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第一章 何を買えばいいの?

トウシル / 2014年12月30日 0時0分

第一章 何を買えばいいの?

第一章 何を買えばいいの?

何を買えばいいの?

私は仕事柄「何を買えば良いですかね?」という質問を、しょっちゅう受けます。これは投資家が知りたい究極の質問かも知れません。

私の経験では、良い会社というものは、必ず存在します。そして良い会社の株は、だいたい常に「買い」です。でも、ときどき人気が出過ぎて、べらぼうな高値で取引されている場合があります。

その場合は、例外的に「買い」ではありません。だから良い会社と良い投資機会は、時として一致しないことがあります。

良い会社の株はだいたい常に「買い」。

でも、例外的に手を出しては

いけない局面もある

まず良い会社を探せ!

良い会社は、上に述べたように極端に割高に買われてしまっている場合を除き、良い投資対象です。すると……良い株に投資するには、まず良い会社を探す必要があります。

良い会社を過去の業績から定義することは可能です。でも難しい数字の議論に入る前に、ここでは「どんな会社が、良い会社に育ってゆくのか?」という問題について論じます。

良い会社に育つ可能性を持つ企業とは、その会社の製品やサービスが、熱烈に、ないしは切実に必要とされているような企業です。

良い会社に育つ可能性を持つ企業とは、

その会社の製品やサービスが、

熱烈に、ないしは切実に

必要とされているような企業

そういうと難しく聞こえるかも知れませんが、実例は我々の身の回りにゴロゴロ転がっています。

ユーザーは既に良いモノを知っている!

例えば皆さんがiPhoneを手にしたとします。手に持ったときの質感、作りの精緻さ、シンプルで無駄のない美しさ……もしそこにワクワクするものを感じたなら、きっとその製品は良いモノにちがいありません。

言い換えれば、皆さんは、製品やサービスを通じて、すでにその企業のことについて多くを知っているのです。だから投資に際しては「このブランド、好き!」というような直感を大切にしてください。

ユーザー目線で得られる

洞察(どうさつ)は、

投資の原点であり、貴重

魅力的な商品やサービスは、人気が出ます。つまり「売れる」ということです。それは良い業績につながります。

でもこれだけでは良い会社とは言えません。良い会社に育つ「可能性を持っている」のと、実際に良い会社に伸びるのとでは、雲泥の差があるのです。

良い会社になるためには、上で述べたような成功を、何度でも、繰り返し実現できることが必要なのです。

成功を、何度も繰り返し再現できるか?

これが良い企業になれるか

どうかの分かれ目

そういう成功の積み重ねの結果が、他社に比べてひときわ輝く業績として、決算書類の上に動かぬ証拠を残してゆくというわけです。

「終了」しかかったスタバがカムバックした理由

スターバックスは世界で愛されているブランドですが、2008年から2009年にかけて「これは、やばい……」という危機に直面しました。急速に拡大しすぎた反動で、既存店売上比較が低迷しはじめたのです。

既存店売上比較とは、開店してから1年以上経過しているお店の売上高が、去年に比べてどうだったか? という尺度です。これは小売店やレストランの経営の健全性を測る重要な指標です。

これは突然、成功が繰り返し再現できなくなってしまったケースとして、とても興味をそそる例です。

スターバックスの既存店売上比較がどんどん悪化する様子を見て「そろそろスタバも終了だな」という陰口を叩く業界関係者が出ました。

投資家は、連日安値を更新する株価に神経をすり減らしました。

当時経営の第一線を退いていたハワード・シュルツは、急いでCEOに復帰し、経営立て直しの糸口を模索するためスターバックスの店舗を片っ端から視察して回り(どこで間違えてしまったのだろう?)と思案します。

その時、「ちょっと待て、コーヒー店なのに、店内にコーヒーの香りが充満してないじゃないか!」ということに気がつきます。

当時のスターバックスは、効率を追求するあまり、コーヒーの香りすら立たないマシンを導入してしまっていたのです。いつの間にかスターバックスは「コーヒーを楽しむ処」から「効率よく注文をさばく組立ライン」のような無機質な存在に変わってしまったのです。

そこでシュルツCEOは「コーヒーのロマンを取り戻せ!」と大号令をかけて、僅か2年足らずでスターバックスの業績を立て直します。

皆さんは2008年から2009年にかけて、スターバックスを利用していましたか? ひょっとして、スターバックスに一時あきていたということは、ありませんか? もしそうだとすれば、それはスターバックスがスランプに陥っていた時だったからかも知れません。

繰り返しになりますが、株でたいせつなのは、そういう何でもない日常から得られる洞察なのです。

あなたが最後にSONY製品を買ったのは、何年前ですか?

たいていの投資家は「僕は日本人だから、日本株しか投資しない」という主義です。これはみずから良い会社への投資機会をぐっと減らしてしまう、残念な先入観です。なぜなら世界には良い会社がいっぱいあり、何も日本だけに投資対象を限定する理由はどこにもないからです。

一例として、「MADE IN JAPAN」の代表格であるSONY製品を、あなたが最後に買ったのは、何年前ですか?

若し皆さんが最後にSONY製品を買った年を思い出せないのなら、たぶんソニーはここ数年、ユーザーが熱烈に、ないしは切実に欲しがるような製品を作って来なかったのだと思います。

また、これはSONYが成功を繰り返し実現できる企業ではなくなったことを意味します。

スターバックスがスランプに陥った際、ハワード・シュルツCEOが見せたような気迫を、いまのSONYの経営陣は持っているでしょうか?

良い企業や良いブランドには、国籍はありません。それが証拠に「俺は日本人だ。だから外来ブランドであるスターバックスに行くのはムカつく」という人は少ないと思います。

むしろ我々は、限られたお小遣いの中から、ラテを買い、スマホを選ぶのだから、それらを買うたびに、最も自分に満足を与えてくれる製品やサービスを選ぶと思うのです。それは日常の些細な行動を通じて、企業の製品やサービスを支持すると絶え間なく「投票」しているのと同じです。

株式投資も、ある企業の株を買うということを通じて、その企業への支持を表明しているわけですから、これもひとつの投票行動です。スマホを選ぶときは、とてもブランドにうるさいくせに、株になると理屈で説明できない「おしょうゆ投資家」になるのは、一体、なぜですかね?

くどいようですが、ユーザーの立場からの「投票」と、投資家としての「投票」が全くチグハグではおかしいです。

良い会社の株なら、必ず上がる?

さて、良い会社の株は、ほとんどの場合、「買い」だと書きましたが、稀に良い会社と良い投資機会が一致しないときがあります。これはマーケットで起こっていることが、現実のビジネス社会で起きていることと、時としてズレることから生じる問題です。

これを説明するためには、まず株式市場では、どのように売り買いが成立するのか? ということから掘り起こす必要があります。

一般に、株式は取引所で取引されます。最近は、そうではないケースがどんどん増えているのですけど、先ず基本をおさえるという意味で、ここではニューヨーク証券取引所(NYSE)の例で説明します。

皆さんがテレビのニュースで見かける取引所の内部の様子は、立会場と呼ばれる場所です。

立会場には世界中から「この株を売りたい」、「あの株を買ってくれ」という注文が集まってきます。この売りのニーズと買いのニーズをマッチさせるのが、取引所なのです。

株価が動くメカニズム

さて、売買が成立するためには、ある値段で「売りたい」という人の株数と、同じ値段で「買いたい」という人の株数が同じである必要があります。よく「株式市場では、売り手の株数と買い手の株数は常に同じだ」ということが言われるのは、このためです。

ただ、実際には、ある値段でピッタリ売り株数と買い株数が一致することは稀で、買い手の方が売り手より多い、逆に売り手の方が買い手の方より多いということは常に起こっています。

若し買い手が沢山居て、売り手が少なければ、「どうしてもこの株を買いたい」と思う投資家は、他の買い手より自分の方が先に、確実にその株を手に入れるため、他の投資家より高い値段を積極的に提示する必要があります。

そういう、急いでいる投資家が値段を吊り上げるから、株価が上がるのです。別の言い方をすれば、買い手の方が売り手より多いというミスマッチを解消するためには、値段を上げる必要があるのです。

次に「売りたい」という人が多い場合は、上の説明の全く逆が起こります。すなわち、一刻も早くこの株を処分したいと思う投資家は、他の売り手より不利な値段、つまり安い値段でも構わないからこの株を売ることに同意するわけです。これが株価の下がるメカニズムです。

「株価の先見性」って何?

アップルを例に取ると、ユーザーが皆、iPhoneに満足し、(この会社は良い会社だから、この株はずっと持っていたい)と願えば、誰も売ろうとしないので、売り物は少なくなります。その一方で、新しいアップル・ファンはどんどん増えるわけですから、アップル株の買い手は多くなります。株価が上がるのは、こういう時です。

新しいiPhoneが発表されるたびにアップル・ストアの前に行列が出来て、過去の売り上げ記録が更新される……このようなパターンが何度も繰り返されると、ユーザーや投資家は(次も、当然、前回よりもっと大きくなるぞ)と考えます。このような心の動きを金融用語では期待といいます。

そういう期待を誰もが抱く以上、まごまごしていたらアップルの株を買いそびれてしまいます。このため見切り発車で、実際に次の新製品が未だ出ていないうちから、先回りした買い注文がアップル株に入るわけです。このような過程を「好材料を織り込みつつある」という風に形容します。

つまりある企業の株価が上がる根底には、その会社の製品やサービスが熱烈に、ないしは切実に必要とされることがあるわけですが、実際の株価は、そういう製品やサービスが出てくることを期待し、先回りしてそれを織り込もうとする投資家によって価格形成されてゆくというわけです。

株価の裏付けとなるものが

業績であることには間違いはないが、

実際の株価は投資家の期待に基づき、

先回りしてそれを織り込もうとする

折角、前評判通りエキサイティングな新製品が発表され、あるいは素晴らしい決算が出たにもかかわらず、その瞬間には株価が反落してしまうケースが多いです。すでに株式投資の経験を積んだ先輩投資家は「これは材料出尽くしだ」という、何だか底意地の悪い説明をします。

視点を変えれば、それは実際の良い材料より株価が先に反応することに他ならないわけで、このことを市場参加者は「株価の先見性」と呼んでいます。

株価に先見性があるということは、マーケットで起こることは実際のビジネス社会で起こることより一歩先行していることを意味します。これがズレの生じる主因です。

「株式投資が上達する」ってどういうこと?

上に述べたように「株価の先見性」という特徴は、良いニュースが出たときに売ろうとするアマノジャクをゾロゾロ量産してしまうという副作用をもたらします。これはかなり厄介な問題で、初心者がやる気を失ってしまう原因のひとつだと言っても過言では無いでしょう。

ハッキリ言って、この問題は株式ファンにとって永遠のテーマです。逆に言えば期待という気まぐれな現象こそが、株式投資を深みのあるものにしているのであり、醍醐味であるとすら言えます。

期待という気まぐれな現象が、

株式投資を深みのあるものにしている。

これが株式投資の醍醐味

「株式投資の上達」とは、つまりこの期待のあしらい方が上手くなるということに他なりません。そのためには今、投資家の期待はどのくらい高まっており、何を手掛かりにそのような期待が形成されているかを理解する必要があります。

(広瀬 隆雄)

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