「金融老年学」ジェロントロジー をふまえた、人生100年時代の老後資産の管理のあり方(その2:受け取り編)
トウシル / 2019年3月12日 16時0分
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「金融老年学」ジェロントロジー をふまえた、人生100年時代の老後資産の管理のあり方(その2:受け取り編)
老齢期の運用管理の選択肢はどうあるべきか
前回は、老後資金準備について「100年人生」の課題を整理してみました。今回は受け取り時期の取り扱いについてポイントをみてみます。
現役時代になんとか資金準備をぬかりなく進行できたとしても、引退後の資産管理にも困難は待ち受けています。やはり「長すぎる老後」だからこそ生じる問題です。
仮に引退後の期間が30年あったとすれば、インフレ等の影響を避けることは難しいでしょう。ここ数十年間に引退した人は、低金利が続いていたとはいえインフレによる実質価値低下について心配することもない幸運な期間であったといえます。
しかしこれからの30年後、あなたがリタイアする時点から30年先までが低インフレ→デフレだと予想するのは、いささか楽観的に過ぎます。そうなると、インフレをカバーする程度の資産運用は意識しなければなりません。
とはいえ、30年先を視野に入れるのはあまりに長すぎる運用期間です。30年の資産管理を考えると、マーケット急落のリスクも避けられません。小規模な下落も10年に2度は起こるでしょうし、大規模な急落にも1度は巻き込まれる可能性もあります。そのため、適切なリスク管理が重要になります。
資産の時価が大幅に減少するリスクを勘案して、リスクをあまり取りたくない(高齢期は市場の回復をのんびり待てない可能性がある)ことを思うと、高い期待リターンを設定した運用方針もとりづらくなります。
仮に、資産の半分を投資継続し、半分を預貯金にするとします。これは投資資金分でインフレを少々上回る程度リスクを取り、全体としてインフレに追随させ、かつ資産急落時の影響を投資資金の半分に留める、というコントロールをしたことになります。
金融老年学(ジェロントロジー)の成果はどう織り込むか
また、徐々に自らの判断能力が低下することも受け入れなければなりません。
この手の話題は「金融老年学(ジェロントロジー )」として、しばしばメディアでも取り上げられるようになりました。
2018年2月に閣議決定された「高齢社会対策大綱」においても、「金融老年学(ファイナンシャル・ジェロントロジー)」※1)という言葉が出てきました。例えば、計画性を持って「健康寿命」と「金融資産の寿命」をバランスよくする運用管理や課題など、いくつかのテーマが議論されました。
また、加齢による認知能力の低下に対応して資産管理をどう行うかも課題とされています。基本的には適宜、安全資産へシフトしていくことがポイントとなりますが、信託あるいは投資一任などで運用を代行させていくことも考えられます。
さて、この様な条件をふまえつつ、今回は「受け取り方法」について選択肢を示してみましょう。
※1)データ出所:金融庁「平成30事務年度金融行政方針」などにおいて
「高齢社会における金融サービスのあり方の検討」を項目として掲げ、「フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)をふまえた投資家保護のあり方等について議論を行い、顧客の状況やニーズを起点としたビジネスモデルの転換や非金融分野との連携等、金融業界が取り組むべき方向性と顧客が留意すべき事項についての原則等をとりまとめる。」としています。
リタイア前後の+-5年のリスクコントロールが最初のカギ
まず、資産管理の具体的な論点を考えると、「リタイア前後5年」のリスク管理がポイントになります。というのは、リタイア直前の急落、リタイア直後の急落は、その後の数十年に大きく影響を及ぼすことが避けられないため、資産運用のソフトランディングを意識していくことが重要になるからです。
老後資産形成において、その取り崩しをスタートする直前にリーマン・ショック級の市場の急落に遭遇した場合、資金額が最も高まっている時期だけに、金額的インパクトが大きくなります。仮に3,000万円のリスク資産運用をしていて30%の下落が生じると、時価ベースで2,100万円まで急落します。
一時的なものとして考えても金額的には含み損が大きく、その回復にある程度の時間を要します。過去の例でいえば5年くらいは考慮しておく意識が欲しいところですが、高齢期にこれは、なかなか焦りを覚える年数です。
仮に65歳をリタイア年齢とした場合、老後資産形成した資金について60歳から65歳の時点でその一部を安全運用にシフト、かつ65歳から70歳までの時点でもう一段階シフトすることができれば、市場急落の影響をかなり回避することができます。あるいは、セカンドライフ前半戦は優先的に安全資産を取り崩し、リスク資産の保有分は回復を待つという戦略もとれることになります。
中長期に老後資産形成を行ってきた場合、マーケットの急騰・急落を何度か経験してきているはずですから、「これが自分にとって最後の上昇相場かも」ということを50歳代後半から60歳代にかけて理解することができると思います。
どの程度リスク資産ウエートを落とすべきか、その時点で考えていくことになります。個別に判断するべき問題ですので、一律に「投資比率半減→さらに半減」のように申し上げることはしませんが、年金生活スタート時点での投資割合をイメージし、そこに近づけていくように考えるといいでしょう。
ただし、セカンドライフのスタート=全額預貯金にする必要はありません。セカンドライフは長く、先に述べたとおり、ある程度リターンを得る要請もあるからです。また個人の運用能力も衰えていないでしょうから、判断能力があるなら投資比率を維持してもかまいません。
具体的な方法としては「単純に預金残高を増やす(売却)」方法と「リスクの低い商品に振り替える(株式投資から国内債券へ)」方法がありますが、どちらを選択するかは好みとして考えればよいでしょう。
iDeCoを参考に考える受け取り方法
さて、もうひとつのステップは「受け取り期間」です。ここではiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の受け取り方法を参考に、人生100年時代の受け取り戦略について考えてみます。
iDeCoの場合
◎受け取り開始年齢:60~70歳の任意の時点で選択可能
◎受け取り方法:一時金と年金受け取りを選択可能。組み合わせも可能
◎年金受け取りの場合、終身年金商品を購入するか、5~20年の有期年金設定
が法律上の設定です。これを踏まえて人生100年時代について考えると、2つほど受け取り方法のアイデアが浮かびます。
パターン1:実際のリタイア年齢まで受け取りを遅らせる
従来は、老後資産形成の多くが60歳受け取りを想定されてきました。定年退職が60歳で設定されている企業が多く、退職金を受け取りつつ60歳以降に働くというギャップが生じていることもその一因です。しかし、受け取った高額資産は管理面で危うさもあります。一気に取り崩ししなくてもすむよう、できれば受け取りは、実際のリタイア時点まで先送りしたほうがいいでしょう。
あなたがもし65歳で引退するなら65歳、67歳で引退するなら67歳を受け取り開始時点とするのです。これにより資金寿命を大きく後ろ倒しできることになります。
パターン2:セカンドライフの前半を厚く受け取る
次のアイデアは「あえてセカンドライフの前半にたくさんもらう」というものです。
年金の定期的な取り崩しを想定した場合、長期に渡ってまんべんなく受け取ることを想定しがちです。しかし、現実的には、基礎的な生活費を公的年金で賄う事ができる場合が多く(あるいは生活スタイルをリサイズすることが多い)、私的な老後資金は老後の趣味や娯楽、教養費などに用いられるケースが多々あります。
総務省の家計調査年報(2017年)をみても、高齢夫婦無職世帯の毎月の不足額5万4,519円ですが、教養娯楽費、交際費の合計額5万2,465円であり、ほぼ等しいことがわかります。
データ出所:総務省の家計調査年報P29 2017年度の表より
老後の基本的な支出、つまり食費や被服費・日用品費で、年金が不足するというよりは、人間らしく豊かな老後を送るための資金が老後に足りていないというわけです。それこそが自分のお金を取り崩すべきテーマです。
しかしながら、セカンドライフの自由度は加齢により徐々に制限されていくことになります。65歳と85歳では同じ様な条件で旅行に出かけられるわけではありません。
だとすれば老後資産をいくつかのブロックに分け、一部については、セカンドライフ前半で集中的に使っていくことができると、老後生活の前半は、経済的余裕を得て充実した生活をエンジョイし、その後体力的な余裕が減ってきたら、のんびりとしたセカンドライフへ移行するマネープランが成り立ちます。
例えば、65歳から15年間、年96万円を取り崩すと8万円/月の取り崩しを認めることになり、老後資金のうち1,440万円を「これは老後の前半で使ってよい額」と切り分け、安心して使ってかまわない予算に振り替えることができます。
仮に3,000万円をもって引退したとすると、1,560万円は手つかず75歳以降に残ります。これを4万円/月の取り崩しとすれば、約15年の生活資金として720万円をさらに使い、840万円は90歳以降に残るという計算です。
実際の計算においては、自分たちの資金額と自分たちの安心を考えて振り分ければいいでしょう。少なくとも無計画にお金を下ろして旅行に出かけることに比べて不安感は減少しますし、長い老後全体の満足度も高まるはずです。
究極には、公的年金を一銭も受け取らず、全額を取り崩しで賄い、70歳以上になって初めて増額された繰り下げ年金を受け取るという選択肢もあります。ただ、これは勇気のいる行動です。仮に22万円/月で暮らしても、わずか5年で1,320万円が消えていきます。22万円/月の夫婦の公的年金を70歳まで繰り下げしたら42%増額され終身でもらえるわけですが、実行はなかなか難しいでしょう。それが平均余命を考えれば分のいい賭けだよ、と論理的に言われてもです。
取り崩しはするが「セカンドライフ前半と後半で取り崩しペースを変える」そして「セカンドライフ前半を厚めに設定する」ところからスタートしてみてはいかがでしょうか。
いずれにせよ、長いセカンドライフを考えたとき“計画性が重要になる”というのは明らかです。何年か経過したあとに修正を施すとしても、無計画な70歳の軌道修正と、それなりの計画をもって過ごした70歳の軌道修正では後者のほうが修正は軽微ですむはずです。
今回のコラムはいつもより長めになりましたが、老後のお金の管理方法のヒントとして役立つと幸いです。
興味があれば、経済ジャーナリストの大江英樹氏、フィデリティ退職投資教育研究所の所長野尻哲史氏など、老後のマネープランについて書籍がいくつか発売されていますので、目を通してみるといいでしょう。
◆老後のマネープランについておすすめの書籍
・経済ジャーナリスト 大江英樹氏著
定年3.0 50代から考えたい「その後の50年」の
スマートな生き方・稼ぎ方
・フィデリティ退職投資教育研究所の所長 野尻哲史氏著
退職金は何もしないと消えていく
60歳から「経済的自由」を手にする投資勉強方法
(講談社+α新書)
(山崎 俊輔)
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