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政治の「右」と「左」。右派が台頭しつつある欧州

トウシル / 2017年9月27日 15時30分

政治の「右」と「左」。右派が台頭しつつある欧州

政治の「右」と「左」。右派が台頭しつつある欧州

政治の「右」と「左」

 9月24日に行われたドイツの総選挙はメルケル首相の勝利に終わりましたが、苦難の始まりを予感させる勝利でした。

 メルケル首相率いるCDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)は第1党の座を維持しましたが、得票率は前回選挙時の41.5%を大幅に下回る33.0%となりました。これは第2次世界大戦後に行われた総選挙の中でも、政権政党として最低の得票率となります。

 また、これまでの連立政権を組んでいたSPD(社会民主党)は第2党の地位を維持しましたが、議席数を大きく減らし、SPDはCDU・CSUとの連立を解消する方針を示しました。

 一方で、難民受け入れ反対を主張する右派AfD(ドイツのための選択肢)は初めて議席を獲得。しかも、第3党となる躍進ぶりを見せました。

 この結果を受けて、週明け東京市場では連立交渉難航とAfDの躍進が嫌気されてユーロは売られ、翌日にもなっても売られ続けました。今回の選挙については、メルケル首相の圧勝はないとしても、大勝との見方が多かったことや、予想以上に右派の台頭が著しかったことから、マーケットではユーロ売り圧力になったようです。

 ところで「右派」と「左派」とはどういう意味か、ご存じでしょうか。この「右」や「左」は、政治的立場を位置づけたり、思想傾向を表します。

 辞書によると、「右」=「保守的・国粋的」、「左」=「急進的・革命的」との説明となっています。

 語源をたどると、1789年に始まるフランス革命期に開かれた議会の議席にさかのぼります。議席は鳥の翼のように左右に広がっていました。そして絶対的な王権政治から、議会を重視する民主政治へ転換する歴史的事件の中において、徐々に思想対立していった議会では、それぞれの議員たちが左右に分かれて座りました。

 議長席から見て右側に貴族や僧侶など、国王の拒否権などの特権を従来どおり維持しようという思想の議員たちが座りました。こうした保守派のことを「右派」とか「右翼」と呼びました。

 他方、左側に陣取ったのは平民を主とする議員たちです。彼らは、従来の国王の権力を制限しよう、あるいは奪おうという急進的な考えの人たちです。こうした急進派やリベラルの思想の人たちを「左派」とか「左翼」と呼ぶようになりました。

 これが現代でも、自国や伝統を重んじる「右派」、自由・平等を強調する「左派」の思想につながるのです。

 また、「中道」とは、右派でも左派でもないという意味合いですが、そこに「右派」という言葉がくっついて、「中道右派」という呼び方があります。ややこしく聞こえますが、中道右派は穏健な右派、「中道左派」は穏健な左派と、まずはシンプルに理解したほうがよいでしょう。

 それ以外は政党の政策によって分類されていますが、メルケル首相率いるCDU・CSUは中道右派と呼ばれています。

 一方、難民受け入れ反対・自国第一を主張するAfDは右派と呼ばれています。

 

2大政党の退潮と右派AfDの大躍進

 今後のドイツの政局動向を見極めるためにも、まずは前回(2013年)と今回の選挙による議席数と得票率を下表に紹介します。

ドイツ連邦議会選挙の獲得議席数と得票率(2017年と2013年の比較)

注:CDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)、SPD(社会民主党)、AfD(ドイツのための選択肢)、FDP(自由民主党)

 前回選挙と比較してみると、第1党CDU・CSUと第3党SPDの議席大幅減と第3党AfDと第4党FDPの大躍進が一目瞭然です。ドイツの選挙制度では、投票率が5%以上にならない政党には議席を与えないという条件があるため、議席を得られなかった前回2013年から、AfDもFDPも大躍進しました。AfDは初議席獲得、FDPは4年ぶりの議会復帰となりました。

 今回の選挙は「退屈な選挙」と言われていましたが、ふたを開けてみると、ドイツ政局が転換期に入り始めているということがわかる結果となりました。

 つまり、次のようにまとめられます。

(1)これまでの2大政党CDU・CSUとSPDの退潮

→獲得議席の減少率で見ると、CDU・CSU、SPDとも20%強の減少となり、かなりの痛手

(2)多党化傾向 

→2大政党以外の中堅4党の得票率は4割を超え、前回の2倍近くの投票率となった
→ 旧東独の共産主義独裁政党の流れをくむ左派党とAfD、つまり急進左派と極右の得票率が2割を超え、社会の分断を象徴する結果となった

(3)右派政党AfDが初議席を獲得し大躍進

→旧西独地域では10%強の得票率だったが、旧東独地域では得票率は20%を超え、  SPDを上回る第2勢力となった。さらに旧東独のザクセン州に限れば、得票率27%で第1党になった

 この結果の背景について、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、「メルケル首相の難民政策に不安を抱く国民の増加」と分析し、「ニューヨーク・タイムズ」は「移民政策に対する国民の怒りを表している」と指摘しています。従って「メルケル首相は、移民政策を転換し、国境の監視強化などをするのではないか」との見方を伝えています。

 このことから、難民に寛容だったメルケル首相の方針が今後どのように変わるのか注目です。

  しかし、その前に連立政権を立てるという難題が待っています。

 前回連立したSPDは、選挙後いち早く連立を解消するという方針を示しました。メルケル首相はAfDとの連立を組む可能性を排除していることから、FDPと同盟90/緑の党との連立交渉になる可能性が高そうです。とはいえ、これら2党は環境規制や財政規律などの政策は異なっているため、連立交渉は難航しそうです。

 

揺り戻す欧州政治の潮流

 昨秋のトランプ大統領の誕生とともに、右派ポピュリズム(大衆迎合主義)の勢いが増し、今年初めからの欧州選挙では政局が不安定になる結果になるのではとの懸念が高まりました。しかしその後、トランプ大統領の行動に対する反動から、オランダ、フランスの選挙では、右派ポピュリズムに陰りが見られ、欧州は政治的安定を取り戻しました。

 ところが今回のドイツの選挙は、右派ポピュリズム的政治傾向は一過性のものではなく、根深いことが思い知らされることになりました。極右の台頭は引き続き欧州政治の波乱要因であり、EU(欧州連合)統合への悪影響も予想されます。

 さらに、連立政権交渉も長引くほど、さまざまな面で影響が表れそうです。たとえば、難民問題、EUと英国との離脱交渉(英国にとってはマイナス)、マクロン仏大統領が提唱するユーロ圏共通予算などのEU改革などが、盟主ドイツの政権が盤石になるまでは遅れる可能性があります。

 これらは、ユーロやポンドにジワリジワリと影響する可能性があるため、ドイツの政局動向は、今後の為替相場シナリオを考えていく上でも、注目していく必要があります。

(ハッサク)

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