ウクライナの干ばつが、アラブに飛び火!なぜ?
トウシル / 2019年5月17日 5時0分
ウクライナの干ばつが、アラブに飛び火!なぜ?
連載1~3回まで、金の高騰について話をしました。今回は趣を変えて穀物です。穀物相場でもしばしば目立った高騰劇が見られます。世界的な人口増加や経済発展が高騰の要因になることもありますが、穀物は植物由来の資源であるため、天候不順による供給減少も高騰の原因になります。
2010年にウクライナで大干ばつ。小麦生産量が激減!
2010年6月下旬から、ロシア西部・ウクライナ近辺で大規模な干ばつが発生しました。この出来事前後の小麦価格を見てみましょう。世界の小麦価格の指標は、米国のシカゴ市場の先物価格です。
図:小麦先物 (期近、月足、終値)
この大干ばつが小麦価格の高騰の要因になったのは、干ばつが起きた地域が世界屈指の大規模な穀倉地帯であるためです。以下は、小麦の輸出国のランキングです。
※消費国ではなく輸出国のランキングであるため、自国の消費分を自国で生産する中国やインドは含まれていません。
図:小麦の輸出国 (2017年)
ランキングでは、1位がロシア、5位にウクライナが入っています。この2カ国を合わせれば、世界の輸出量の3割を超えます。そして、この干ばつをきっかけに、ロシアとウクライナがとったある行動が小麦価格高騰に拍車をかけました。
ロシア、ウクライナが自国の消費を優先、小麦を“禁輸”
小麦には、春に種をまいて秋ごろに収穫をする春小麦と、冬に種をまき畑で越年させて翌年夏ごろから収穫をする冬小麦があります。ロシア、ウクライナはともに、この春小麦・冬小麦の両方を生産していますが、2010年6月から発生した干ばつは、春・冬小麦の生育に悪影響を及ぼしました。
干ばつで生産量が大幅に減少することが決定的となったため、ロシアは“禁輸”を決めました。この場合の禁輸とは、ロシアが、自国の消費をまかなうことを優先し、他国へ小麦を輸出しない措置です。ウクライナは、禁止ではなく上限を定めた“輸出制限”を行いました。ロシアの禁輸は2010年8月から、ウクライナの輸出制限は2010年10月から、干ばつの影響がなくなりその年の収穫量が平年通りになることが見込まれた翌2011年の6月まで実施されました。
世界の小麦輸出量の3割を超える両国が輸出に制限をかけたことで、世界的に「小麦不足」の懸念が発生。小麦価格の上昇に拍車をかけたのです。
小麦高騰で北アフリカ・中東の貧困層が困窮、アラブの民主化が進む
小麦価格の上昇は、2011年初頭に北アフリカ・中東地域で起きた、民主化運動の波「アラブの春」が拡大する一因となったと言われています。「アラブの春」で政権が変わった国々の小麦輸入依存度(輸入量÷消費量)は、エジプト58.0%、イエメン92.5%、リビア100%、チュニジア52.8%と、いずれも高水準です。(輸入量の順 2009年時点)
乾燥して水資源に制約があるため、小麦を輸入に頼っているこれらの国々では、干ばつで世界的な小麦価格が高騰し、主食のパンの原材料価格が上昇し、貧困層がさらに困窮。そしてその困窮打開の矛先が当時の政権に向き、当該地域の国々で政権打倒のムードが強まったと考えられます。
2010年の小麦価格の急騰を「風が吹けば、桶屋が儲かる」に当てはめれば、「ウクライナで干ばつが起こったら、“アラブの春”が拡大した」ということなります。
冒頭で述べたとおり、穀物価格は消費拡大でも高騰することがありますが、今回紹介したような干ばつなどの天候不順によって生産が減少したことがきっかけで高騰することもあります。また、その高騰が、小麦を輸入に頼る国の政治を変える一因になる場合があることにも留意が必要です。
(吉田 哲)
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