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一回、整理してみよう!俯瞰すれば見えてくる、原油市場の本当の「今」

トウシル / 2019年5月27日 14時15分

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一回、整理してみよう!俯瞰すれば見えてくる、原油市場の本当の「今」

 5月22日(水)、23日(木)と、原油相場は大きく下落しました。米中貿易戦争の激化による消費減少懸念、米国の原油在庫の増加などがその要因と言われています。

 しかし、中東情勢の悪化、米国のイラン制裁による主要産油国から供給量の減少、OPECプラス(OPEC:石油輸出国機構と、非加盟国合計24カ国で構成される組織)の減産継続への期待の高まりなど、上昇要因は複数存在します。

 目立つ、分かりやすい材料だけに目を奪われず、さまざまな材料を俯瞰することが、現状をできるだけ正しく認識し、中立的に先行きを考えるために必要なことだと考えます。

 今回は、原油市場における全貌を俯瞰し、材料同士のつながりに着目します。

図:*WTI(West Texas Intermediate)の動向(日足、期近) 

単位:ドル/バレル
*WTI=West Texas Intermediate。米国南部で産出される軽質で低硫黄な原油の総称
出所:CME(シカゴ・カーマンタイル取引所)のデータをもとに筆者作成

イランを含んだ中東情勢は材料の1つに過ぎない

 中東地域の原油生産シェアが高いため、この地域でリスクが高まると、世界的に原油の供給が減少する懸念が強まり、原油相場が上昇することがあります。

 例えば、イランとオマーン(飛び地)の間にあり、ペルシャ湾とインド洋をつなぐ、ホルムズ海峡という海峡があります。世界全体の原油輸出量のうち、およそ35%の原油が運ばれる(2017年時点 筆者推計)、世界屈指の海洋交通の要衝です。中東の大国イランをめぐる緊張が高まった際、イランは封鎖をほのめかします。

図:ホルムズ海峡を通る原油の国別輸出シェア

出所:UNCTAD(国連貿易開発会議)のデータより筆者推定

 イランはホルムズ海峡封鎖という外交カードをちらつかせている訳ですが、そのホルムズ海峡を経由して輸出されるのは、上図のとおり、サウジアラビア、イラク、クウェート、バーレーン、カタール、UAE、そしてイランの原油です。

 仮に、機雷(タンカーなどの船舶が触れると爆発する洋上の地雷のようなもの)を設置するなどして、イランが“ホルムズ海峡封鎖”というカードを実際に切った場合、原油輸出額が全輸出額の50%を超えるイラン自身にもマイナスの影響が生じます。

 現在、米国による制裁でイラン産原油の世界的な不買運動が行われている中、イランは米国の制裁に屈することなく、原油を輸出し続ける姿勢を鮮明にしており、イラン自身、原油の輸出を削減する予定はないとしています。つまりホルムズ海峡を封鎖するつもりはないことを示唆しているわけです。

 中東情勢悪化を報じるニュースはインパクトが強く、そこに危機があることがはっきりと伝わってきます。特に、原油輸入において中東依存度が高い国では、中東情勢の悪化が報じられると、原油の供給が著しく減少して生活が脅かされるのではないか? という不安が高まりやすくなります。

 中東情勢悪化を報じるニュースは、インパクトの強さ、そこに危機があることの分かりやすさ、原油輸入国の不安を高める、などの特徴を併せ持っています。心理面に響きやすい材料だからこそ、中東情勢悪化は原油価格を上昇させる材料になりやすいと言えます。

 しかし、足元、原油相場は1バレル=60ドルを割り込むなど、上値の重い展開となっています。

 イランを含んだ中東情勢悪化→ホルムズ海峡封鎖→原油価格上昇、という連想だけでは、足元の原油相場を説明することはできません。分かりやすい材料だけに目を向けることなく、さまざまな材料に注目し、そして俯瞰することが重要です。

“トランプ米大統領”は、上昇、下落両方の材料の頂点。減産延長決定への下地作りも

 中東、米中、制裁、減産の4つの材料に、米国の石油産業を含め、それらの主体である“OPECプラス(石油輸出国機構)”と“トランプ米大統領”を軸に分けてみました。

図:足元の原油相場の材料(全体像)

出所:筆者作成

 重要キーワード“中東”については、足元の中東情勢悪化はもともと米国のイラン制裁に端を発している面が強いため、上図の「制裁」の配下に位置付けています。また、投機筋の動向は、原油相場の直接的な上昇、下落の要因ではなく、トレンドを増幅させる要因と考え、記入していません。

“OPECプラス”と“トランプ大統領”を軸として考えれば、おおむね現在の原油相場の材料は網羅できると考えています。

 貿易戦争をけしかけて米中という世界屈指の消費国に影響していること、米国という世界ナンバー1の原油生産国に直接的に影響していること、OPECプラスに対して“原油価格の上昇は増税”というスタンスで大衆を味方にけん制(影響)できることなどを考えれば、トランプ大統領が一歩、OPECプラスよりも原油相場への影響力という点でリードしていると言えます。

 中東情勢や米国の原油在庫など、個別具体的な材料の動向が短期的な値動きの材料になるものの、それらの上には好むと好まざるとに関わらず、トランプ大統領が存在している点に常に注意が必要です。

 そして、トランプ大統領を筆頭とした原油相場の各種材料が交ざりながら、図の下段に記したとおり、6月末で終了するOPECプラスの減産の7月以降について、2018年同様の“限定的な増産を行いながら減産を継続する”ことの下地ができあがっていることが分かります。

 現在は、トランプ大統領がOPECプラスの行く末を決定付けているといっても過言ではありません。

OPECプラスの減産、7月以降の延長は、増産枠の調整がカギ

 

 図:足元の原油相場の材料(全体像)の左下で示した“より多くの増産が可能”について説明します。OPECプラスの減産、延長の可能性と知られざる実態で書いたとおり、2018年6月のOPEC総会、OPEC・非OPEC閣僚会議で、前月5月に米国がイラン核合意を単独離脱したため、イランからの原油供給が減少することを見越し、減産順守率を100%に引き下げる(減産順守は維持する)ことを条件に、減産を継続しながら限定的な増産を可能にする決定が下されました。

 2019年、5月初旬に中国、日本などの8カ国への輸出を可能とした猶予期限が切れ、本格的にイラン石油制裁が始まりました。また、以下の図のとおり、2018年と同様、5月(OPEC総会の前月)の減産順守率が記録的な水準まで上昇していること、それを支えたサウジの原油生産量が2017年1月の協調減産開始以降、最低水準まで減少していることなど、2018年と状況は非常に似ています。

 以下の図の通り、2019年5月19日のJMMC(共同減産監視委員会)で公表された4月の減産順守率は、168%と記録的な水準となりました。OPECプラスはこの高水準の減産順守率をフル活用、そしてイランの原油生産のさらなる減少を補うことを口実に、2018年同様、減産を順守しながら限定的な増産を実施する、という行動に出る可能性があります。

図:OPECプラスの減産順守率

出所:JMMC(共同減産監視委員会)のデータより筆者作成

 

 現在の減産はOPECプラス全体で、2018年10月比(一部例外有)、日量およそ120万バレルを削減することになっています。120万バレル削減できれば減産順守率は100%になります。

 減産順守率が168%(削減量は日量およそ200万バレル)だとして、減産順守率を100%まで引き下げれば、単純計算で、2019年4月に比べて、日量およそ80万バレルの増産ができます。減産順守状態を維持しながらです。

 5月19日のJMMCで非常に高い減産順守率が公表されたことは、7月以降の減産継続に向けた準備が着々と進んでいる証しであると筆者は考えています。

 ロシアが減産継続に難色を示しているとの報道がありますが、日量80万バレル(4月比)もの大きな規模の“増産枠”を分け合うことを軸に、交渉が行われる(行われている)と考えられます。

 サウジを始めとしたOPECと、ロシアを始めとした非OPEC10カ国、合計24カ国の協調体制が維持され、減産を継続している、そしてその減産がしっかりと順守されている、ということになれば、原油相場は(これも2018年同様)上昇する展開になると考えられます。

 5月19日のJMCCでは、減産の必要性を示唆する世界の石油在庫の増加をけん制する発言、限定的な増産の必要性を示唆する高水準の減産順守率、および限定的な増産をしながら減産を実施することを決定した2018年6月のOPEC総会についての言及がありました。

 先述のとおり、減産継続の下地はトランプ大統領が作ったと考えられますが、後は、OPECプラスが減産継続を決定する最後の調整を行うだけと言えます。

 一部ではOPEC総会が7月に延期になる可能性がある、などOPECプラスの中で調整が難航していることを思わせる報道もあります。また、トランプ大統領の方針が変わることに注意が必要です。

米中貿易戦争が鎮静化したら?

 仮に、米中貿易戦争が鎮静化に向かい、消費が増加すれば、石油在庫が減少し、OPECプラスの減産を継続する動機が減退します。また、化石燃料を使用することを推奨する方針が撤回されて米国の原油生産量が減少すれば、シェア争いが鎮静化してOPECプラスが増産する動機が減退します。イランやベネズエラへの制裁が解除され両国からの原油供給が回復した場合も、OPECプラスの増産をする動機が減退します。

 このように、OPECプラス内での交渉が決裂したり、トランプ大統領起因の減産継続のシナリオの前提が変わったりすることに注意が必要です。

 とはいえ、トランプ大統領起因の条件については、同氏の任期中、“米国第一主義”“偉大な米国を取り戻す”という強い意志が貫かれることが予想され、すぐさま米中貿易戦争が鎮静化させたり、化石燃料を使用することを推奨しなくなったり、敵対国への制裁を緩めることは考えにくいと思います。

 また、サウジ記者殺害事件の際に、米国に擁護してもらった負い目がある中で行われた2018年12月のOPEC総会で、サウジの石油大臣が、アラブ人のいでたちではなくスーツ姿で登場しました。ある意味、これはトランプ大統領が嫌う減産継続を、サウジが主導して決定したという色を薄める意図があったと筆者は感じました。

 しかし、5月19日のJMMCでは、スーツ姿ではなく、アラブ人のいでたちに戻り、以前のように石油の国のリーダーを強く印象づけました。

 トランプ大統領は、2020年の大統領選挙を見据え、大衆を味方につけるべく、原油高という“増税”を主導するOPECプラスをけん制するツイートをする可能性はありますが、今のサウジはそれを乗り越え、減産継続へ向けて鋭意調整に励んでいると考えられます。

 トランプ大統領起因の条件が変わらなければ、OPECプラスの調整さえうまくいけば、2018年同様、条件付きながら、減産継続となる公算が高いと筆者は考えています。

 今回は、原油市場における材料を俯瞰し、材料同士のつながりに着目しながら、今後の原油相場を占う上で重要なOPECプラスの減産が継続するかどうかについて考察しました。中東情勢など、目立つ材料は重要ですが、それはあくまで上昇要因の一つに過ぎないことに留意することが重要だと思います。

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(吉田 哲)

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