イラン→中国:株式市場の焦点。米中「部分合意」前夜、最善と最悪シナリオは?
トウシル / 2020年1月15日 7時56分
イラン→中国:株式市場の焦点。米中「部分合意」前夜、最善と最悪シナリオは?
株式市場の注目は、イランから中国へ
年初、いきなり世界株安に見舞われたのは、米国・イラン間で緊張が高まり、一時「開戦は避けられない」と悲観が広がったからです。ところが直後に、米国・イランともに軍事衝突は望まず、これ以上緊張が高まらないように気を使っていることがわかり、安堵が広がったことで、株価は急反発しました。これで目先、イランへのマーケットの関心は低下しそうです。
代わって今週、世界の株式市場の注目を集めているのが、中国です。トランプ大統領は、1月15日をメドに米中通商交渉で「部分合意」に署名すると述べていました。今日にも署名が実現し、部分合意が発効する可能性があります。
部分合意の署名は確かに実現するか、部分合意をきっかけにさらなる対立の緩和があるか、注目を集めています。どういう形の部分合意となるか、マーケットが想定する最善シナリオと最悪シナリオを説明します。
今日にも部分合意?最善&最悪シナリオ
米中通商交渉で「部分合意」する方針は、昨年12月13日に決まりました。ただし、両国首脳が署名して実際に発効するのは、1月半ばとなる見込みでした。トランプ大統領は、1月15日をメドとすると述べていました。今日にも、合意が署名される可能性があります。
ただし、部分合意は言い換えると、「合意できない難しい問題はすべて先送りし、合意可能な狭い範囲に絞った合意」です。部分合意の方針が決定したことで、昨年12月15日に予定されていた米国による「対中制裁関税第4弾」は発動が見送られました。ただ、それだけで終わるなら、部分合意が署名されても、ただの儀礼にしか過ぎません。
部分合意をきっかけに、さらなる対立緩和があるか否かが重要です。想定される最善&最悪シナリオは、以下の通りです。
部分合意:最善シナリオ
部分合意に米中首脳が署名し、正式に発効するとともに、米中が互いにかけた制裁関税の想定以上に大きな解除(あるいは関税率引き下げ)を発表すれば、株式市場にとってポジティブ・サプライズ(良い驚き)となります。
14日に米国が中国を「為替操作国」の指定から外したことは、好感できます。これが、対中関税引き下げの「前準備」ともとれるからです。トランプ大統領は12月に、部分合意が成立すれば、対中関税の関税率引き下げを検討すると述べていました。いよいよその実現が近づいているとの期待もあります。
中国サイドでも、米国からの輸入品にかけている関税の引き下げを進める見込みです。冷凍豚肉など米国からの農産物の輸入関税が下がっていくことが期待されています。
中国にとって、米国農産物の輸入関税引き下げは、ホンネでやりたいことと考えられます。米国産に関税をかけてから、中国国内で豚肉市況などが高騰しているからです。このまま食品価格の高騰を放置すると、中国人民の不満が高まります。米国に恩を売りながら、米国からの農産物の輸入関税を引き下げることに、中国政府は前向きなはずです。
このように、部分合意をきっかけに、米中が互いに制裁関税を部分的に解除し、米中貿易が回復に向かう期待が出ることが、現時点で想定する「最善シナリオ」です。
部分合意:最悪シナリオ
米中で部分合意の前提となっている事項について、重大な「認識の相違」があることがわかり、部分合意の署名が延期されれば、ネガティブ・サプライズ(悪い驚き)となります。ただし、「軽微な認識のズレ」から、署名が短期的に延期されるだけなら、あまり問題とならないかもしれません。
それでは次に、最悪ではないものの「ネガティブ」なシナリオについて、考えます。部分合意が署名されても、それだけで終わってしまうならばネガティブです。部分合意が単なる儀式に過ぎず、対立を緩和させる具体策が何もなければ、市場は失望するでしょう。
部分合意は、「第1段階の合意」とも呼ばれています。合意が難しい懸案事項はすべて先送りしたままで、米中の懸案事項は山積しています。第1段階の合意が成立するとともに、「第2段階の合意」に向けて、新たな交渉が始まる見込みです。そこでは、合意が到底望めない難しい交渉も入ってくるでしょう。
中国が、巨額の補助金を使って世界の成長分野で一気にシェアを取る「国家資本主義」は、米国が是正を強く要求しているところです。しかし、中国政府にとって、ここは一歩も譲れない部分。中国「国家資本主義」の根幹をなす国策だからです。補助金をめぐる米中対立の構造は、今後、5年10年たっても、変わらないと考えられます。
その他、米中の覇権争いにからむ懸案事項は多岐にわたるため、「第2段階の合意」に向けた交渉が難航するのは必至です。
第1段階の合意が成立した時点で、さらなる関税の引き下げが無く、第2段階の交渉が難航し、米中両国で通商交渉への不協和音が高まることが、現在、想定される「かなりネガティブ」なシナリオです。
今晩から明日にかけて、米中部分合意についてどのような発表があるか、ポジティブ・サプライズもネガティブ・サプライズもあり得るので、目が離せません。
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