日本人が勤勉だから、経済大国になれたは誤解:デービッド・アトキンソン(前編)

トウシル / 2019年8月9日 9時31分

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日本人が勤勉だから、経済大国になれたは誤解:デービッド・アトキンソン(前編)

 7月6日大阪にて楽天証券の20周年セミナーが開催されました。そこに伝説の金融アナリスト、デービッド・アトキンソン氏が登壇。

 かつては、外資証券会社に勤めており、日本の銀行の不良債権を暴いた、人気金融アナリスト。現在は日本在住で茶道の裏千家に入門し、日本の文化財政策・観光政策に関する提言なども行っています。日本文化にも詳しいアトキンソン氏による日本経済のカギを前編・後編にわたってお伝えします。

講演内容:生産性の向上について~人口減少×高齢化に打ち勝つ企業の生産性向上戦略~

労働者の最低賃金を引き上げれば、生産性が向上し日本経済は復活する

 この30年間、日本経済はほとんど成長していません。そのため経済成長に連動する傾向が強い株価は、日経平均株価で見るなら2万円台を大きく上回ることができず、その水準は、私が金融アナリストになった1990年代とほとんど変わっていません。バブル崩壊後の1990年代から今日までを、私たちは「失われた20年」「失われた30年」と呼んでいますが、なぜ失われたまま成長できなかったのか、ここではそれを一緒に考えていきたいと思います。

 今日のメインポイントは「GDP(国内総生産)が伸びない限り、株価が継続的に上がることはない」ということです。

生産性を向上させなければGDPは成長しない

 GDPとは何か。日本の国内で1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額の総和と説明されていますが、簡単に言えば、「人の数×生産性」です。

 そしてGDPを分母、労働者の所得を分子として計算すると「労働分配率」が導き出せます。労働分配率は、GDPのうち、どれだけ労働者に賃金等で還元されたかを表す指標のことであり、先進国は60%前後で推移しています。まず、ここを押さえてください。

 1945年以降1993年まで、日本経済は右肩上がりで成長してきました。右肩上がりが維持できた要因を分析すると、人口増加要因が約6割、生産性向上要因が約4割ということが分かりました。1993年以降は人口増加グラフが横ばいになり、GDPの成長が止まり、今に至っています。

 なぜGDPが成長しないのか。いろいろな議論が交わされました。日本人の働き方がおかしいのではないか、外資系企業に市場を奪われている、グローバルリズムの悪影響を受けた……。私は面白おかしく聞いていました。それらは妄想に過ぎません。事実は「生産性を向上させなかったせい」です。人口が増加しない、生産性が上がらないと経済は成長しないからです。

 これから日本は人口が激減する時代に入っていきます。すでに人口減少は始まっていますが、具体的な数字で見ると、2015年から2060年までの45年間で、総人口は31.5%減少します。

 これだけでも驚きですが、もっと驚くべきことは15歳から64歳の生産年齢人口(労働人口)が2015年の7,700万人から2060年には4,400万人に減る(3,260万人減少)ということです。減少率は42.5%に達します。

 GDPは「人の数×生産性」で計算するので、人の数が減る以上、その減少分を上回る生産性を向上されなければGDPを成長させることはできません。

日本の人口減少は他国とは比べられないほど深刻

 感覚的に物事を捉える人は、「多くの先進国が人口減少問題に直面していて、韓国、ドイツ、イタリア、スペインも危機感を持っている。日本だけの問題ではない」とのんきに構えていますが、日本とそれらの国々とでは人口減少率がまったく異なります。2060年までに韓国は5%減、ドイツは11%減、イタリアとスペインは7%減にとどまり、42.5%も減る国は日本しかありません。一方で、65歳以上の人は45年間で2%増加します。

 ここで再び感覚的に物事を捉える人に登場してもらうと、きっとこう言うでしょう。「日本人は勤勉で優秀で技術力がある。だからなんとか乗り越えられる」。確かに怠惰で劣っていて技術力がなければ先進国になることはできませんが、勤勉で優秀で技術力があることと、日本が世界第3位の経済大国になったことには、それほどの因果関係は認められません。

日本の強みは勤勉さでも技術力でもなく人口の多さ

 日本の最大の強みは人口が多いことでした。先進国の人口を多い順に並べると、米国3億2,400万人、日本1億2,600万人、ドイツ8,200万人、英国6,600万人、フランス6,500万人となり、先進国の経済規模の順位は人口の多さと一致しています。日本の経済規模が英国の経済規模のほぼ2倍である最大の理由は人口が2倍も多いためです。その最大の理由が激減することが分かっているのですから、今までの考え方ややり方を全面的に変えない限り、日本経済は縮小していくことは明らかです。

 日本のGDP550兆円を生産年齢人口で割った1人当たりGDPは、2015年723万円。2060年には1,260万円に高めないと、日本経済は現在の水準を維持できず縮小してしまいます。つまり、給料が今より1.7倍に増えないと、経済は縮小するということです。

 私が参加している政府の委員会などで、この問題について専門家の方々と議論をすると、「日銀が金融緩和をすればいい」とか「インフレが日本を救う」という訳の分からないことを平気で言う人がいます。そうではなくて、最大のポイントは「賃金を上げることができるか否か」です。

日本の生産性は先進国の中で最低水準

 1995年から2015年までの間ですが、G7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)の実質経済成長率は2.1%ですが。日本は1.3%と最低水準です。

 生産性は3つの要素に分けられます。「人的資本」は何人の社員で何時間働いてもらったのか。「物的資本」は労働者に働いてもらうための設備投資、そして後でお話する「全要素生産性」です。

 日本の実質経済成長率1.3%の内訳は、人的資本はG7平均0.5%に対して日本は0.4%。物的資本は平均0.9%に対して日本0.8%。ほとんど差がありません。労働者の問題ではないと言うことです。

 生産性を計算するとき、人の数、働いている時間、設備投資の要素だけでは説明できない部分があることに気がつきます。それが全要素生産性です。

 社員教育により一人一人のスキルが上がったとか、商品のブランド力が強くて高価格で販売できるとか、最先端技術を開発できたとか、ビジネスモデル改革に成功したとか、そういったことが全要素生産性に含まれます。

 そこで全要素生産性に注目すると、G7平均0.8%に対し日本は最低の0.2%にとどまっています。米国の5分の1、英国の8分の1、イタリアの半分以下です。日本の技術力は世界1、2という高評価、人材評価も4位と高いのに、生産性はなんと28位です。技術力と人材の評価は極めて高いのに、先進国の中では最低の生産性にとどまっている。

 日本の多くの企業は税金をほとんど払っていません。超低金利でお金を借りることができます。従業員は優秀です。技術力も抜群にいいのに、生産性が極めて低いために、最低水準の給料しか払うことができません。

 日本の一人当りの生産性はイタリアやスペインに比べて10%くらい低く、破たんしたギリシャに比べても3%高いだけです。だからこそ、私は今がチャンスと考えています。高い技術や高い人材評価と低い生産性のギャップを埋める作業により、経済成長が可能になるからです。

 次回は、生産性を高めるためにどうすべきかについてお伝えします。>>

(トウシル編集チーム)

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