アリババの最先端スーパー「フーマー」がスゴイ!新しい小売りとOMO戦略とは?
トウシル / 2019年6月4日 17時25分
アリババの最先端スーパー「フーマー」がスゴイ!新しい小売りとOMO戦略とは?
「大陸系メガテック企業」は、なぜ強いのか?
アマゾンに対抗する中国のネット企業、アリババ。その事業の中核はEコマース。BtoB「アリババドットコム」、CtoC「タオバオ」、BtoC「天猫(Tモール)」などを展開しています。
しかし、アリババの事業はそれだけにとどまりません。アマゾンがネット書店からエブリシングカンパニーへと進化したように、アリババもまた物流やリアル店舗、クラウド、金融などに手を広げています。特に、オンラインとオフラインの融合(OMO:Online Merges Offline)では、アリババはアマゾンを凌駕していると言ってもよいでしょう。
オンラインとオフラインの情報が完全に同期
リアル店舗におけるアリババの先進性は、アマゾン以上と言えます。アリババの創業者で会長のジャック・マーが2016年に発表した「ニューリテール(新小売)」という概念、OMOのシンボルともいえるのが、スーパーマーケットの「フーマー(盒馬鮮生)」です。
フーマーでは顧客がリアル店舗で買い物をし、購入した食材をその場で料理人に調理してもらうといった、ユニークなサービスによる楽しみがあるほか、オンラインで買い物をして無料で宅配してもらえるという利便性もあります。
たとえば店頭で購入するものを決めた場合にも、すぐには要らないならフーマーのアプリでQRコードを読み取ってオンラインのカートに入れ、あとで届けてもらうことも可能。まさにオンラインとオフラインの融合です。
オンラインとオフラインの情報が完全に同期しているため、リアル店舗に並ぶ商品とフーマーのアプリ上に表示される商品は完全に一致します。
一方、アリババにとっては、匿名性の高い現金ではなくアリペイでの支払いに特化することで、詳細な購入情報が得られるというメリットがあります。
このフーマーのバリューチェーン構造と、アリババグループ事業のレイヤー構造をまとめたのが下の図です。バリューチェーン構造というのは、商品が調達されてから店舗に入荷し、消費者が購入を検討し、実際に買われて手元に届いてからその後のアフターサービスまでの流れのことです。
この図を読み解くと、アリババが先行するOMOにおいて起きていることをより深く理解できます。それは、ただの「新しい小売り」ではないのです。
物流パートナーは「国内は24時間配達」を標榜
まず、事業のレイヤー構造から丁寧に見ていきましょう。
アリババグループの事業を支えているのは、レイヤー構造の最底辺にあるクラウドコンピューティング「アリババ・クラウド」です。アリババグループのすべての事業は、アリババ・クラウドの上で動いています。
物流を担うのは「ツァイニャオネットワーク(菜烏網絡)」。「中国内では24時間以内に必ず配達」「世界の物流会社とパートナーシップを組み、全世界どこでも72時間以内に必ず配達」というミッションを掲げているグループ企業です。
EC企業向けには、物流データの監視や異常が発生した物流案件の処理をし、即時に正確な物流の状況追跡サービスを提供。テクノロジーを駆使し、企業の物流情報管理や異常物流の管理に協力して、物流コスト削減や物流サービスレベル向上に寄与しています。フーマーの商品調達時の配送は、ツァイニャオの物流システムの知見が担保しています。
そして、フーマーが取り扱う生鮮食品の品質の担保には、トレーサビリティーに「アリババブロックチェーン」が使われています。フーマーの店頭では商品パッケージと値札にQRコードが添えられており、スマホのアプリで読み取ると詳しい情報を見ることができます。
たとえば肉や野菜なら、産地、収穫日、加工日、店舗までの配送履歴がひと目でわかるのです。過去に多くの食品品質問題が起きた中国において、テクノロジーを活用した徹底的な情報開示は消費者の信頼獲得に大きく貢献しています。これほどのトレーサビリティーの実現は、世界でもあまり例がないかもしれません。
アリペイ利用歴をもとに信用情報を付与
フーマーでの支払いはほとんどがアリペイです。アリペイを通じ、フーマーはオンラインだけでなくリアル店舗においても「どの顧客がいつ、どこで、何を買ったか」という詳細なデータを収集できます。そしてアリペイの利用歴などをもとに、個人に信用情報を付与するのが「ジーマクレジット(芝麻信用)」です。
フーマーではこの情報が顧客の差別化に活用されていると考えられます。そしてフーマーのマーケティングを担うのは、グループ内のマーケティングテクノロジープラットフォーム「アリママ(阿里妈妈)」です。フーマーに商品を提供している企業は、アリママを使って販促を行うことも可能なのです。
アリババのデジタルメディア&エンターテインメント事業の1つである「ヨーク(優酷)」は、中国最大の動画配信プラットフォームです。フーマーのプロモーションにも、ヨークの動画が使われています。
食品のデリバリーに関しては、アリババが2018年4月に約1兆円で買収したフードデリバリー企業「Ele.me」の存在も気になります。フーマーにおける役割は現在のところ明確ではありませんが、Ele.meが中国で競争が激化している食品デリバリー事業の趨勢を占う上で重要なプレイヤーであることは間違いありません。
2008年設立のEle.meは上海に本拠を置き、中国の2,000都市でオペレーションを行い、130万軒のレストラン、2億6,000万人のユーザーが登録しています。登録ドライバー数は300万人近くにも達するのです。
2017年時点で、中国の食品デリバリー市場はアリババ、テンセント、バイドゥの3社が競っていましたが、Ele.meの買収により2018年末時点ではアリババグループが過半数のマーケットシェアをとっている状況です。
倉庫がなくても「当日入荷、当日販売」ができる
次にフーマーのバリューチェーン構造を見ていきましょう。フーマーのバリューチェーンは①商品調達、②商品の入荷、③顧客による検討、④顧客による購入、⑤決済、⑥店頭での調理、⑦配達、⑧購入後のアフターサービス、という8つの要素に分けて考えることができます。
このバリューチェーンとフーマーの事業レイヤー構造を合わせると、フーマーが実現している「新しい小売り」のビジネスの全貌が見えてきます。
商品調達の段階では、アリババブロックチェーンによりすべての商品においてトレーサビリティーを確保し、生産者のデータを蓄積できます。
入荷する商品は、フーマーのオンライン注文とリアル店舗でのアリペイを使った決済データによりすべての購入データが収集されていますから、それぞれの店舗ごとにコントロールが可能です。フーマーが在庫を置く倉庫をいっさい持たず、「当日入荷、当日販売」を徹底できるのはこのためです。
顧客が商品を検討するときはスマホのアプリで商品情報を見ます。オンラインでは検索データが残りますから、これも顧客のニーズ分析に活用できます。
店舗から3キロメートル以内なら30分以内で無料配達
顧客が購入するときは、繰り返しになりますが、ほぼすべての購入データの取得が可能です。「誰が、いつ、何を」買ったかをすべて正確に記録・分析できるのですから、その意義は従来のPOSデータとは比較になりません。
顧客が店頭での調理を希望すれば、フーマーはその嗜好データも取得しているはずです。こうしたデータはどのように商品を入荷すべきかをより精緻に予測するのに活用できているでしょう。
配達においては、店舗から3キロメートル以内なら30分以内で無料配達する配送網を構築しています。これも配送データの蓄積が可能ですから、今後アリババグループが「ラストワンマイル」の制覇という課題に対してより有効な打ち手を見出していくのに役立つのではないでしょうか。
これらすべての流れが実現しているのは、顧客一人ひとりとの関係性を継続的なものにする「CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)」です。
今後はアパレルや家電もデジタルシフトしていく
フーマーを「ニューリテール」「OMOスーパー」のひと言で片付けると、アリババが実現していることを過小評価してしまう可能性があります。おそらくアリババは、フーマーの領域である生鮮食品のみならず、アパレルや家電などの商品に関してもより強力なデジタルトランスフォーメーションを起こしていくことでしょう。
私は、アリババ杭州本社隣の商業施設地下1階にある最新鋭フーマーを訪れ、ニューリテールだけではなくスマートシティ構想全体に占めるフーマーの戦略的な重要性を感じ、脅威を覚えました。シティ全体と強力なコンテンツ部分の両者をデジタルシフトするのがアリババのやり方なのです。
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