「発送電分離」4月に迫る:電力株の投資判断(下)
トウシル / 2020年2月20日 7時46分
「発送電分離」4月に迫る:電力株の投資判断(下)
電力自由化、総仕上げへ。4月に発送電分離
日本の電力自由化は、以下の工程表にしたがって、段階的に進められてきました。2020年4月に、発送電分離が実施されますが、これが20年以上かけて進められてきた電力自由化の総仕上げとなります。
◆1995年12月:電気事業法改正、発電事業を自由化→発電事業へ新規参入促進
◆2000年3月:大口需要家向け、電力小売りを自由化→大口需要家向け電力料金の引き下げを促進
◆2016年4月:電力小売りを完全自由化→一般家庭向けの電力料金引き下げを促進
◆2020年4月:発送電分離
詳しい解説は、昨日掲載した以下のレポートからお読みいただけます。
2020年2月19日「発送電分離」4月に迫る:電力株の投資判断(上)
今日はこれを踏まえて、電力株の投資判断について書きます。
電力9社に投資するのは、リスクが高い
電力株の投資判断をする際に、避けて通れないのは、原発事業のリスクについて考えることです。
結論から言うと、原発事業を保有している電力9社【注1】、すなわち、東京電力HD(9501)、中部電力(9502)、関西電力(9503)、中国電力(9504)、北陸電力(9505)、東北電力(9506)、四国電力(9507)、九州電力(9508)、北海道電力(9509)には、投資しない方がよいと判断します。
【注1】電力9社
沖縄電力(9511)は原発非保有なので、この9社に含まれません。沖縄電力は今日のレポートでの投資判断の対象外とします。
原子力発電を運営するコスト、廃炉コストとも、安全基準の強化によって、世界的に年々高くなっているからです。日本ではこれまで原発が低コスト発電とみなされてきましたが、高コスト発電に変わる可能性が高まっています。
重要な影響が及ぶのが、核燃料サイクル事業【注2】の成否です。
【注2】核燃料サイクル事業について
現在、日本は、核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業の原価を計算しています。核燃料サイクルとは、使用済み核燃料を再生してMOX燃料を作り、再び原子炉で発電に使うものです。これをプルサーマル発電といいます。さらに、そこから得られるプルトニウムを使って、高速増殖炉で発電を行う計画です。高速増殖炉では、使用するプルトニウムを上回る量のプルトニウムが得られ、何度も発電を繰り返すことができる、とされてきました。
夢のような核燃料サイクルが実現することを前提としているため、日本の電力会社は、使用済み核燃料を、資産として計上しています(燃料の再生費用は引き当て)。使用済み核燃料はプルサーマル発電や高速増殖炉で新たに発電を行うための「資源」という扱いです。
ところが、日本の核燃料サイクル事業は、現時点でまだ何も実現していません。最近になって、核燃料サイクル事業は、安全性が確保できず、実現不可能との見方が出ています。使用済み核燃料から未使用のウランやプルトニウムを取り出してMOX燃料に加工する予定であった青森県六ヶ所村の再処理工場は技術上の問題が次々と出て、完成していません。
高速増殖炉の開発も進んでいません。日本では、再処理したプルトニウムで動くはずであった高速増殖炉「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏洩事故を起こして以来、稼働が停止したまま、廃炉が決定しました。2018年から30年かけて廃炉を進める計画となっています。欧米でも技術的な困難と経済性から、高速増殖炉の開発を断念する国が増えています。
今の日本は、技術的にまったく完成のメドがたっていない核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業を推進しています。核燃料サイクルが実現することを前提に原価を計算するので、原発は低コスト発電で、再稼動が電力会社の財務を改善するとされています。
ところが、日本政府が核燃料サイクルを断念する場合、国内に積み上がった使用済み核燃料は、最終処分に莫大なコストがかかる「核のゴミ」に変わります。そうなると、原発はきわめてコストの高い発電となります。既に大量に抱えている使用済み核燃料の最終処分コスト負担によって、電力会社の財務が悪化する懸念もあります。
<参考資料>使用済み核燃料の処分方法(核燃料サイクルを行う場合と、行わない場合)
(図A)核燃料サイクルを行わない場合:使用済み核燃料を直接処分
(図B)核燃料サイクルを行う場合:プルサーマル発電まで
(図C)核燃料サイクルを行う場合:高速増殖炉まで
電力株の投資判断
原発事業について、不透明材料が残っていることを考えると、現時点で、原発事業を有する電力会社に投資するのはリスクが高く、投資は避けた方がよいと思います。
そんな日本の電力会社ですが、原発事業のリスクから解放されれば、高く評価できます。日本は、送配電ロスが5%しかない、極めて高効率の送配電網を維持しています。送配電にかかる高い技術力は注目に値します。高圧交流送電では、世界トップとなる技術を有します。
日本の電力会社が持つ、高い発送電技術は、今後、新興国に輸出していく価値があります。ところが、原発事業のリスクに縛られて、思うような海外での事業展開ができなくなっています。とても、残念なことだと考えています。
2020年「発送電分離」後の、「送配電会社」に注目
日本では、電力自由化が進められています。既に、発電事業・電力小売事業への参入は自由化されているので、東京ガス(9531)・大阪ガス(9532)など異業種から、参入が相次いでいます。
電力自由化の仕上げとして、4月に発送電分離が行われます。既存の電力大手が、発電会社・送配電会社・電力小売会社に分割されます。東京電力HD(9501)は、その準備として、既に、3事業を社内分社しています。
分割されることで、電力会社が弱体化すると考える人もいますが、私は、逆だと考えています。既存の電力大手から、原発事業が分離されるならば、残った事業が、息を吹き返す可能性があります。
特に注目しているのは、送配電会社です。先に述べたとおり、日本は、送配電で世界トップクラスの技術力を有しています。世界には、非効率な電力網がたくさんあり、日本の技術の貢献余地は大きいと考えられます。東京電力は、福島原発事故を起こす前、この技術を積極的に輸出しようとしていました。それが、原発事故によって頓挫した経緯があります。
原発事故の補償を、国の責任で完全に行うことが前提となりますが、送配電事業が、原発事業と完全に資本分離されるならば、投資妙味の高い会社になる可能性があります。
ただ、発送電分離がどのような形で行われるか、細部はまだ分かりません。送配電会社に、原発事業との資本的なつながりが残るならば、投資はむずかしいとの判断になります。4月に行われる発送電分離がどういう形になるか、具体的な中身が決まるのに、注目したいと思います。
(参考)未来のエネルギー源として、人類は何に頼ったら良いか?
人類は今、主要なエネルギー源を、化石燃料(原油・天然ガス・石炭)に依存しています。ところが、今のペースで化石燃料を使い続けたら、数百年以内に、資源が枯渇する可能性があります。そのために、代替エネルギーの開発が必要となっています。
主要な代替エネルギー源として、以下3つがあります。
【1】太陽由来のエネルギーを活用
【2】地球内部にあるエネルギーを活用
【3】核エネルギーを活用
【1】【2】【3】のどれ1つとっても、人間がとても使いきれない莫大なエネルギー量があります。それを人間が使いやすい電気に上手く変えれば良いわけです。ただし、コスト・利便性・安全性すべてを満たし、化石燃料にとって代わることのできる方法が、現時点で見つかっていません。結果的に、化石燃料への依存が続いています。
以下、それぞれ簡単に現状を説明します。
【1】太陽由来のエネルギーを活用
太陽光、風力、水力、潮力などのいわゆる自然エネルギーの活用が進められています。これらはすべて、本をただすとほとんど太陽由来のエネルギーです。
太陽から地球まで、毎日、人間が使いきれない莫大なエネルギーが届いています。そのエネルギーはほとんど地球にとどまらず、宇宙に放出されます。このエネルギーのほんの一部だけでも上手く捕らえて人類が利用できるようにすれば、今あるエネルギー問題はすべて解決します。
ところが、太陽から来るエネルギーは、地球上に広く薄く拡散しているため、それを集めて効率良く発電する方法を見つけるのが簡単ではありません。太陽光発電や太陽熱発電は、太陽エネルギーを直接捕らえる方法ですが、それだけではとても人類が使うエネルギーに足りません。
そこで、太陽エネルギーによって生まれる風力・水力・潮力などを使って、大量の電力を得ることも必要になっています。水力を除けば、自然エネルギーを使った発電は高コストのものが多く、補助金無しには普及が進みませんでした。ところが、近年、技術革新によって急速にコストが低下しています。太陽光発電を使ったメガソーラーなど、補助金無しでも、競争力のある自然エネルギーが増えてきています。
【2】地球内部にあるエネルギーを活用
地球内部にも、人類が使いきれない莫大なエネルギーがあります。地球内部へ30キロメートルも掘り進むと、高温のマントルに突き当たります。そこから内側は非常に高温です。地球全体を見渡すと、温度が低いのは私たちが生活している地表(地殻)だけということが分かります。そのエネルギーをうまく活用することも必要です。
地球内部のエネルギーで発電することにチャレンジしているのが、高温岩体発電です。地球上どこでも、平均すると地下10キロメートルまで掘れば、300度Cくらいの高温帯に達します。そこへ水を送り込んで水蒸気に変え、その蒸気でタービンを回せば発電できます。ただし、そこまで深く掘り進んで、水を送り込むには大変なコストがかかります。現時点では、技術的にもコスト面でも、商業利用が可能な発電方法となっていません。
地球内部のエネルギー活用で、すでに商業利用が可能な低コスト発電が、いわゆる「地熱発電」です。火山地帯などで、地下水が熱せられて水蒸気になり、地下2~3キロメートルの深さに閉じ込められている場所を、地熱資源と言います。そこから水蒸気を噴き出させ、その力を使って発電するのが、地熱発電です。良質の地熱資源が見つかれば、低コストの基盤電源として利用可能です。ただし、そのような地熱資源は、世界に遍在しています。日本・インドネシア・米国が、三大地熱資源国と言われています。良質な地熱資源は遍在しており、それだけ使っていても、人類が使うエネルギーは賄えません。
将来的には、地球内部を20~30キロメートル掘り進む、高温岩体発電を主流にしていく必要があります。
【3】核エネルギーを活用
ウランから核エネルギーを取り出して発電するのが、原子力発電です。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して行う「プルトニウム発電」まで安全に行うことができれば、莫大なエネルギー量を確保できます。
ただし、核エネルギーの利用には、さまざまな危険が伴います。最終的に残る「核燃料廃棄物」の保管にも、莫大なコストがかかります。安全性と経済性の両面から、人類が永続的に使っていくエネルギーとするのは、困難と考えられます。
それでも、私は、未来のエネルギー問題について、楽観的です。化石燃料が枯渇する前に、人類は太陽エネルギーや地球内部のエネルギーを使った「エネルギー循環社会」を構築することができると、考えているからです。
近年、代替エネルギーの開発が滞っているのは、安価な化石燃料が大量に存在する現状が変わらないからです。米国でシェールガス・オイルの生産が急拡大し、2015年に原油・ガス価格が急落した影響が大きいと言えます。
1970年代には、「あと30年で地球上の石油資源は枯渇する」と言われたこともあります。ただし、それは誤りでした。その後、採掘可能な石油・ガスの埋蔵量は大幅に増加しました。採掘技術の進歩により、従来採掘が不可能と思われていた深海やシェール層の原油・ガスまで採掘できるようになったことが影響しています。
日本の近海にも、メタンハイドレートと言われるエネルギー資源が大量に眠っていることが分かっています。メタンハイドレートはメタンが氷状になったもので、燃える氷ともいわれます。採掘コストが高いので商業利用は進んでいませんが、将来、技術革新が進めば、利用可能になる可能性もあります。
このように、化石燃料の可採年数は、年々伸びる一方で、なかなか資源の限界が見えません。数百年は、化石燃料への依存が続く可能性があると思います。ただ、その先を見据えて、自然エネルギーの活用技術もどんどん進歩していくと予想しています。
(窪田 真之)
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