20年後の経済中心圏はアジアだ!寺島実郎が語る正念場の日本【後編】
トウシル / 2019年12月16日 9時38分
20年後の経済中心圏はアジアだ!寺島実郎が語る正念場の日本【後編】
日本は世界の中でも圧倒的に高齢社会であり、その後を日本と同様に工業生産力モデルを志向した韓国、中国が追っている。日本はジェロントロジー(高齢化社会工学=高齢者を生かし切る社会システムの制度設計)の確立が不可欠だが危機感は薄く、多くの日本人が“そこそこ日本はうまくいっているんじゃないかシンドローム”にとらわれていると、寺島実郎氏は指摘する。経済力は弱まる一方で、世界の中で日本の存在は「埋没」している。日本が再び光り輝くためには何をすればいいのか。
2019年11月9日開催の楽天証券ETFカンファレンスで「世界の変調と日本の進路」と題した寺島実郎氏の講演録を2回にわたって公開する。
後編ではアジアダイナミズムをテーマに、日本の現在の実力と成長へのヒントを提示する。
すでに埋没している?日本の経済力
私はこれまで、海外で開催された多くの会合に出席してきました。先日のシンガポールの会合では、世界を揺るがす構造変化の中で、日本が世界からどのように見られているかを改めて意識させられました。
シンガポールの会合で会った経営者や政治家たちは、外交辞令として「日本に期待している」と口にしますが、腹の中では「日本は終わった」と見なしていることを、ひしひしと感じました。
平成が始まる前年の1988年と、実質的に平成が終わった2018年の世界GDP(国内総生産)のシェアの推移を比較すると「日本の埋没」がはっきり理解できます。GDPは付加価値の総和、つまり我々が日々知恵を出し、額に汗して積み立てた産業・経済活動の総和です。
1988年の日本GDPが世界GDPに占めるシェアは16%でした。アジア(日本を除くASEANや中国、インドなど)は6%で、日本の3分の1です。平成が始まる前の日本は、アジアではダントツの経済国家だったのです。
ところが、2018年のシェアは日本6%、アジア23%と逆転。「日本の埋没」が決して誇張ではないことが数字に表れているのです。21世紀が始まる2000年の日本のシェアは14%だったので、「日本の埋没」感は、とりわけこの5~6年で急速に強まったことが分かります。
世界GDPに占める日本のシェアは3%が定位置
ちなみに、19世紀初頭の1820年のシェアのシミュレーションによれば、日本3%、ペリーを来航させた米国2%に対し、アジアは56%を占めていました。なんと世界GDPの5割以上を、中国、インド、日本などのアジアが占めていたのです。
そして、終戦から5年後の1950年になると、日本3%、米国27%、アジア15%です。この3%という数字には重いものがあります。
今、世界のエコノミストから、日本3%定位置論が噴き出しています。日本は3%程度の実力しかない国だと言うわけです。実際、15年後、20年後の世界GDP予測でも、多くの国際機関が日本のシェアは3%程度に落ち込むとしています。
この話をネガティブに聞くか、ポジティブな話に転換するか。後者であればアジアダイナミズムに想像が及ぶはずです。現在、アジアのGDPは日本の4倍になった。15年後、20年後、控えめに予測してもアジアのGDPは日本の10倍を超えているはずです。それがメガトレンド(大きな流れ)なのです。
8割を占めるアジア人観光客の「観光の質」が一変する
日本の埋没を日本の衰亡に移行させないためにも、物流面でも「人流」面でもアジアダイナミズムの吸収が重要です。「人流」とは、例えばインバウンドのこと。日本は経済成長の推進には観光立国の実現が不可欠であるとして、地方も含めた受け入れ態勢の整備を進めています。
この成果として、2012年まで1,000万人に満たなかった訪日外国人数は、2018年に3,000万人を超えて3,100万人に増えました。その8割がアジアの国々からの観光客ですが、彼らの観光の質が変わり始めています。
産業・経済活動の総和がGDPならば、1人当たりGDPは、国民の豊かさを表します。今でも日本はアジアの先頭を走る豊かな国という人がいますが、そうではありません。日本の2018年の1人当たりGDPは3万9,000ドル、シンガポールは6万5,000ドル。日本よりも2万6,000ドルも多い。中国政府ともめている香港は2014年に日本を追い抜き、今では4万8,000ドル。さまざまな問題を抱えている韓国が3万3,000ドルで日本に迫っています。
中国は2018年、1万ドルになりました。日本の1980年代の水準と考えれば理解しやすいでしょう。タイは7,000ドルですが、バンコクエリアに限れば1万5,000ドルを超えているそうです。
この1万5,000ドルには大きな意味があります。まず、5,000ドルを超えると、国民の関心が海外旅行に向き始めます。日本もそうでした。5,000ドルを超えた1970年代、パック旅行で海外を観光する人が増え出しました。1万5,000ドルを超えると観光の質が変わり、団体で移動するツアー旅行ではなく、自由に観光地を巡る個人旅行を志向するようになります。
周囲を見渡すと、中国人観光客が目に付きますが、表面観察では中国本土から来ているのか、香港や台湾の観光客なのか、シンガポールの華人・華僑なのかは分かりません。しかし、すでに団体旅行と個人旅行が入り交じったまだら模様になっているのです。
アジアダイナミズムの吸収が日本の成長のカギだ
近い将来、中国が1万5,000ドルを超えると、中国人の爆買いに期待するという発想は通用しなくなり、日本の観光戦略を大きく変えなければなりません。2030年6,000万人を目標にするというのであれば、なおさらです。
つまり観光に限らず、「アジアダイナミズムを賢く吸収して日本の飛躍につなげていく」という発想が必要になるのです。このことは、企業戦略においても、個人の投資戦略や生き方においても、非常に重要です。
しかし、アジアダイナミズムを引きつけるだけの魅力が日本になければ、アジアの成長と正面から向き合うことができません。日本は成熟したアジアのリーダーとして、どのような光を放つことができるのかが、問われているのです。
寺島実郎(てらしま・じつろう)
一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。
1947年北海道生まれ。1973年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産株式会社入社。米ブルッキングス研究所出向を経て、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産業務部総合情報室長、三井物産戦略研究所所長、会長などを歴任。
1994年石橋湛山賞受賞。2010年4月早稲田大学名誉博士学位授与。近著に『戦後日本を生きた世代は何を残すべきか われらの持つべき視界と覚悟』(佐高信共著、河出書房新社)、『ジェロントロジー宣言「知の再武装」で100歳人生を生き抜く』(NHK出版新書)がある。
(トウシル編集チーム)
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