とうもろこしの基準価格、上がったら下がらない理由は?
トウシル / 2019年5月31日 12時51分
とうもろこしの基準価格、上がったら下がらない理由は?
前回の第4回で、小麦の高騰について話をしました。今回は小麦を含んだ穀物全般の話です。長期的な視点で見て、穀物価格の地殻変動とも言える、大規模な底上げが起きたことについて話をします。穀物相場の全体像をとらえる上で、急騰・急落とはまた違った意味で非常に重要です。
上がったまま下がらない、その理由は?
世界の主要な先物市場で取引されている穀物銘柄のうち、とうもろこし、大豆、小麦は比較的規模が大きい銘柄です。これらのは、長期的に価格水準を切り上げながら推移してきました。最も取引量が多いとうもろこしで具体的な値動きをみてみましょう。
図:とうもろこし先物価格 (期近、月足、終値)
市場の価格は需要と供給のバランスで決まると言われます。つまり、売り手と買い手が価格の面で折り合いがついた時に価格が決まるということですが、上図のとおり、とうもろこしの価格は、1974年前後と、2008年前後の2度、そのつり合いが取れる価格の水準が切り上がってきました。
この2度の価格水準の切り上がりについて、その背景を詳しく見ていきましょう。
オイル・ショック、中国・インド台頭が穀物価格を押し上げた
まず1回目の、1974年の流れを見てみましょう。
オイル・ショックの痛手を受けて、技術革新に励んだ結果、生産環境の効率がグンとアップし、景気が向上。結果、消費が潤い、美味しい肉を食べる人が増え、牛や豚などのエサとしての穀物のニーズが高まりました。オイル・ショックと言うピンチを、技術革新というチャンスに変えた人類の努力が、穀物の価格上昇につながったというわけです。
1974年度の穀物の価格基準上昇を、「風が吹けば、桶屋が儲かる」に当てはめると「オイル・ショックが起こったら、穀物の基準価格が上がった」ということになります。
そして2回目、2008年前後の流れは以下の通りです。
2008年前後、インドや中国など、人口の多い新興国が台頭したため、食肉需要が急激に高まりました。よって、1974年度と同様、家畜のエサとしての穀物需要が増加し、価格も上昇します。1974年度の価格水準上昇と異なるのは、2007年に、世界的な環境配慮ブームが到来し、ガソリン燃料の使用を控えるムーブメントが起こったこと。
2007年には、米国で、ガソリン燃料だけでなく、穀物を利用したバイオ燃料を混合して使用することが義務化され、穀物のニーズに「バイオ燃料用」という新たな需要が生まれたのです。結果、穀物価格は上昇しました。
1974年度の穀物の価格基準上昇を、、「風が吹けば、桶屋が儲かる」に当てはめると「中国・インドなどの新興国が台頭したら、穀物の基準価格が上がった」ということになります。
とうもろこしが上がると、小麦・大豆も釣られて上がる
とうもろこしは穀物の中で価格のリーダー的存在であり、とうもろこしの価格が上がると、他の大豆や小麦も釣られて上昇する傾向があります。2008年以降の他の穀物の価格水準を見ると、穀物全体が長期的な価格水準が切り上がっていることが分かります。
図:大豆、小麦、とうもろこし先物価格 (期近、月足、終値)
各国の経済情勢は浮き沈みがありますが、穀物価格の水準切り上げの原因と思われる「世界的な食肉文化の浸透」「世界的な人口増加」「世界的な環境意識の高まり」の3つの状況変化が、「世界的に食肉文化が衰退する」「世界的に人口が減少する」「世界的に環境意識が後退する」という、“以前の状態に戻る”ことは、非常に考えにくいと筆者は思います。穀物相場の価格水準を切り上げた各種材料が、後戻りしないのであれば、価格も元の水準に戻ることはないのかもしれません。
しかし、相場は絶えず新しい材料を織り込みながら推移していきます。今後、例えば、穀物を用いない新たな家畜用のエサが開発され、世界的に使用されはじめた(エサ用の穀物消費減少)、電気自動車が世界規模で使用されるようになった(バイオ燃料の消費減少)、など、技術革新によって穀物相場の長期的な価格水準を切り上げた材料が後退する可能性はゼロとはいえません。このような穀物相場の根幹に関わる材料が出た際は、要注意だと思います。
(吉田 哲)
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