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米財務省「為替報告書」

トウシル / 2017年4月19日 0時0分

米財務省「為替報告書」

米財務省「為替報告書」

4月14日、米財務省は半年に一度作成している「為替報告書」を議会に提出し、その内容を公表しました。このコラムでも何回か触れている「為替報告書」ですが、今回の報告書はトランプ政権下での初めての報告書であり、重要な意味合いを持っているため改めて触れてみたいと思います。

まず、おさらいですが「為替報告書」とは、

  • (1)米財務省が半期に一度(4月と10月中旬)、主な貿易相手国・地域の為替政策を分析・評価し、議会に提出している報告書のこと( “Semiannual Report on International Economic and Exchange Rate Policies”)。
  • (2)対米輸出を増やすために貿易相手国が為替介入などで通貨安誘導を行った場合は「為替操作国」として議会に報告し、制裁を発動。
  • (3)その前段階として、2016年4月に「監視リスト」を設け、すぐには制裁するほどではないにしても貿易相手国の為替政策を牽制できるようにした。「監視リスト」の対象国として認定される条件は、下記3条件のうち2項目に該当する場合。

    「為替監視国」の認定条件

    • 対米貿易黒字が200億ドル超
    • 経常黒字がGDPの3%超
    • 為替介入による外貨購入額がGDPの2%超

以上となります。そして今回公表された「為替報告書」では、トランプ大統領が選挙中に公約していた中国を「為替操作国」として認定することを見送りました。また監視対象国は半年前と同じ6か国・地域に据え置きました。6か国・地域とは、日本、中国、韓国、台湾、ドイツ、スイス。しかし、実は中国は先程の3条件のうち、ひとつしか該当していません。3条件を日本と比較してみますと、

監視リストの基準と日本・中国の状況

監視対象条件の変更

このように中国は監視リストの基準3条件のうち、ひとつしか該当していないため、オバマ政権下で設定された基準には当てはまらないはずですが、トランプ政権下では監視リストに残る結果となりました。トランプ政権下の為替報告書では、中国を監視リストに残すため基準を変更したようです。「米国の貿易赤字に占める割合が多い国は、為替介入の有無にかかわらず監視対処国」という新基準を設定しました。基準を変更することによって中国を「為替操作国」に指定することは見送りましたが、基準の変更によって監視リストには残すことにしたようです。対北朝鮮で協力を得るため強硬路線を避けたようですが、トランプ政権下では為替も政治の駆け引きの道具になったようです。

中国についての為替報告では、監視対象条件の変更によって監視リストに残すと同時に元売り介入についても牽制しています。中国は2015年8月から2017年2月までに8,000億ドル(約87兆円)の外貨を売ったと試算し、これら最近の中国の為替介入は、「人民元の急速な下落を食い止めるため」と分析し、人民元安を狙った介入ではないとの認識を示しています。ただ、中国に対する姿勢を変えたわけではなく、中国が10年にわたって大規模な元売り介入によって通貨安誘導を行ったことは、「世界の貿易システムをゆがめ、米国の労働者と企業を苦しめた」と強く批判しています。将来、元高になった時には元高を容認し、元売り介入をせず市場に委ねるよう釘を刺しています。

日本についての為替報告

日本についての為替報告では、①対米貿易黒字は年690億ドル、②経常黒字はGDP比3.7%であるとして、監視対象国に該当するとしました。③の為替介入については「日本が5年以上も為替市場に介入していない」ことを認めながらも、「介入は事前に協議したうえで、非常に例外的な場合に限るべきだ」と日本を牽制しています。そして非常に重要なことを指摘しています。現状のドル円水準について、「円が過大評価されている証拠はほとんどない」と指摘し、過度な円高ではないとの見方を示しました。更に、実質実効レートは「20年間の平均に比べて20%弱い水準にある」とも指摘し、円になお上昇余地がある(円高余地)との見方を示しています。

具体的な水準を示したのは異例なことかもしれません、トランプ大統領の「ドルは強すぎる」発言よりもインパクトがある発言かもしれません。為替報告では実質実効レートで20%弱い水準とのことですが、名目レートにそのまま20%を適用すると、125円からだと100円になってしまいます。年初の118円台だとすると95円割れとなります。米国が望んでいる水準として肝に銘じておいた方がよさそうです。もし、新聞でこのことが大きな見出しで報道されていたら、今よりもっと円高を押し進めたかもしれない内容です。米国が円高圧力をかけて来る時の常とう手段として、米国政府の高官や、時には民間シンクタンクなどが円高への切り上げ率を指摘していたことが、過去の歴史の中で思い起こされます。

これから始まる米国との通商問題が長引いた時、あるいはもめた時は米国からの円高圧力を警戒しておく必要があります。今回の為替報告書は、米国が日本に対して通貨戦争の宣戦布告を発した打ち上げ花火かもしれません。

(ハッサク)

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