賢い人は恐れない!「老後2000万円問題」を正しく理解する7つのポイント
トウシル / 2019年6月18日 6時0分
賢い人は恐れない!「老後2000万円問題」を正しく理解する7つのポイント
【訂正とお詫び】
2019年6月18日に公開した当記事内にて「人生設計の基本公式」として掲載した図解およびリンク先が異なっておりました。 正しい「人生設計の基本公式」はこちらとなります。読者の皆様には、大変ご迷惑をおかけいたしました。ここに深くお詫びし、訂正させていただきます。
(トウシル編集チーム)
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読者もおそらくご存知のように、金融審議会・市場ワーキンググループによる「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日付) が、いわゆる“炎上”状態にあって、連日話題になっている。
「取りあげられ方がくだらなくて、うんざりだ」と思っておられる読者が少なくないのではないだろうか。
そう思っているあなたは、おそらくポイントを正しく理解されているし、筆者もその見方に100%賛成する。
とはいえ、高齢期のための資産形成と管理は多くの人にとって重要なテーマだ。以下、なるべくコンパクトな説明で、この問題についてどう理解し、個人がどうしたらいいのかについて7つのポイントにまとめてみた。
(1)「報告書」は悪くない
まず、問題とされた報告書自体に大きな問題はない。
中学生程度の国語力がある人が丁寧に読むと、「2,000万円」は単なる試算結果であって、これを作れと脅したり強制したりするものではないし、まして、公的年金が破綻するなどとはどこにも書いていない。
老後に備えて、計画的に資産を形成し管理することが大事だと、常識的なことを言っているだけだ。
参考になるアドバイスがいくつかあるので、読者も実際に報告書を読んでみるといい。
(2)公的年金は破綻しない
報告書は公的年金への不安を煽ったと言う向きがあるが、それは正しくない。
公的年金は、加入者が自分のお金を積み立てておいて、後から受け取る方式ではなく、将来の保険料と国庫負担、それに積立金の取り崩しを財源に、年金が支給される仕組みなので(「賦課(ふか)方式」と呼ぶ)、日本という国が連続性を持って続いている限り、将来支給額が実質的に縮むことはあっても、ポッキリと折れるように破綻することは考えにくい。
また、年金の実質的な支給額が「マクロスライド方式」と呼ばれる方法で調整される予定であることは、2004年の年金制度改革以来、公表されている事実であって、今、明らかにされた話ではない。
報告書には、公的年金制度の持続性に疑問を呈する箇所は1つもないし、批判者が口にする「年金は100年安心」とは、年金財政の持続性が保たれることの表現であって、年金だけで個人の老後費用が全て賄えることを指すものではない。
「100年安心」を曲解して議論するのは不毛だ。
では、年金に関して普通の個人はどうしたらいいのか。以下の3点を覚えて置くといいだろう。
【1】年金保険料を払って、それが条件でもあるiDeCoなどを積極的に利用する方が「得」だ
【2】将来の年金額を計算に入れて計画的に人生設計を考えるべきだ
【3】公的年金は終身支給されるので「長生きのリスク」への保険として有効活用したい
(3)2,000万円必要かどうかは個人差がある
例えば、今後の現役時代を通じた平均的な手取り年収が360万円(1カ月あたり30万円)で、現在年収1年分の、360万円を持っている35歳のサラリーマンを想定してみよう。
将来の年金額を、今後の平均手取り収入の4割の144万円と想定し(やや楽観的な想定かもしれない)、65歳まで現役で30年間働き、95歳までの30年間の老後期間を現役時代の支出の70%(総務省の家計調査を見るとおおよそこの水準だ)で暮らすとするなら、筆者が作った「人生設計の基本公式」で計算すると、この人は手取り収入の15.69%、1カ月あたりで約4万7,000円の貯蓄が必要となる。
とすると、現役時代を毎月約25万3,000円、老後には1カ月約17万7,000円で暮らすことができる(注:計算はインフレ率=賃金上昇率=資産運用利回りの前提だ。運用でインフレ以上に稼ぐことは計算に入っていない)。
この人は、リタイア時点までに、元本ベースで1,694万円貯める計算になるが、これと元々持っていた360万円を合わせると、リタイア時点に持っていて老後の生活のために取り崩すことのできる金額は2,054万円となる。
ただし、この金額には、介護施設に入所する一時金、遺産、葬式代などは含まれない。
実際にはもう少し持っている方が安心だろう。
サラリーマンは退職金があるかもしれないし、親等から受け継ぐ遺産があるかもしれないが、一方で、子供の教育費といった別途の支出要因があるかもしれない。
もちろん、この人よりも低所得・低支出な人は、リタイア時に持っていたい金額がもう少し少額だろうし、逆に高所得・高支出な人は「2,000万円ではとても足りない」と思うケースが多いだろう。
いずれにしても、報告書が示したような「平均」の数字ではなく、「自分の数字」で老後について計算してみることが重要だ。
(4)ライフ・プランを事前に考えよ
仮に、先のサラリーマンが75歳まであと40年間働くとしよう。
想定寿命が95歳までなら老後期間は20年に短縮される。他の条件を同一として、必要貯蓄率を求めると9.26%となり、毎月の貯蓄額が約2万8,000円、現役時代の支出が27万2,000円、老後の支出が毎月約19万円で辻褄が合う。
長く働くためには、仕事の能力と同時に自分の仕事を買ってくれる顧客が必要なので、早い段階からの準備が必要だ。
何よりも健康でなければならないが、「長く働くことの有効性」がご理解いただけよう。
また、結婚している方の場合、配偶者も働くことによって、生活をより豊かにすることができるし、夫婦合計の年金額も増やすことができる。
計画的な貯蓄や取り崩し、さらに資産運用も大事だが、人生にあっては、誰がどのように、いつまで働くのかに関する計画が重要だ。
「年金は100年安心」を「老後は年金だけで生活できる」と曲解して、無為に過ごして老後を迎えると、経済的にはかなり不自由になるだろう。
(5)資産寿命は、運用ではなく計画的取り崩しで延ばす
報告書が明示的にそう言っている訳ではないが、「資産寿命を延ばすために、リスクを取った資産運用を行うといい」という金融機関の商品広告にありがちな構成に見える点は、誤解を生むかもしれない。
将来の運用益をあてにして、お金を使い過ぎてはいけない。資産の寿命を延ばすための手段としては、余裕を持った計画的な取り崩しを割り当てるべきで、その点をわきまえておくことが重要だ。
個人の場合は、運用が失敗したら不足を埋めてくれる、確定給付企業年金における母体企業のようなリスクバッファーを持っていない。従って、「運用利回りA%を仮定して、毎年資産のB%を取り崩す」といった、将来の運用益をあてにした支出を行うことは危険だ。
一方、取れる範囲のリスクを取りながら、資産運用を行って資産を増やそうとすることは、それを有利だと思う人が行えばいいことで、他人が強制することではないし、運用には不確実性が伴う。ちなみに、筆者自身は、リスクを取って運用することが(手段が適切であれば)「有利な資産形成につながるだろう」と思っている。
リスクを取った資産運用は資産の増加・形成のために、計画的な資産取り崩しは資産寿命を十分延ばすために、という手段の割り当てが正しい。
(6)制度を有効に利用して備える
報告書が「炎上」したことで、長期的な資産形成の有効性や将来に向けた個人の自助努力について話題にする事自体がはばかられるような、妙な雰囲気が拡がらないことを期待したい。金融庁や厚生労働省の役人達には、勇気を持って必要な政策に取り組んで欲しい。制度としての一般NISA、つみたてNISA(金融庁所管)もiDeCo(厚労省所管)も、まだまだ普及への努力が必要だ。
これらの制度は、個人が自助努力で老後に向けて資産を形成することを支援する受け皿になっている。
先に、月収手取り30万円のサラリーマンが毎月4万7,000円貯めると、おおよそ現在の支出と将来の生活費とのバランスが取れる、と計算してみたが、この人の場合、掛け金の所得控除のメリットが大きなiDeCoを上限の毎月2万3,000円まで利用し、残りの2万4,000円はつみたてNISAの口座に積み立てるといい。
将来に向けて備えたい金額がもう少し大きな人もいるだろうから、つみたてNISAはせめて一月5万円、年額60万円まで利用枠を拡げてほしい、といった要望はあるが、こうした制度を有効に利用しながら長期的に資産形成を行いたい。
なお、35歳で健康な正社員サラリーマンは自分自身に大きな「人的資本」があるので、iDeCo、つみたてNISAなどの節税運用が可能な口座では、リスク資産に投資する運用商品で運用することが適切な場合が多いだろう。
内外の株式に投資するインデックス・ファンドで信託報酬率が低い物を選ぶことをお勧めする。
(7)運用は、1:長期、2:分散、3:低コストで
資産形成のための運用に、特別なマジックはない。運用金額が大きくても小さくても、運用商品の選択も含めて、運用方法は同じでいい。
要点を3つにまとめると
1:長期
2:分散
3:低コスト
だ。
運用方法に関しては、つみたてNISAがいい教材になる。
資産の換金引き出しは自由だが、換金してしまうと、せっかく20年間の運用に使える節税運用枠を消費してしまうので、20年間バイ・アンド・ホールド(いったん買ったものを売らずにじっと持つこと)の長期運用になりやすい。
また、内外の株式のインデックス・ファンドが選択可能なので、分散投資を実行しやすい。
なお、現時点では債券の利回りが低いので、バランスファンドは不適当だ。
また、つみたてNISAでは、ノーロード(販売手数料がゼロ)で信託報酬が一定水準以下の商品しか認められていない。
近年、インデックス・ファンドの信託報酬引き下げ競争が進んだこともあって、低コストな運用が可能だ。
金融庁は「長期投資に適当な商品を選んだ」と言っているが、長期で不適当な商品は短期の投資でも不適当なので、つみたてNISAの商品選定は大いに参考になる。
販売手数料が掛かる商品や、信託報酬が高いアクティブ・ファンド、分配金を頻繁に支払うファンドなどは、いかなる運用にも適さないのが真実だ。
読者は、「2,000万円騒動」のばかばかしさを気にせずに、計画的な人生設計と着実な資産形成を行うといい。
(山崎 元)
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