円高の行方は?注目のチャートは米中株式とNY原油先物
トウシル / 2019年5月9日 17時14分
円高の行方は?注目のチャートは米中株式とNY原油先物
トランプ大統領の貿易戦争とプラザ合意2.0
トランプ米大統領は2019年5月5日、ツイッターで、「両国の貿易交渉は続いているが、遅すぎる」、「10日の金曜日に、10%の関税は25%に引き上げられる」として、制裁を強化する方針に言及した。
中国からの輸入品2,000億ドル(約22兆2,200億円)に対する関税率を現行の10%から25%へ引き上げ、またその他3,250億ドル相当の中国製品に関しても近く関税賦課の対象にすると述べ、これまで米中の貿易問題については近く「合意」に達するとの総楽観で見ていた市場を驚かせた。
いずれにせよ、市場の楽観的な見方に対して、中国との貿易交渉がうまくいっていないことをトランプ大統領が自ら暴露してしまったわけだ。
以下のチャートは、トランプ大統領の米中貿易戦争に対するアナウンスと米中の株価の推移である。
トランプ大統領の米中貿易戦争に対するアナウンスと米国の株価
トランプ大統領の米中貿易戦争に対するアナウンスと中国の株価
トランプ大統領のアナウンスは明らかに株価に影響を与えていることが分かるだろう。トランプ大統領のツイートが彼一流のブラフ(脅し)なのか本気なのかはまだ不明だが、本気ならば、米中関係の悪化、世界貿易の停滞に発展する。
「なぜ、トランプ大統領は株が下がるようなことをするのか?」と訝る向きも多いだろう。しかし、トランプ大統領は米中貿易交渉の決裂で株価が下がれば、それを口実にパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長に利下げやQE(量的緩和)の再開を要求し、大統領選に臨むだろう。ただし、それをやれば、次の金融危機でとんでもない災厄をもたらすだろう。
米中貿易交渉が本当に決裂したのか否かは、今週の動きを見ていれば分かるだろう。
【一部のウォール街ウオッチャーは、米国の貿易赤字縮小に向けて、トランプ大統領自身が持続的なドル安誘導キャンペーンを開始する可能性も否定できないと考えている。IIF(国際金融協会)の前専務理事で、米財務省高官として1985年の「プラザ合意」実現に動いたチャールズ・ダラーラ氏は「通商協議が通貨の問題を含む傾向が強まるだろう。それは避けられない」と語った。1985年当時のような保護貿易主義および介入主義の色彩の強い政策への転換は、1日5兆1,000億ドル(約563兆円)の資金が動く外国為替市場を揺さぶるだけでなく、国際準備通貨としてのドルの地位を損ない、米国資産への需要を減退させる恐れがある。JPモルガン・チェースの米国担当チーフエコノミストのマイケル・フェロリ氏は今月のリポートで、トランプ政権がドル押し下げのために為替市場に介入する可能性は否定できないとの見解を示し、ドイツ銀行とオッペンハイマーファンズ(米国の名門投資銀行)も、ドル売り介入はもはや現実離れした考えではないと主張し、フェロリ氏に同調した】(2018年8月23日 ブルームバーグ『米国が「為替操作」する日-通貨の議論不可避とプラザ合意の立役者』)
トランプ大統領は関税で貿易赤字が減らなければ、2期目には通貨戦争に打って出る腹積もりだろう。第二のプラザ合意的なドルの切り下げである。米国の赤字を半分に減らすには、ドルの価値を半分にすればいい。ライトハイザー米通商代表部代表が80年代にも担当した貿易戦争の結末はプラザ合意であり、結局、ドル(自国通貨)の切り下げであった。
円高の行方と注目のチャート
ドル/円は基本的に、戻り売り姿勢でトレードしているが、108円49銭や107円66銭を下にブレイクするまでは、レンジ色の色濃い相場である。順張りも逆張りもしっかりストップロスを置いて相場に臨みたい。
ドル/円(日足) フラクタル・ハイロー 目立った高値と安値
ドル/円(日足)のトレンドラインとフィボナッチのリトレースメント
ドル/円(週足)と波動カウント
ドル/円(日足) 順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
ドル/円(日足) 逆張りのATRチャネルモデル
ドル/円(日足)満月・新月・月食・日食・MOON DECLINATIONチャート
最近は新月での転換が多い
ドル/円がどこまで下げるかは、米中の株価次第だ。ここからの日本株の売買に関しては、米中の株式市場と、日米の株式市場に1日先行していると言われているNY原油先物市場をよくウォッチしておく必要があるだろう。
S&P500(日足)とダイアゴナル・トライアングル
上海総合指数(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
NY原油先物(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
原油先物はNYダウや日経平均に対して1日先行のチャートとなっている
流行のMMT(現代貨幣理論)の概要と注意点
MMT(現代貨幣理論)議論が騒がしい。MMTはオカシオ・コルテス米下院議員が流行らせた、赤字垂れ流しを肯定する経済理論である。
※MMT:「財政は赤字が正常で黒字のほうが異常、むしろ、どんどん財政拡大すべき」という、これまでの常識を覆すような理論である。この理論にアメリカ民主党29歳の新星で、将来の女性初大統領ともいわれているオカシオ・コルテス議員が支持を表明したことで、世論を喚起する大きな話題となっている。
先進国はデフレの環境にある。日本を見れば分かるように、赤字を垂れ流してもインフレにならないから、インフレになるまではもっと国債が発行できるし、ハイパーインフレになどならないというのがMMT論者の主張だ。国債を発行すれば負債は増えるが、資産も増えるといういわゆる「両建て経済」の理論で、これをやると歯止めがなくなり、政治家や政商の利権や私腹肥やしに悪用される可能性が高いだろう。そして、格差の拡大が縮小するどころか、さらに拡大するといった副作用が出てくるだろう。
オカシオ・コルテス議員は正義感からMMTを主張し、環境問題などに取り組む姿勢を示しているが、その理論的支柱は米国の社会主義者サンダース氏とその経済顧問のNY州立大学のステファニー・ケルトン教授である。
オカシオ・コルテス議員は財政出動が重要で、QEでは賃金は上がらないと主張している。しかし、これは机上の空論だろう。オカシオ・コルテス議員は日本が借金をどれだけ増やしても財政破綻していないから、財政赤字を気にする必要はないという。
しかし、日本は30年間巨額の財政出動をおこない、MMTもどきの政策を続けてきたが、全然景気は良くなっていないではないか? それに日本は米国と違って債権国であり、債務国の米国がこのような政策を採用すれば、ドルの急落や金利の急騰を招きかねない。
日経平均(月足)
日経平均株価と日本の賃金を見ればMMTの答えは出ている。中間層の没落だ。
債券王のジェフリー・ガンドラック氏は、「MMTに関してどう思うか?」という質問に対して以下のように答えている。
「すでにどんな考えも許容されるところにこの世の中は来ている。日本は負債をものすごく増やした。しかしその結末としては30年前の株式市場の最高時から30年たってもまだ半分しか回復していないということ以外何もない。ゼロ金利、国の負債の増加、経済的に成功していないという事実の間に何か相関があるのだろう。フェアで機会がある良い社会を作ろうというのがMMTであっても、実際には結果は逆となり、本当の問題を見過ごしているに過ぎない。」
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(石原 順)
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