変化の可能性に期待!新元号「令和」の時代を考える
トウシル / 2019年4月9日 9時13分
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変化の可能性に期待!新元号「令和」の時代を考える
新元号「令和」のあれこれ
4月1日に新元号が発表され、5月1日にはいよいよ新天皇が即位され新しい元号の時代が始まる。これに因んで「新しい時代を論じる原稿を書いてください」とトウシル編集部からリクエストされた。
元号の変更は年の呼び名を変えるだけであり、経済的に「これで何が変わるわけではない」と言いたいところなのだが、それでは身も蓋もない。新元号「令和」に因んで思うところを記してみたい。
「令和」の典拠は我が国の国書とも言うべき万葉集であり、これまで漢籍が典拠とされてきた元号にあってはじめて国書が採用されたところに元号制定上の大きな特色がある。長い歴史と独自の文化を持つ日本の元号なので、国書が典拠であることに違和感はない。寧ろこれまで漢籍ばかりが典拠であったことが意外だったというべきだろう。
「令和」という新元号はすっきりと発音しやすい。老若を問わず、国民にはおおむね好評のようだ。しかし、一方で、「いい感じ」ばかりでもない。
新元号の発表を見て筆者が最初に思い浮かべたのは『論語』の「巧言令色、鮮いかな仁」(読み下しは諸橋轍次『中国古典名言辞典』による)だった。「言葉が巧みで容姿がきれいな人は、人間の根本である仁の心に乏しいものだ」、という意味だ。ビジネスや投資の世界なら、プレゼンにばかり気を遣う社長は、しばしば心がこもっていないといったケースに対する戒めだ。決算説明会や株主総会に注目する投資家は、頭の片隅にとどめておくといい。
「令」という文字自体には悪い意味はないが、「令息」、「令嬢」、「令室」、など少しよそよそしい感じがする丁寧語に用いられている。
「令和」を「和」(=一致)を讃えるようなニュアンスとして受け取ると、日本人が新時代に求めたい活動とは少々異なるような気がする。
新時代にあって、日本の経済と社会を発展させ同時に面白くするものは、「横並び」や「一致団結」ではなく、個性的な試みの突出ではないだろうかと思うのだ。
現在、世界的に大きな影響力を持つ情報テクノロジー企業の多くは、物事を突き詰める、少数の独創的で徹底的な注力の下に生まれている。相対的に優秀な学生が、余裕を持って(大学で楽をして)就職偏差値の高い大学を卒業し、まずまず条件の良い企業や官庁への就職を捨ててまで、起業のようなギャンブルに賭けることは合理的ではない(経済学的には起業に賭ける「機会費用」が高いと解釈できる)ような状況が広範に打破されるのでなければ、日本発で世界を変えるようなビジネスは生まれにくいのではないだろうか。
平成における日本経済低迷の原因を探ると、技術と教育に対する「投資」の停滞があったように思われる。大手電機メーカーや銀行などが典型的だが、日本における大手各社は、国内での「大手」の地位に安住して突出した投資を行わずに、世界的な競争で相対的な順位を落としてしまった。
また、教育にあっても、日本の大学は国際評価にあって相対的な順位を落としてきた。特に「ゆとり教育」と称された、教育水準の半ば自滅的な破壊行為は、日本の教育と人材のレベルを大きく損なった。
加えて、公的な教育・研究予算が伸びなかった。平成時代の、日本人のノーベル賞受賞者の多くは、昭和時代の研究蓄積の延長線上に業績を持っていた方々だ。人材こそが資源の日本にあって、公的教育支出の対GDP(国内総生産)比が国際的に大きく劣後しており、これは日本の将来に対する希望を削ぐ残念な状況だ。
もちろん、個々の個人、学校、研究機関、企業などが、独自に有望な個人に対する集中的な教育投資を行う事は可能なことでもあり結構なことだとも思うが、教育・研究のような分野では競争がお互いを高め合う外部経済効果があるので、日本社会全般の教育投資が低調なのは不満だ。
こと経済に関しては、次の時代は平成の轍を踏みたくない。
ところで、「令和」の「令」の字の音は「冷気」の「冷」と共通でもあって、やや冷たい印象を受ける。
また、ゲーム理論の世界では、勝つプレーヤーと負けるプレーヤーの利得の合計がゼロになる「零(ゼロ)和ゲーム」という概念が有名だ。金融におけるゼロ和ゲームとは、利益を取り合うだけで合計が増えないというのは「投機」である。しかし、生産活動に資本を提供し、参加者の合計の富を増やすことが可能な「投資」の世界が活発である方が、個人の資産形成にも社会の生産活動にも好ましい。
「令和」という新元号に対して、いくつかネガティブな印象を述べた。「せっかくのお祝いムードに水を差すのはけしからん」と言いたくなる方がいらっしゃるかも知れないが、それこそが過剰な「同調圧力」というものだろう。
大勢に従うのが当然であり好ましいのだと強く感じる「同調好き」は、少なくとも投資には向かないパーソナリティだ。特に投資にあっては、物の見方は多様である方がいい。
「令和」に関して、ポジティブな印象を一つ述べておこう。政府に批判的な人々の声に「和(=同調)を命令する」意味に取れるから「令和」は良くない、との声を耳にするのだが、ここでは、「和」を「平和」の意味に限って取ってポジティブに受け止めたい。
振り返るに、平成はバブルの始末に追われ、経済的に低迷し、大きな自然災害もあった困難な時代だったが、日本が直接かかわる戦争がなかった点は大いに評価できる。この意味では、平成は昭和よりもはるかに良い時代だった。徹底した平和主義者である今上天皇陛下の平和への祈りが通じた時代だったと考えていいように思う。
「平和」は必ず守るべし、という意味を確認しながら使うなら、「令和」という元号もなかなかいいのではないかと筆者は考えている。
令和の日本株式
平成に入ったのは1989年であり、株式市場としてはバブルの総仕上げの年だった。
当時、筆者は信託銀行に勤務していて、前年、ある経済誌に日本の株価は高過ぎるという趣旨の論考を書いていたので、さらに上昇する株価を眺めて「おかしい」と思っていた。翌1990年になると株価が急落をはじめて、この時、「やっと正しい動きが始まった」と爽快な気分になったが、自分は年金運用のファンドマネージャーをしていたので担当ファンドの価値が毎日数億円単位で失われていくのを眺めていた(対ベンチマークで評価されるので平気なはずなのだが、気持ちのいいものではない)。
平成の大半の期間にあって、日本経済はバブルの始末に追われたことは2018年末にトウシルの特集で書いた通りだったが、「令和」の日本株式はどのような展開を見せるのだろうか。
5月1日の改元までの間に、経済と市場に劇的な変化がないと仮定すると、新元号令和のスタート時点の日本株式は、主に以下の4つの点で平成元年の日本株式の状況と異なる。
(1)平成元年の日本株式はPER(株価収益率)で50倍を超えることもある明白な「バブル」だったが、令和元年の日本株式はPERで14倍、PBR(株価純資産倍率)で1.2倍、配当利回りで2.3%程度(いずれも加重平均。4月5日終値ベース)と「普通」のレベルだ。
(2)平成元年当時は日本の株式市場は外国市場の影響を受けながらも独自の価格形成が行われていたが、令和元年にあっては外国株価(特に米国)と為替レートの影響を強く受けるようになっている。
(3)令和元年時点の経済成長率は平成元年時点を大きく下回る。
(4)平成元年の金融政策は引き締めに向かっていて、令和元年はもうしばらく金融緩和が続くと予想される。
上記4点について、筆者は以下のように考える。 まず、(1)株価形成が「普通」になっていることは好材料だ。
次に、(2)米国市場の影響を強く受ける半ば新興国的な株価形成になっていることは、短期的な株価の動きに関して事実であり当面変化するとも思えないが、株価は長期的には日本企業の株主価値を反映して、上下いずれにせよ米国株とのズレが発生するはずだ。
(3)経済成長率は現在の株価におおむね反映されているのではないか。また、(4)金融政策は向こう数年株価に逆行する「引き締め」には転じないだろう。
こうした状況を踏まえて、令和時代の日本株を考えると、短期的には米国の経済と株価次第だと言わざるを得ない。
他方、やや長期的には、利益の大半を配当ないし自社株買いに回す株主優先を、可能な極限まで既に進めてしまっている米国企業の株価よりも、いわゆる株主還元に余裕があって株主指向をさらに進める「余地」がある分だけ、むしろ日本の株価には上昇の余地があるのではないかと筆者は考えている。後者は、株主から見ると、企業のガバナンス改善によるリターン、言わば「ガバナンス・リターン」だが、このリターンが将来の日本株には追加的に期待できるということだ。
現時点では、いささか逆張り的に聞こえるかも知れないが、令和の時代の日本株式に対する筆者の見通しはおおむねポジティブだ。
高齢化、少子化、人手不足、情報産業での立ち後れなど、現状では日本の経済にもパッとした話題がないが、今後、情報化投資と省力化投資が有望であることがはっきりしているので、近い将来に意外な経済成長のポテンシャルが顕在化するのではないだろうか。「儲かる方に動く」という経済主体のインセンティブは案外信用できる。
投資に大事な「変化の可能性」という点で見ると、令和は案外明るい時代であるように思われる。元号が変わったくらいで何かが変わると思うのは合理的ではないかも知れないが、(元号に関係なく)今後の時代の変化は希望が持てるものなのではないだろうか。
(山崎 元)
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