100年ぶりの大転換。EVと為替のカンケイ
トウシル / 2017年8月9日 19時0分
![100年ぶりの大転換。EVと為替のカンケイ](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushiru/toushiru_1752_0-small.jpg)
100年ぶりの大転換。EVと為替のカンケイ
先日、新聞を読んでいましたら、今後その成り行きを注目すべき記事が出ていました。「英仏、ガソリン・ディーゼル車の販売を2040年までに禁止」という記事です。
ガソリン車の販売禁止とはかなり思い切った決断だなと驚きました。エンジンによる自動車が世界で初めてドイツで誕生したのは19世紀末です。自動車産業はその後大発展し、経済成長の消費を引っ張る一大産業となりました。100年以上続いてきたその自動車産業が、根底から構造転換を迫られる決断を英国とフランスはしたことになります。英国政府によると、都市部などでの深刻な大気汚染問題に対応する目的で禁止の方針を決めたとのことです。英国では毎年、大気汚染に関連して約4万人が死亡しているそうです。
英仏だけでなく深刻な大気汚染に悩む中国なども環境規制を強化してきており、自動車メーカーは対応に迫られています。
8月1日、トヨタとマツダはこの環境規制に対応すべく資本業務提携を発表しました。各社が500億円ずつ出資してEV(電気自動車)の共同技術開発を進め、競争力強化を図ることを決定しました。トヨタはこれまで、EVについては1回の充電で走行できる距離が限られているとの判断から消極的でした。1997年に世界で初めてHV(ハイブリッド車)を量産し、その後2014年には「究極のエコカー」と位置づけるFCV(燃料電池自動車)の世界初となる量産化に成功しました。
しかし、世界では電動化の流れが急激に強まってきていることから、トヨタは電動化の流れに逆らわず、EV参入に向けて出遅れ挽回の方針に変更したようです。また、共同記者会見でトヨタの豊田章男社長は、「アップルやグーグルなどIT企業との戦いなど、海図なき前例のない戦いが始まっている」と強調しました。競争相手はドイツのフォルクスワーゲンやベンツ、米国のGMだけでなく、アップルやグーグルも競争相手という認識は、急激な変化への覚悟が読み取れます。
欧州でも、2015年の独フォルクスワーゲンの排ガス不正問題をきっかけに、EVシフトが進んでいます。ガソリン・ディーゼル車からEVにシフトしていく動きは、ガソリン需要が減少し、原油価格が下落する要因となります。原油の下落は、物価の伸びを抑え、各国中央銀行の利上げや保有資産圧縮などの金融引き締めを後ろ倒しする可能性があります。
今後は原油や物価の動向を予測するうえで、各国の環境規制や自動車メーカーの対応も注視していく必要があります。
各国の環境規制と自動車メーカーの対応を下表にまとめましたので参考にしてください。また、エコカーの分類と名称は下表の通りとなります。
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/d/0/-/img_d0b7e1f096256a829cd8cf88672b584712674.gif)
各国の環境規制と自動車メーカーの対応
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/1/1/-/img_113d334368d29b2d56698db37428dba323608.gif)
2040年を待たずに、英国政府は販売禁止に向けた経過措置も決めるようです。汚染の深刻なエリアへのディーゼル車の乗り入れに課金するほか、改善が見られない場合はディーゼル車の廃車なども検討するとのことです。各自動車メーカーも2040年を待たずに前倒しで対応せざるを得なくなってきます。上表の自動車メーカーの対応スケジュールも前倒しで進行してくることが予想されます。また、消費者もガソリン・ディーゼル車の販売禁止をにらんで前倒しの消費行動を取ってくることが予想されます。
先週発表された7月の米国の雇用統計は、強めの数字だったことからドル高となり、ドル円は一時111円台を付けました。しかし、ここからの伸びは鈍く、110円台後半でその週を終えました。その後はこう着状態が続いています。新規雇用者数は20万人を超え、失業率も低下しましたが、時間当たり賃金が前月比では伸びましたが、前年比では横ばいとなったことから物価を力強く押し上げるという印象にまでは至らなかったようです。
また、雇用統計の前に発表された6月のPCE(個人消費支出)物価指数は、前年比1.4%上昇にとどまり、伸び率は昨年9月以来、9カ月ぶりの低い水準となりました。
FRB(連邦準備制度理事会)が注目するPCE物価指数の伸び率は、2月の2.2%をピークに直近は4カ月連続で鈍化。FRBが目標とする2%がやや遠のいている状況です。賃金やPCE物価指数、これらの物価状況がドル高の勢いを抑制していることが推測されます。
物価は原油価格に左右されやすいことから、先ほどの「ガソリン車販売禁止」のニュースの進展具合によっては、原油価格を動かし、物価が左右されるかもしれません。
「ガソリン車販売禁止」のニュースは、ターゲットとなる2040年までまだ23年あり、「かなり先の話だから原油価格には影響しないのではないか」、それとも「消費者はかしこく行動し、今後の買い替えは電気自動車人気が高まり、かなり前倒しでEVシフトが進み、原油価格に影響してくるのではないか」などといろいろな見方ができます。
調査会社によると、2017年のEVの世界販売は68万台で、8年後の2025年には370万台と5倍になる予測をしています。もし、これ以上のペースでEVシフトが進むのであれば、ひょっとしたら毎月の電気自動車の販売台数によって相場が動く時代がやってくるかもしれません。電気自動車の販売が予想を超えたことによって、原油が下がり、物価上昇圧力が下がることから、利上げ観測が後退。その結果ドル安の動きとなるような世界が、すぐそこにやってくるかもしれません。
(ハッサク)
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