新社会人のための貴金属講座
トウシル / 2019年4月8日 13時41分
新社会人のための貴金属講座
2019年度がスタートしました。 進級、進学、入社、異動などにより、日本では、たくさんの人が新たなスタートを切り、これから起こることを想像し、心を踊らせる時期です。 このようなタイミングと、筆者が専門としている金や原油などのコモディティ(商品)分野に関連付け、今回は、人生の節目を彩り、司る、指輪のことに触れた上で、指輪に関わる貴金属について解説します。
指輪は、人生の節目を彩るもの
指輪は歴史的にも、贈ったり、貰ったり、飾ったり、誇示したりする、人生を彩り、節目を司る重要なアイテムです。人の想いが込められた、生活に身近なモノとも言えます。 特に新社会人の方々は、これから様々な人と出会い、様々な場面に遭遇し、そして考え、行動する、その一歩を踏み出したわけですが、きっとこれから人生の節目で、指輪が登場すると思われます。そしてある時、ふと、この指輪は何でできているのだろう? 金やプラチナの価値はいくらなのだろう? などと思うかもしれません。
想いが込められた身近な存在である指輪と深く関わる貴金属の事を知ることで、人生が味わい深いものになるのでは、と筆者は考えています。もし今、指輪を身につけている人であれば、改めて、その指輪を見つめ、考えてみると面白いと思います。
指輪は主に4つの貴金属でできている
金やプラチナ、銀が有名 指輪はなぜ、貴金属でできているのでしょうか?その理由は、希少性とその性質にあります。 金、銀、プラチナ、パラジウムなどの貴金属とよばれる金属は、銅やアルミニウムという、世界で一般的に流通し汎用性のある金属に比べて、はるかに生産量が少ないことがわかります。
図:貴金属と汎用性のある金属の生産量(2015年)
鉱山生産における技術革新が進んだ現代でも、貴金属が銅やアルミニウムに比べて希少性があることに変わりはありません。また、性質の点では、貴金属には酸やアルカリに強いものもあり、長期間、身に付けることはもちろん、時代を越えて後世に同じ形のまま受け継ぐことができます。そしてある程度加工しやすく、貴金属同士を混ぜ合わせることで強度を増すこともできます。
何より、有史以来、人類を魅了してやまないその輝きがあることが、貴金属の大きな特徴です。他の金属に比べて数量の面で希少で魅力的な輝きを放ち、身に付けることで権力を誇示したり、モチベーションを高めたりすることができる物質、それが貴金属であった、ということです。
貴金属はこれまで、数千年にわたり指輪などの宝飾品に使われ続けてきましたが、これからもこれまで同様、宝飾品に使われ続けると考えられます。
大きさが同じ指輪でも重さが変わる場合も
金属の純度と割がねに注目 以下の指輪に注目してみましょう。
この指輪の内側には“Pt900”という刻印があります。 この“Pt900”という刻印は、この指輪の素材がプラチナ主体であり、プラチナの純度(含有率)が1,000分の900であることを示しています。つまり、この指輪は純度90%のプラチナの指輪だということです。
プラチナ以外に、指輪に用いられる主要な貴金属に金(ゴールド)と銀があります。それらを主体とした指輪における純度の違いは以下のとおりです。
図:指輪における貴金属の純度と割金(わりがね)度 (一例)
また、以下は、プラチナと金、銀における、純度・割がね度の高低と指輪の性質を示したものです。
図:プラチナ・金・銀における、純度・割がね度の高低と指輪の性質(一例)
主体となる貴金属に割金(わりがね)を施すと、指輪の性質が変わることがわかります。割金によって、硬さを増しつつ、色味を変化させることができるため、多彩な趣味・趣向に合わせた指輪を作ることができます。以下は、指輪における主体となる貴金属と割金の内訳です。
図:指輪における主体となる貴金属と割金の内訳 (一例)
金、銀、プラチナという主体となる貴金属に、パラジウムが割金として用いられ、さまざまな種類の指輪ができていることがわかります。
各貴金属の価値の変化が、各指輪の物質的価値を変える
ここまで、金、銀、プラチナ、パラジウムが、指輪にどのように用いられているのかを見てきました。ここからは、Pt900、18Kなどの指輪の物質的価値に直接的に関わる重さについて述べます。あくまでもここでは、指輪1個あたりに含まれる各種貴金属の価格をもとにした物質的価値に着目しており、デザイン費や加工費、そのた宣伝広告費、人件費などを含む指輪の小売価格とは異なります。
まずは密度を確認します。貴金属の重さは、水を1として比較する比重(ひじゅう)が用いられますが、ここでは学生時代に理科や数学の時間に習得した密度で表記します。
図:金・銀・プラチナ・パラジウムの密度 (摂氏20度の環境にて)
これらをもとに、各種指輪の重さを計算します。体積を一定にするため、先述の写真の指輪を基準にします。重さと密度、体積比から、当該指輪1個の体積は0.13653874 立方センチメートルと推計しました。
図:各種指輪の重さ
密度が高いプラチナが多く含まれれば含まれる程、指輪1個の重さが重くなります。逆に銀が含まれば含まれる程、軽くなります。
以下は、これらの重さをもとに計算した各種指輪1個あたりの物質的価値です。
図:各種指輪の物質的価値
金が多く含まれる指輪ほど1個あたりの物質的価値が高いこと、金24KとPt1000 では金24Kの方が高いこと、パラジウムを含むPt900と含まないPt1000、パラジウムを含むホワイトゴールド18Kと含まない金24K、それぞれの物質的価値に大きな差がないことなどが分かります。(2019年3月時点)
各貴金属の値動きの傾向と物質的価値の変化
各種指輪の物質的価値(筆者推計 小売価格ではない)を、過去の貴金属市場の価格変動と合わせて考えてみます。 まずは、各種貴金属の価格の推移を確認します。
図:金、銀、プラチナ、パラジウムの価格の推移(先物 月間平均)
2000年代前半、プラチナが金よりもパラジウムよりも高い状態にありました。その後、2015年ごろからプラチナの下落、金の高止まり、パラジウムの上昇が目立ち、2019年3月には先物価格の平均で、パラジウム > 金 > プラチナ という関係になりました。
以下は上述した、金24KとPt1000の物質的価値の推移です。
図:指輪(金24KとPt1000)の物質的価値の推移
1999年以降2012年ごろまで、Pt1000の物質的価値は金24Kよりも高い状態が続いていました。ほぼ同じになった後、再びPt1000が高くなりましたが、2015年ごろから、明確にPt1000が金24Kの価値を下回るようになりました。これはまさに貴金属価格の動きを映しています。
また、以下はPt1000とPt900、金24Kとホワイトゴールド18K、グリーンゴールド18Kの物質的価値の推移です。
図:指輪(Pt1000とPt900)の物質的価値の推移
図:指輪(金24Kとホワイトゴールド18K、グリーンゴールド18K)の物質的価値の推移
パラジウムを含むPt900がプラチナのみのPt1000の価格に接近しています。また、同じくパラジウムを含むホワイトゴールド18Kが徐々に金24Kに接近しています。あくまで“割がね”であるため含有量は少ないものの、パラジウム価格が上昇していることが一因にあげられます。
4つの各貴金属の値動き要因
4つの貴金属の値動きが、各種指輪の物質的価値に影響していることを確認しました。その4つの貴金属の値動きの要因について、4つの貴金属全体と貴金属個別、それぞれを以下のように考えています。
図:貴金属価格の変動要因(全体)
各種貴金属の価格は、世界景気や米国の通貨ドル、テロや戦争などの有事、そして各種貴金属の生産国の動向、投機筋など、さまざまな要因が絡み合って決まります。
金価格が動いた時、世界で最も大きい先物取引所であるCME(シカゴマーカンタイル取引所)での出来高(取引が行われた数量 人気のバロメーター)が示すとおり、金の取引が最も多いため、金の値動きに他の貴金属の値動きがつられることがあります。
図:4つの貴金属の米国先物市場における出来高(2018年)
また、世界景気の動向に変化が生じた時、工業用の用途の割合が大きいパラジウムやプラチナ、銀の値動きに変化が生じることがあります。
図:4つの貴金属の消費内訳 (2017年)
また値動きの要因を4つの貴金属個別でみると、以下のようになります。
図:貴金属価格の変動要因(部分)
個別にそれぞれが変動要因を抱えています。このため、その時、全体的な流れの中で価格が決まっているのか、それとも個別の要因で動いているのかを考える必要があります。特に金においては1980年前後のような「有事=金価格上昇」のような単純な構造ではなくなってきている点に留意が必要です。
宝飾品の代表格である指輪の素材は、歴史的に、世界中で希少性のある金属として用いられてきた、金、銀、プラチナ、パラジウムなどの貴金属です。今後、指輪を購入したり、誰かに贈ったりする節目を迎えた時、その純度(含有量)とその時のそれらの貴金属の価格をチェックしてみると面白いと思います。
数年、数十年経つうちに、その指輪の物質的価値は貴金属価格とともに、変化していると思います。その変化を楽しむことができることもまた、指輪を身に付けることのメリットであると筆者は思います。
(吉田 哲)
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