ると、歩留まりが上昇する。
需要が増加する中、供給が増えないために、2016~17年は、フラッシュメモリの市況が上昇を続けました。生産が増えるにしたがって価格が下がるのが当たり前の半導体で、価格が上昇するのは異例のことです。これが、過去に例のない空前の半導体ブームを生じました。半導体メモリを生産するメーカー(韓国サムスン電子、東芝半導体など)が巨額の利益を上げる中で、他社より少しでも早くフラッシュメモリの生産を増やそうと、世界の半導体メーカーが、競って設備投資を増やしました。
ところが、半導体メーカーの努力の甲斐があり、ようやく最先端のNANDフラッシュでも、歩留まりが向上してきました。それに伴い、需給が緩和し、価格が低下してきました。こうなると、半導体メーカーは、設備投資を急ぐ必要がなくなります。これから、半導体製造装置の受注減少が鮮明になる可能性もあります。
半導体スーパーサイクル説は、半分正しく、半分誤り
4~5年周期で好不況を繰り返してきた半導体業界ですが、半導体の用途が、PC・スマホ・データセンターだけでなく、自動車・家電製品・ロボット・IoT機器(「モノのインターネット化」関連機器)に広がる中で、一時は、「半導体スーパーサイクルが始まった」との声もありました。これは、「通常の半導体サイクルは無くなり、半導体産業が継続的に成長する時代に入った」という意味です。
それは、半分正しく、半分誤りであると考えています。市況変動が激しい、半導体メモリ(フラッシュメモリやDRAM)は、これからも供給不足と供給過剰を繰り返すと考えられます。つまり、半導体メモリだけについて言えば、スーパーサイクル説は誤りということになります。
ただし、半導体メモリは、半導体市場全体の一部(約3分の1)に過ぎません。半導体には、メモリの他にも、マイクロ、ロジック、アナログ、ディスクリート、光半導体、センサーなど、さまざまな種類があります。メモリ以外の半導体は、ここから安定的に成長すると考えられます。例えば、個別オーダーメードとなる自動車用の半導体は、極端なブームにも不況にもなることなく、安定成長が続くと予想しています。メモリ以外に注目すれば、半導体市場全体ではスーパーサイクルが始まったと言っていいと、考えています。
それでは、半導体関連株への投資は、どうしたらいいでしょうか?私は、今後、半導体関連株の値動きは、徐々に二極化すると見ています。絶好調の半導体メモリが供給過剰になるとき、メモリ関連株の業績は悪化すると考えています。
ただし、メモリ以外の半導体ビジネスは、スーパーサイクルに入った可能性があります。半導体材料(シリコンウエハ)で最先端の技術力を持ち世界第1位の信越化学(4063)、同2位のSUMCO(3436)や、自動車用の半導体で世界第3位のルネサスエレクトロニクス(6723)は、スーパーサイクルの恩恵で安定的に収益を稼いでいけると予想しています。
また、スマートフォンやデジカメなどに使われる「画像センサー(半導体)」で高い技術を持つソニー(6758)も投資価値は高いと考えています。スマホの伸びが想定以下で今期、半導体事業は減益となりますが、ゲーム・音楽・映画などで、安定的に高収益を稼いでいけると予想しています。
一方、メモリへの依存度が高い日本の半導体製造装置株は、要注意です。高水準の受注残を抱えているので、すぐに業績が悪化することはありませんが、ブームが去った後は、業績が急速に悪化する可能性もあります。
まとめると、半導体関連株の投資判断については、以下の通り、考えています。
【1】半導体製造装置は、要警戒
半導体メモリへの依存が高い、日本の半導体製造装置メーカー、東京エレクトロン(8035)やSCREEN HD(7735)への投資は、ここからはリスクが高いと考えます。
【2】半導体材料・車載半導体の成長に期待
半導体材料(シリコンウエハ)で世界シェアの高い、信越化学(4063)・SUMCO(3436)は、半導体市場全体のスーパーサイクルの恩恵を受けられ、投資価値が高いと判断しています。また、車載半導体(自動社に使われる半導体)で世界第3位のルネサスエレクトロニクス(6723)や、画像センサーで高い技術を持つソニー(6758)も、長期的な投資価値が高いと判断しています。
過去20年の半導体サイクル振り返り
それでは、過去20年のシリコン・サイクル(半導体産業の好不況サイクル)を簡単に振り返ります。まず、過去20年の世界半導体出荷額と、SOX指数(米国の半導体株価指数)の動きを見てください。そこに、過去20年のシリコン・サイクルが表れています。
世界半導体出荷金額(3カ月移動平均):1997年1月~2018年8月
SOX指数(米国半導体株価指数)の推移:1996年12月~2018年10月(29日)
ITバブルと言われた1999年にも、半導体の大ブームがありました。この頃の半導体の主用途は、パソコン(PC)でした。20世紀には、PCの成長とともに半導体産業も成長しました。PC買い替えサイクルが、シリコン・サイクルを形成していました。
1999年には、インターネットの登場でPCの成長期待が異常に高まり、株式市場でIT関連株や半導体関連株が、異常な高値まで買われました。ところが、後から振り返ると、それはバブルでした。2002年には、IT需要が大きく落ち込み、ITバブル崩壊不況が起こりました。
その後、半導体産業は、長期停滞局面に入りました。PCの成長がなくなったことが影響しました。2008年にリーマンショックが起こると、さらに落ち込みました。
ただ、後から振り返ると、そこから、半導体業界の大復活が始まっています。今、半導体業界は、久々の世界的ブームに沸いています。半導体ブームをけん引しているのは、データセンターや高機能スマホで使われる、半導体メモリです。
クラウド・コンピューティングが普及し、個人でも大容量の動画を簡単に保管できるようになったことから、データセンターでのメモリ需要が急拡大しています。2019年より、世界的に、5G(第5世代移動体通信)への移行が始まると、データセンターでのメモリ需要は一段と拡大が予想されます。
他にも、半導体を使う分野が急速に増えています。自動車の電装化・電動化が加速しており、自動車は半導体需要をけん引する重要分野となりつつあります。IoT(モノのインターネット化)の普及も、半導体需要を増加させています。産業用機器でもIoTが広がり、半導体需要拡大に寄与しています。
急拡大する半導体需要に、供給が追いつかない状態が長引くうちに、半導体スーパーサイクルが始まったという声が出てきましたが、足元、半導体メモリの需給が緩み、半導体ブームがいったん終わることが懸念される状況となっています。
私は26歳だった1987年に、投資顧問会社で、日本株ファンドマネージャー兼アナリストとなりました。その時、アナリストとして最初に担当したのが、半導体産業でした。それから、2013年まで、日本株のファンドマネージャー兼アナリストをやりました。いろいろな業種を担当しましたが、半導体業界について、常に考え続けてきました。
半導体産業、厳密に言うと、半導体メモリは波の大きいビジネスです。誰もが強気で半導体メモリの好調が続くと思っているときに突然ピークアウトし、半導体不況が始まります。もう、半導体メモリでは稼げないと思われている、半導体不況の大底から、突然、急回復が始まります。
半導体産業の業況をこれからもしっかり見て、気づいたことがあれば、ご報告します。
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