第8章 ETFとリスク
トウシル / 2019年10月7日 5時10分
![第8章 ETFとリスク](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushiru/toushiru_23481_0-small.jpg)
第8章 ETFとリスク
ETFのリスク
いろいろなリスクの話に入る前に、ETF(上場投資信託)に固有の重要なリスクについて説明したいと思います。
ETFはこれまで見てきたように、たった一つのETFを買うだけで世界の株式市場を丸ごと買うような分散投資が実現できてしまう利便性を持っています。その分散効果の有効性は疑う余地もありません。
しかし……。
ETFが株式と同じように株式市場で取引されているということは、もし株式市場に何か起きたときには突然、換金できなくなるリスクがあることを意味します。それは市場閉鎖リスクと投資の世界で呼ばれているリスクです。
実際、2001年9月11日に米ニューヨークのマンハッタン島の南端にある世界貿易センターのツインタワーに、ハイジャックされテロリストたちが操縦する旅客機が相次いで突っ込んだときは、ニューヨーク証券取引所の辺りまでガラスの破片などが飛び散り、取引を1週間停止しなければならなくなりました。
フラッシュ・クラッシュはETFにも起きる?
近年、高速取引が一般化するとともにコンピューター・プログラムのトラブルが原因で引き起こされる、「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる市場の急落が、ときどき発生しています。
今のところフラッシュ・クラッシュは個別企業の株式でしか発生していませんが、将来、ETFもフラッシュ・クラッシュの犠牲にならないという保証はありません。
ETFが取引所というメカニズムに依存している以上、そのメカニズムに機能不全が起きたらその影響から免れることはできないのです。
リスクの定義
リスクという言葉は明快なようで実は曖昧さが含まれています。例えば、プロ投資家の間でリスクが論じられる場合、リスクとは価格変動のことを指している場合が多いのです。
この価格変動という言葉は、「ボラティリティー」という英語に置き換えられます。ここでのボラティリティーとは「結果のばらつき」のことを指します。
これに対して我々一般投資家がリスクを論じる場合、「リスク=損をすること」というイメージを持っていると思います。
この両方が正解であり、我々はリスクに関して議論する場合、上記の二つの概念のうちどちらを問題にしているのか、自覚する必要があります。
「リスク=価格変動」という議論をする場合
「リスク=価格変動」の議論をする場合、価格の変動はリターン、いわゆる投資利益の源泉であると考えられます。
つまり価値観として「リスクは悪いものだ」という発想はこの文脈では存在しないのです。
むしろ価格変動は征服すべきチャレンジの対象であり利益機会に他ならないのです。その場合、まず価格変動のばらつきの中心を求め、そのばらつきの中心がゼロ「0」よりも高ければ、リターンはプラスであるというふうに考えるのです。
この場合、「結果のばらつき」具合が比較的集中しているか、逆に拡散してしまっているかがリスクの度合いを測る主な尺度となります。投資の世界ではこれを標準偏差によって表現することが一般的です。なお個々の証券の価格変動のプロフィール(肖像)はその時々によって刻々と変わってゆくものです。
「リスク=損をすること」という議論をする場合
「リスク=損をすること」の議論をする場合、それらのリスクを総称して「金融リスク」というふうに呼びます。
「金融リスク」はさらに細かく「流動性リスク」「信用リスク」「市場リスク」の三つに大別できると思います。そして、そのさらに細かい分類として、下図にあるようなさまざまなリスクが存在するのです。
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/f/0/-/img_f01d0dc143a483cc21ddbd19a727600d27080.png)
ETFを使うことで避けられるリスク
上図の中で個別株の代わりにETFを購入することで避けられるリスクを挙げると、
- 不正会計リスク
- 情報リスク
- 倒産リスク
- 過度の集中リスク
などは、ほとんど心配しなくて良いでしょう。
しかしそれ以外のリスクはETFを買っても回避できません。多くの個人投資家は「マーケット全体を買っているのだから、日頃の注意を怠っても大丈夫」と考えがちです。それどころか個別株投資のように毎日リスクに晒されていない分だけ全体のリスクに対してきわめて鈍感になってしまう人が多いようです。これはETFに代表されるインデックス投資家の悪いクセなので、そういう怠け心がつかないように気を付けてください。
やっかいなリスクの「複合化」
前ページの図に示したいろいろなリスクは、お互いに独立している場合もありますが、それはむしろ例外です。多くの場合、一つのリスクは玉突き的に次のリスクを誘発し、それがまた次のリスクを招来するということが起きます。そうやって複合的で複雑なリスクに化けてしまうわけです。
2008年のリーマン・ショックを例にとれば、住宅ローン証券化商品の価格が下落(=市場リスク)したとたん、その証券に対する買い手がいなくなってしまい、流動性が失われました(=流動性リスク)。
すると、流動性のなくなったそれらの証券化商品を抱えた金融機関に対して信用不安が出て(=カウンター・パーティー・リスク)、金融機関同士の取引が停滞する事態が生じたのです。
このように個々のリスクの連鎖的な発生が金融システム全体を巻き込んだ問題に発展するリスクのことを「システミック・リスク」といい、それは金融システム全体が機能不全に陥る状態を指します。
投資資金に余裕ができたら……
皆さんが少額の投資資金で初めて海外ETFを購入する場合、例えば「iシェアーズMSCI ACWI ETF(ACWI)」とか、「バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)」のように、世界の株式市場を丸ごと買えて、しかも優れた分散効果を低コストで得られるETFを一つだけ購入するという方法は、決して間違っていないと思います。いや、むしろそこから始める方が無難だとすら言えます。
しかし、追加投資資金ができて、2銘柄、3銘柄というふうに増やしていけるのであれば、仮にETFだけで投資するにしても、第7章の「アセット・アロケーション」で説明したようにETFを分散することが好ましいのです。
図:自分で作るポートフォリオの一例(自己資本の割合)
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/a/6/-/img_a6a6b5c49a2e9a8bccc42acf11c5b23d12005.png)
取引所閉鎖リスクというものを考えた場合、ニューヨークだけでなく香港やシンガポールに上場されているETFにも少し分散しておくというやり方も良いと思います。
ただし、あまり分散し過ぎると、ポートフォリオ管理の手間が増え、コストも割高になるので、この辺も考えあわせながら、ETF投資を楽しんでください。
■海外ETFデビュー講座は、この第8章で完結です。10月11日(金)から「米国株デビュー講座」を公開しています。ぜひお読みください。
(広瀬 隆雄)
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