「投資や消費は国や社会のため」は正論か?奨励する危うさを、消費増税を機に考える
トウシル / 2019年10月1日 5時10分
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「投資や消費は国や社会のため」は正論か?奨励する危うさを、消費増税を機に考える
消費税率引き上げは、消費マインド、投資マインドにどう影響するか
10月1日から消費税率が10%に引き上げられました。これにあわせて幼保保育料の無償化、中小店舗におけるキャッシュレス決済のポイント還元策、食品その他の軽減税率などが実施されますが、おおむね家計においては負担増の要素だと思います。
こうした時期に、消費マインド、投資マインドを考えるとき、基本的には「家計の収支を維持する(つまり増税分相当は節約する)」ことと、「投資は継続する(積立額などは減額しない)」ことがカギになると思います。
個別株投資や短期トレードを指向している場合は、増税直後の景気の冷え込みなどを考慮し、銘柄選択や売買タイミングを考える必要はあるでしょう。しかし、中長期投資および積立投資を行うスタンスであれば、これもむしろ「今月と来月はちょっと安く積立投資の買い付けができるかもしれないので、ラッキー」くらいに考えて投資スタンスを継続するほうがよいと思います。
仮にこれから数年にわたって株価が低迷する時期があったとしても、いつかは乗り越えられると思うのであれば(あなたの投資のゴールが10年後、あるいは20年後を想定できるのであれば)、気にせず自動積立を続けてみてください。
消費増税時の節約はよくないことなのか
では、改めて「消費」と「投資」について考えてみます。
個人にとっては家庭経済の予算制約が必ずあります。つまり収入以上に支出を上回らせるわけにはいかないし、むしろ貯蓄余力を残せる程度の消費にしておかなければならないということです。
ところが、こうした時期に節約を助言すると、それを否定する人がいます。消費を冷え込ませることは経済をシュリンクさせ、ひいては企業の賃上げ余力をも失わせることになるので、「けしからん」というロジックです。国の消費税率の引き上げタイミングなどの政策論争については、いくらでもやっていただいて構わないのですが、「個人の財布」まで増税時に無策でいいという発想はあまり同調できません。
国内消費を刺激し続けるために個人がムダづかいをしたところで、高が知れています(1億人が総決起して消費ボイコットをするのであれば話はまた別ですが)。それに個人の家計が赤字になったからといって、誰かがその赤字を補てんしてくれるわけでもありません。日常生活に必要なものを、ムダを抑えコスパを意識しながら消費するのは当然のことですし、それは増税時に限らず個人が意識するべきことです。
個人消費についてはとにかく、消費増税が家計の総支出アップにならない程度の節約は意識したいものです(もちろん、趣味や生きがいの出費はムダではないので、家計を圧迫しない程度に楽しみましょう)。
個人の投資は社会貢献になるのか?
同じような発想で、こうした不安定な時期に個人投資はどう考えるべきでしょうか。こちらも「個人が無理をして不利益を被る必要はない」というスタンスで考えてみたいと思います。
まず応じるべきではないのは「こうした時期こそ、個人は国内市場を支える担い手となるべきだ」というような意見です。日本の株価を支えるのは日本人であるべきだ、というような意見を述べる人もいますが、ちょっと危うさがあります。
長期保有目的で短期的な値下がりを好機とみるうちはまだいいのですが、山一證券廃業直前の社員がやってしまったように、借金をして日本株を個人が買ったところで、株価を支えるほどの力はありません。むしろ借金の金利はアセットクラスとしての株式の期待リターンより高いものとなりますから、個人は全体としてはマイナスリターンになる可能性が大です。
投資は、社会が進歩することで企業の成長に通じる要素が本質的にあります。ESG投資(環境、社会、企業統治に配慮する企業を選び行う投資)やSDGs(持続可能な開発目標)的アプローチもまったく否定されるものではありません。しかし、個人が無理をして背負うべきものではないと思います。意識の高い一部の個人が、その資産の無理のない範囲から始めていき、徐々にその輪が広がっていくべきものでしょう。少なくとも「そうでなければ投資ではない」と強制されたりするものではありません。
特に市場が不安定な時期は、短期的な値下がりが生じても耐えて投資を継続できるようなポジションになるよう意識し、無理な投資金額を投入しないことと、できれば継続的な追加資金の投入を行うことを意識したいものです。
市場が不安定な時期には「肩の力の入れ過ぎ」に注意を
消費の話も投資の話も、「社会のために個人は犠牲になるべきだ」というようなロジックを押し出してくる論者に出会ったときは、少し身構えてもいいと思います。こうした思想とは一定の距離を置くべきです。
当人は社会全体のことを至ってマジメに考えた末の発言なのでしょう。しかし、体育会系的というか、個人の滅私が全体の幸福につながるというような考え方に陥る傾向があります。マジメな人ほど、マジメに考えるが故に、こうしたロジックにハマりがちですが、私はどうもそうしたマインドには同調できません。
あなたはあなた個人の幸福を追求するべきです。少なくとも法に則って税と社会保険料を納めているのであれば、あなたの国民としての責任は果たされているはずです。あなたの節約はあなたの家計のために必要ですし、あなたの投資はあなたの将来の資産形成に必要であるから行うものなのです。
2019年10月がどういった分岐点として将来記憶されることになるかは分かりません。消費税率が上昇してしばらく、もしかしたら数年にわたって市場の値動きは不安定になるかもしれません。そうしたマーケットとつき合っていくには「肩の力の入れ過ぎ」にならないことが大切だと思います。
(山崎 俊輔)
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